空色教室
わちお
1時間目 まずは元気に「おはようございます!」
「あぁぁぁぁ!!やばいやばいやばい!!遅刻する!」
「言っとくけどお前のせいだぞ」
大慌てで通学路を走る
「先行ってくれればよかったのに」
そう言い返す翔に翼は苦々しい顔をしながら
「いや、一人で行くの、なんか嫌だし」
と返した。
「お前、ほんっと独り耐性ないよな」
「うるせえよ、そもそもお前が遅刻しなけりゃ済んだ話だろ」
「悪かったって!てか、今日の校門指導誰だ?」
「武岡」
「うん、詰んだな」
よりにもよって学校最恐が立ちはだかっていようとは。
運に見放されたものだ。
「こうなったらサッカーで鍛えた足を…」
「おい、まさか置いてく気かよ」
翔はサッカー部に入っている。
しかも部の中でも、屈指の足の速さを誇るそうだ。
「いいから、ついてこい!」
「遅れといてなんでそんな勝手なんだ…」
足の回転と心臓の鼓動がぐんぐんと加速していく。
前へ前へと吹き抜ける風をも追い越しながら、二人はただがむしゃらに駆け抜けていった。
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「間に…あった…?」
肩で息をしながら、翔に向けて、というわけでもなくつぶやく。
「全っ然間に合ってないよ?」
じゃあなんでそんなにけろっとしていられるんだよ、と言いたくなったが、過呼吸でそんなことを言う気力もなかった。
制服の薄手のワイシャツを着る背中に滲んだ汗が気持ち悪い。
こんな真夏の朝から走るなんて最悪だ。
「あそこだ、武岡」
「ほんとだ、仁王立ちしてる。弁慶かよ」
「矢は刺さってないけどな、ってそんなことどうでもいい。もうこうなったらなるべく平静を装ってあの門を通過するんだ」
「おう…」
そうして、翼と翔は『いつも通り』歩いていく。
武岡との距離は一歩、また一歩と少しづつ縮まっていく。
これは…本当に行けるかもしれない。
目に映る武岡の姿が少しづつ大きくなっていく。それに比例して自分の心拍音も大きくなっていくような気がした。
ごくりと息をのんだ。これは…いける。
そしてついに武岡の横を通り過ぎ
「入れると思うなよてめえらコラ…」
ですよね。
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吹き抜けた風が汗だくな二人の体を冷やして通り過ぎる。
「なぁおい、今何時だよ、時計読めねぇわけねぇよな?」
全く、やってしまった、なんと恐ろしい形相だろう。
また、野球部の監督として地域では有名であり、他校の生徒に
「千隼高校です」
というと、
「あ、あの武岡の…」
と、返されることもざらにあるほどだ。
また、千隼の野球部員は全員が武岡の車のナンバーを言えるらしい、がこれは都市伝説だ。
正直俺は恐怖で足がすくむレベルだったが、翔はどうしてこんなにへらへらしていられるのだろうか。
隣でともに説教を受ける翔はさっきからずっと頭の後ろを掻きながら
「いやぁ…間に合うと思ったんすけどねぇ…はは」
なんて調子だ。
相手は武岡だというのに、こいつはすごい奴だ。誰に対しても同じように接するんだから。
しかし武岡はお構いなしに言葉の槍を飛ばしてくる。
「まず、お前ら言うことあんだろ」
遠くのほうでチャイムが鳴った。
校舎はすぐそこにあるのに、なんだか音がすごく遠い。
「遅れてすいません!」
「すいません」
そういえば謝罪を忘れていた、しまった。
そう思って2人そろって頭を下げる。
「違ぇよ!まずは『おはようございます』だろうが!!」
「そっちかよ…」
「あ?」
「あ」
やってしまった…なんてことを口走ってしまったのだろうか。
隣で翔が顔を真っ赤にして笑いを堪えている。
そして目の前で武岡が顔を真っ赤にしてこちらを睨んでいる。
あぁ、長い一日になりそうだ…。
再び吹き抜けた風が俺の体を更に冷たくしていった。
スタートは最悪、しかしそれでもこれから楽しくなるだろう。
無限に広がる青空の下で、今日も制服をまとった青春が舞う音がする。
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