転生者に買われました。  ー私の日常、日々是苦労ー

温羅一

序章

第1話 売られる

「ん?んん?んんん?マーグリッド商会長あの娘っていくらになります?」


3度見されて指を刺されいきなり値段を聞かれるとは思わなかった。

どうしてこうなってしまったの・・・


私サニスティ・レタ・マリア・ユーマロス=フォンリールは数ヵ月前まではユーマロス皇国の第一皇女だった。

代々女性しか生まれない家系であるユーマロス皇室はこの世界で成人である15歳になると皇都ユーマロスから大地を司るフォンリール神の大聖堂へ巡礼をし、1年ほど修行する習わしがあります。

国の中央に位置するムレ・リュカシ霊山の中ほどにあるフォンリール大聖堂へは、この世界のフォンリール神殿の総本山になります。

私も新年を迎え15歳になった寒さの残る上春の月に儀仗兵20騎と共に馬車でフォンリール大聖堂へ向かっていました。

途中にある神殿がない全ての村へ慰撫と教導を行いながら進むので普段よりも日程がかかり片道10日ほどの行程です。

順調に見えたその巡礼、しかし9日目に私にとっての悲劇は起こりました。


ムレ・リュカシ霊山の麓から森を抜け順調に馬車で上っている途中で急に馬車の車軸が折れて立ち往生しました。私は馬車の状態の確認と修理の為に外へ出て少し肌寒い中皆が作業する様子を眺めていました。

その時突如森の中から野盗が襲ってきました。

数は判りませんでしたが此方の護衛の儀仗兵よりも多く感じました。

怒号や喧噪の声に私は怖くてパニックになり頭を手で覆うようにしゃがんで縮こまっていました。


「皇女ここから馬で逃げますのでこちらへ」


騎士の一人に馬の鞍のない後ろの部分へ乗せられ、騎士もすぐ馬に乗り馬を駆けさせました。

この時には不思議に思いませんでしたが何故か来た道でなく野盗が出てきた森の中へ入っていきました。

私は振り落とされないように騎士の鎧に手を回し、目を瞑って必死にしがみ付いていました。

どの位時間がたったか判りませんが。急に騎士が馬を止め、

「もう大丈夫ですよ」と言われました。


安心して手を解き、周りをみると10数メートルはあろう断崖の側でした。

私が疑問を言うよりも早く、「恨むなら父親を恨むんだな」と言われ

断崖へ突き落されました。



そうおかしかったのです、皇都から霊山への道中に野盗がでるということが、

丁度都合よく馬車の車軸が壊れるということが、

無限とも思える落下時間が過ぎると私は水面に打ち付けられ、川の水流に飲まれ意識を失いました。



次に目覚めたときは牢の中でした。

丸い椅子に座って半分寝ていそうな薄汚れて小汚い恰好の男の人へ

「ここはどこですか?」と尋ねました。

男の人は体をビクッとさせたあと通路の方へ


「お頭へ、女が目をさましたって伝えてくれ」


とこっちの質問には答えずに大声で叫びました。

ドタドタという早足で数人の男たちが来ました。

真ん中のガタイのいいひげ面の男が「嬢ちゃん、目が覚めたか」と言い。


「ここはバイロン大森林だ。俺たちはオーガの牙って山賊をやってるが、嬢ちゃんは恰好から修道女で間違いないか?」


と聞かれました。

私は巡礼のためドレスではなくスカプラリオを着ていたため修道女と思われているようだと感じました。


「修道女であれば解放していただけますか?」と問いかけました。


「いや、それは出来ねぇが、それなら川を流れて来ていたのを俺たちがたまたま見つけたのも神のお導きってやつだ。」


と少しお道化たように言い、続けて


「修道女であれば生娘だろう?正直に答えろよ、ここでの扱いが変わるからな」

とドスの利いた声で聞いてきました。


「生娘でなければどうなるというのですか?」流石に怯えを隠せない震えた声で逆に問いかけました。


「別に生娘でないなら、ここで俺らの相手をしてもらった後に奴隷商人に売り払う、生娘ならその年齢だと値段が倍以上違うから、そのまま売り払う。それだけの違いだ」


「・・・男性との経験はないとフォンリール神に誓って宣誓します。」


売られるという事実にショックを受けましたが、問かけには正直に答えました。

一般的に神に仕える者が神の名において宣誓したことが嘘だった場合、死後の世界へ行くことができず神の許しを得るまで現世を彷徨うとされているため、この宣誓で信じて貰えるはずです。


「ほう、その恰好はフォンリールか。まぁ俺達には関係ないがな。・・・明日出発して近くの街まで行く、伝手のある奴隷商人に高く売りつけなきゃダメだからな、道中逃げるなよ?逃げなきゃ飯なんかもちゃんとやる。逃げたら足をへし折ってでも連れていくからな。流石に骨折は修道女じゃ治せないだろ?」


と足を折ったりすることを本気ですることを伝えてきます。


「青から赤に変わってる珍しい髪、金目ときたら高値で売れること間違いないからな、お前らきっちり見張ってろよ」そう言って踵を返して去っていきました。


途中で「お前ら奥の女に手をだすなよ。だしたら殺すだけじゃ物足りないくらいの事をしてやる。その代わりにあの女を売り払ったら全員娼館へ連れてってやるから我慢しろ」と何度も繰り返して言っていました。


私は群青色から毛先にかけて紅梅色に変わっていく髪に金色の瞳で女皇であるお母さまには似ていないけれど珍しい髪色をしています。身長は150cm強で容姿もかなり整っている自覚があります。

この容姿のお陰で乱暴されないのは安堵しましたが、奴隷として売られるのは避けられないようです。その日は固い地面に横になって事態が好転するようお祈りをして寝ました。



次の日手に縄をかけられ2日ほどかけて街へ連れて行かれました。

途中で来ていた服を脱いで着替えるように指示されました。

普段から使ってるの様子の大きな木の木のうろの中で着替えをしました。

山賊のリーダーを含め見張りが4人もこちらを見ていて絶対に逃がさないという感じを受けてました。

そこから街道まで行くと足にも縄をさせられ猿ぐつわもされた状態で荷車に乗せられました。そして上に魔獣の毛皮などを載せて、私を覆って見えなくしました。

そうして街へ入り、どこかの建物の裏口へ荷車が止まり降ろされました。


建物に連れられて入ると商人と思われる人と山賊のリーダーが商談をしていました。


「容姿は御覧のとおり1級品だ。さっき言ったようにちょっと訳ありなんで奴隷契約の時に自身の身分と本名が言えねぇようにして貰いてぇ」


「この容姿だとどっかの貴族かなんかの娘の可能性もある。買値はこの位だな」


「それじゃ安すぎる、こっちは苦労して上玉連れてきたんだ。その2倍でもいいくらいだ」


「訳ありなんぞお前らから買うのは、この店くらいだろ、まあ色を付けてこの位だな」


「・・・まぁいいだろう。じゃあ金を出してもらうか」


「知り合いの助祭に奴隷契約をして貰うまでは払えんな、払って奴隷契約する前に奪う算段をしててもおかしくはなかろう?」


「俺が付いて行って帰ってきたら払って貰う。帰ってきて衛兵に突き出したら部下がお前らを殺すからな変な気を起こすなよ」


そうして馬車で神殿まで連れて行かれて、私は手の甲に奴隷の印である奴隷印が刻まれた。

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