第三章 9
(大廊下)
八戒 あーあ、夜もすっかり遅いというのに、腹の虫は目が冴えているらしい。どこかに夕餉の残り物でも……、おや、あんなところで眠っているのは……? あの王子様、ハムレット殿じゃないか?
しかも、あにきの僧服を羽織って、頭の輪っかまで嵌めちゃって。これは(服を脱がせながら)あにきの大切なものだからなあ、おいらが持って行って、返しておくよ。
(しばらく歩く)
……ん、何かこの、匂いが(と嗅いでみる)……、これはどうも、急にものを食べたい気が失せてきた……、何だか頭がクラクラして……(その場に倒れる)。
(オフィーリア、通りかかる)
オフィーリア まったく、お父様はこんな時刻になっても戻られないし、またどこかでお酒を飲んでるに違いないわ。毎晩のことながら、どうせ今ごろは誰かと肩を組んで外交だの演劇だの、もう舌が回らなくなって、言葉も出てこないくらい、へべれけになっているんでしょうね。
あら、まあ。こんなところに豚の役者さんが。この方もお酒を飲み過ぎたのかしらね。ぐっすり眠りこんで、動かしようもないし、重そうだし。
あら、このお尻のあたり、窮屈そうな尻尾がクルリと、丸まっていて(触ってみる)……何だかブヨブヨして……(引っ張る)、ああ、食べてしまいたい。
しかしこの、僧服と金の輪、あの大猿役の方の衣装ではないかしら。たしか地下の方のお部屋にいらっしゃるのだわ。ここからそう遠くもなし、これだけは大事そうですし、持って行っておいてあげましょうね。
……この、簡素な服が何だか素敵なのよね。お父様のおっしゃる通り、華美なお洋服はいけないもの。
何やらこの、匂いがする……。
(と、顔を埋めるようにして嗅ぐ)
まあ、何とも言えない独特の残り香、これは何かしら。このお部屋、ノックするのも恥ずかしいし、そっとここに服と輪を置いておきましょうね。おやすみなさい。
(オフィーリアは去り、沙悟浄、置いてあるものを見つける)
沙悟浄 おや、これはあにきの服と輪っかだな。こんなところに置いておくはずがないが、どうも様子がおかしい。まあ、盗まれたのか勘違いされたのか、誰かが持ってきてくれたものか。
それにしても、八戒の奴はどこへ出歩いているんだろう。お師匠様はあにきに付きっきりで、飲まず食わず、もう遅い時間だというのに、ウトウトしながらもお経を唱えっぱなしだ。
たまには間違えて、輪っかを締め付ける文句を唱えることだってあるからなあ。
まったく、あっちもこっちも何が起こっているのやら。これでは復讐どころではない、しばらくは身動きがとれないぞ。少し頭を冷やして、考えを練らなければな。
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