うちのかあさんは

森林木 桜樹

1「整理」

五月五日


十六歳の誕生日は、母が手作りのケーキを用意してくれた。


ケーキだけではなく、本当に欲しかった物を全て取り揃えて、お楽しみボックスみたいなカラフルな箱に、沢山詰め込んでくれた。


一日では見切れない位、用意してくれた。


今日は、各々の部屋ではなく、居間でちゃぶ台を片付けて、布団を敷いて、顔が見える様に横になって、会話をしながら一緒に寝た。


最後に一緒に寝た時期は、小学生卒業式以来だから、約三年ぶり位か。


誕生日を盛大に祝った後で、気分も上がっていた。


ドキドキして眠れないと思っていたが、母の寝息が心地良く、直ぐに眠れたなって、母の亡骸を見ながら、次の日に思った。




忙しかった。




自宅で亡くなると、かかりつけ医と警察が入って調査をする事は知らなかった。


一度、救急車を呼んだが、死亡しているかもしれないと聞くと、気分を落ち着かせてくれた後、丁寧に対処方法を教えてくれた。

言われる様に、かかりつけ医と警察を呼んだ。

色々と訊かれたが、自然に亡くなっている事が確認された。


その後は、かかりつけ医と警察が、自分が天涯孤独だと知り、この後どうしたらいいのかを教えてくれた。

葬儀の用意と死亡届け等の書類に、母の通帳からお金の引き出し、母の仕事場への連絡と、やる事が多く、悲しんでいる余裕はなかった。


学校へ登校は、落ち着いてからで良いと連絡があった。

担任の先生から、毎日、午後六時に連絡が来る。

先に体調を訊かれ、手伝いが必要かとか、学校の生活について知らせてくれた。

気に掛けてくれて居ると思うと、とても助かった。


それに、母が亡くなった、今だからこそ出来る事がある。


母の事を知るチャンスだ。

母は、自分の事を訊かれない限り話す人ではなく、息子と言えど対象だ。

部屋は心を映すと言われる位だから、部屋を見るとどんな人物かを知る事が出来る。




家は、一戸建て。

二階建ての屋上付きだ。


一階は、駐車場で、母が使用していた車一台と、自分が使用している自転車が一台ある。

それと、スペアのタイヤや工具が収納してあるボックスが一箱ある。

駐車場の横に階段があり、二階へ上がれる。

階段の下には、外に居ても使えるトイレがある。

二階へ上がると玄関で、屋上には、柵と物干し台があり、衣類や布団が干せる。

家の周りには、正面以外は家の一階部分を隠す様に、木が植わっていた。


玄関を入ると、家の見た目よりも中身は和風だ。

まず見えてくるのは、木造の長い廊下。

廊下の突き当りを見ると、部屋がある。


突き当りの部屋まで行く導線に、右に二部屋、左に一部屋と、風呂、脱衣場、トイレがある。

右の奥にある部屋が自分の部屋で、左にある部屋が母の部屋だ。

右の手前にある部屋は、客間である。

すべての部屋が、和室で作られている。


突き当りの部屋は、台所と居間が一緒になっていて、台所スペースは板張りだが、居間スペースは畳である。

三分の一が台所スペースで、三分の二が居間スペースだ。

居間スペースに、ちゃぶ台があり、周りには座布団が用意してある。

居間スペースの壁に沿って、階段があり、屋上に行ける。


このような作りで、住んでいる部屋の広さ位の広い空間が、外にある。

よく、この空間で自転車を乗る練習をしたり、友達と鬼ごっこをしたり、車を洗ったりしていた。




そして、今、母の部屋の前に居る。

家は、玄関と外のトイレ、屋上以外は、全て引き戸である。

母の部屋の襖に備え付けてある引手に、手を掛ける。



この手が、今から、母の全てを知る行動になる。



襖を開けて、母の部屋に入る。

中央にこたつがあり、上にノートパソコンがある。

こたつには、一枚座布団があり、母は普段ここに座っていた。


座っている所から、真っ直ぐ見える位置、この家に唯一あるテレビがある。

テレビ台にはゲーム機が入っている。

アンテナは接続されていない。

どうやら、このテレビはゲーム専用だ。


母が、ゲーム好きなのは知っていた。

見ると、古い機種から新しい機種まで一通り揃っている。

自分はゲームをしないけど、友達が学校に持って来て、話しているから知っている。


布団が敷けるスペースがあるが、母は身長百五十センチと小柄だった為、スペースは小さい。

布団が敷いてないのは、部屋から持ってきて、自分の誕生日に居間で寝たからだ。

今では、布団は居間の淵に寄せてある。


片付けなければと思うのだが、大きな荷物で処分方法に困っている。

母が使用していた車があるが、車の運転は十八歳になってからでないと出来ない。

後、二年は大きい荷物は処分出来ないとなると、淵に寄せて置く位しか思いつかない。


それと、処分する物は他にもある。

母の服や下着、化粧水等といった、個人で使っていた物だ。

箪笥には、文房具・上着・下着等、何が入っているのか分かる様に、引き出しにはラベルが張られている。

引き出しを開けると、ラベルと間違えがない。

部屋全て、どこに何が入っているのか、分かる様になっていた。


母は化粧をしなかったが、保湿はしていたみたいだ。

髪も、念入りに手入れをする必要がないほど綺麗で、肩に付く位の短髪だった。

シャンプーもリンスも、自分と同じのを使っていた、いや、母が使っていた物を自分が使っていたと表現が正しいか。


唯一のおしゃれといったら、ヘアピンが多くある位で、他には何もなかった。

意識的には、周りから醜くない程度におしゃれをし、肌や髪のケアをしていた様だ。

資金は、化粧品やケア用品には使わず、生活に使っていたと思った。

箪笥に収納してある物を見て、母を思い出し、分かった。


この調子だと、押し入れの中も期待をした。

まさか、部屋は見た目だけ綺麗にしてあり、押し入れの中はギチギチに詰め込んで、大変な事になってはいないだろうか?と、心配した。

よくアニメで表現されている、押し入れを開けたら中身が雪崩れる様な事はないだろうなと、正直、怖かった。


そんな気持ちで、押し入れを開けると、とても丁寧に整理整頓されていた。

上下に分かれている押し入れに、それぞれ木箱が三個入っていた。

テレビ台、引き出し、箪笥から来て、木製な辺り、和風が好きなのだろうか。

その木箱を見ると、ラベルが張られていなく、中身が何か分からない。

上に収納してある木箱を一箱出して見て、周りを確認するが、ラベルが張られていない。

木箱は持って見た所、軽くなかったが、持てないほど重くもない。


誕生日プレゼントを開けるよりも、ドキドキしながら、開けた。

目に入ってきたのは、額に入った賞状が数点入っていた。

一つ一つ手に取り見ると、驚いた。


「操縦四駆の全国優勝、ペットボトルロケットの全国優勝、カードゲームの優勝、こっちは、ジオラマ優勝に、小論文優秀賞、創作建築間取り部門優勝、全国数学制覇優勝、特殊メイク部門優勝って、これ全部、母さんが優勝した時の賞状。」


ザっと見て、色々な方面からの優勝した賞状だ。


今までの母を見てきて、そんな雰囲気が出ている時があったのを思い出した。

小学生の自由研究、中学のコンクールに、様々の検定を自分が受けようとした時、簡単な助言を受けた。

そのおかげで、検定は合格し、作品もなかなかの出来で、学校で展示や評価が良かった。

数々の賞状を見て、納得した。

他の木箱も開けて見ると、作品やトロフィーが入っていた。

この木箱は、母の歴史だと思った。


母の意外な姿が見えてきて、とても楽しくなってきた。

最後に楽しみにしていたのが、そう、こたつの上に置かれているノートパソコンだ。

ノートパソコンには、外付けのハードディスクが繋がっている。


とても、楽しみだ。


本当に、楽しみだ。


楽しみで、楽しみだ。


漫画的表現をすると、自分には辺りに音符マークが飛び交っているに違いない。

そう思い、ノートパソコンに手を伸ばした所で、玄関のチャイムが鳴った。

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