引っ越し

キザなRye

第1話

 「私、今日引っ越すんだ!」

可奈かな琴子ことこにそう言った。可奈の表情は琴子が今まで見たことがないくらいに輝いていた。

 かつてより可奈は家から出たいと言い続けていた。可奈の家は父親がとても厳格な人で家では窮屈な思いをしていた。家を出て一人暮らしを始めればより自由な生活が得られる、と可奈は家を出る準備を着々と進めていたのである。

 可奈の新たな住まいを見つけたのはおよそ4ヶ月前だった。大学の近くの不動産屋に掲示されている写真を見ていて可奈の目に留まる家があったのである。可奈が家を出て行くことは両親に内緒で計画していることだったので内見を含めて引っ越しのことすべては可奈が一人で行った。

 内見は不動産屋の職員一人と可奈の二人で行われた。内見した不動産は大学から歩いていける程度の距離だったので不動産屋から二人で歩いて行き来した。可奈が写真で見て想像していたデザインや大きさそのままで見てすぐに可奈はここに引っ越そうと決めた。家賃も掲示で確認していたので内見によって簡単に決めることが出来た。

 内見が終わってからすぐに契約を結んだ。ただ、他の住人の契約の関係などもあり、実際に住むことが出来るのは少し先だった。それでも可奈にとってみれば少ししたら家を出られるんだというその事実だけで嬉しかった。

 家を出る1ヶ月前に可奈はようやく母親に新たな住まいに移ることを告げた。もちろん父親がいないときに内緒で伝えた。母親は可奈が窮屈に暮らしていたことを知っているので可奈を咎めることは出来なかった。父親が家に帰ってきても可奈の事情を理解しているので母親は可奈が家を出ることをを自分一人で完結させた。

 「引っ越しお手伝いしようか?」

琴子は可奈にそう聞いた。

「大丈夫だよ、お母さんに話をしたときに引っ越しの準備までしてもらったから」

可奈はとびっきりの笑顔でそう答えた。今日、家を出ることが出来るという楽しみから可奈はどんどん笑顔になった。

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引っ越し キザなRye @yosukew1616

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