樹菜(住宅内見)

岩田へいきち

樹菜(住宅内見)


「ジュナ、広さはこれくらい有ればいいよね?」


「うん、いいね」


「キッチンは、オール電化じゃないけど、コンロも2つ付いてるからいいかな?」


「うん、いいね! ジュナは、作らないからいい」


「お風呂は、2人で入ることも考えて、やや大きめのバスタブを不動産屋さんに要求しておいた。見に行こう」


「いやだ、寛、ジュナ、2人でなんて入らないし、なんだか恥ずかしい」


「そっか、そうだよね。あははは。ごめん、悪かった」


「ううん、寛は、謝らなくていいよ。ジュナが恥ずかしいと思うだけ」


 


 そうか、良かった。もしかしてと大きめのお風呂を用意したのだが、こんなことで振られてしまうなんてことになったら一生自分が許せなくなるところだった。

 ジュナは、中1の13歳の頃、突然、SNSでぼくに話しかけて来て、断る理由もないので友だちになった。後で分かったのだが母方の祖父母も父方の祖父母もぼくの知り合いということだった。母方の祖母は、ジュナがバドミントンを頑張っていることを応援していて、そのことを当時聞いて、ぼくも一緒になって応援することをジュナのバーバへ伝えていた。それから2年半、ジュナは、彼氏が出来たり別れたり、新しい彼氏が出来たりまた別れたりしたが、ぼくとは、別れることはなく、バドミントンの一流選手になった。そして県外の強豪高校へ進学することになったのだ。


 今日は、その高校で2人住むアパートの内見に来ている。ジュナの要望を色々聞いて、ぼくが不動産屋にあたりを付けておいたのだ。

以前からぼくが作る料理の画像を日々ジュナへ送っていたが、それでぼくの料理の腕前を気に入ってくれたようだ。ジュナを一流のアスリートにするためにぼくは頑張る。特別に料理を勉強した訳ではないが、アスリートのための料理もこれからは勉強していくつもりだ。将来こんなこともあろうかと料理を練習していた自分を褒めてやりたい。こんな孫みたいな15歳の可愛いジュナと一緒に住むことが出来るのだから。こんな事を許してくれたジュナのママ、パパ、ジージ、バーバたちに感謝である。


「お風呂いいね。シャワーも付いてるし、広々としてる。寛ありがとう。こんなお部屋見つけてくれて」


「あははは、ジュナは、なんでもいいねだね」


 思えば、ジュナは、出会った頃からなんでもいいねである。ぼくがなんと言おうと「いいね」で返してくる。中学生なのにこんなに包容力があるのかといつも思っていた。恐るおそる訊いてみる。



「ベッドは、この部屋に置くだろうけど、ダブルにする? それともシングル2つ?」


「う〜ん、シングル2つ。一緒に寝るなんて嫌だし」


「そっ、そうだね。ごめん」


「寛は、謝らなくていいよ。ここに決めようか」


「そうだね、ジュナが気に入ったならぼくもここでいい」


「じゃ、ジュナ、ママへ電話してくる」


「うん、そうしておいで」


◇◆


◆◇



「来週ベッド注文しに行くって。ジュナとママの荷物は、再来週運び入れるって。寛さんにちゃんとお礼言っときなさいって」



 ママの荷物………


ジュナ、『いいね』って言ったよね?



終わり

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

樹菜(住宅内見) 岩田へいきち @iwatahei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ