予期せぬ来訪者
4/27 21時修正 どうやら間違えて55話を飛ばし、56話を2回投稿してしまっていたようです。お手数ですが前話を改めて読み直していただければと思います。
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「うおー、何だこれ!? 火星人じゃねーか!?」
アトランディア歴史資料館。そこに飾られた軟体生物の人形を前に、剣一が興奮して声をあげる。するとそんな剣一に、手元からツッコミの声が入った。
『異世界人なんだから、火星人ではないと思うよ』
『っていうか、これも人間なの?』
「はい。こちらは第七八世界で遭遇した『人類』となります。彼らは自らの世界をクアクアと呼び、彼ら自身もクアクアと名乗ってたようです。
その身体構造はこの世界で言うところのクラゲに近く、頭部を発光させたり、あるいは手を繋いで直接信号を送り合うことで意思疎通をしていたと記録されております」
『「へー」』
案内係の人の説明に、その場にいる剣一のみならず、スマホ越しにこの光景を見ている祐二達も声をあげる。
そう、この資料館では……というか、アトランディアでは普通にスマホが通じた。しかもここにはフリーのWi-Fiまで通っているため、通信料を気にする必要もない。
アトランディアは来訪した世界の技術に依存しないが、利用しないわけではない。特にこの世界……地球はエネルギーのほぼ全てが電力依存となっているうえ、電波の送受信ができないと著しく不便になるため、それ用の設備とそれを維持するための最低限の発電施設などはきっちりと輸入していた。
『あー、僕もそっちに行きたかったなぁ。行けばこんな狭い画面越しじゃなく、直接色々見られたのに!』
『私もー! エルちゃんの生まれた国を観光したいよー!』
「俺だって一緒に来たかったけど、おじさん達の許可が出なかったんだから仕方ないだろ?」
「そうね。それに次の転移は今の感じだと二〇年から三〇年くらい先だと思うから、またゆっくり来ればいいわよ」
今回のアトランディア遠征の予定滞在期間は二週間だ。元々一人暮らしをしていた剣一は割とあっさり両親から許可を得られたが、実家からダンジョンに通っている祐二と愛はそうではなかった。
勿論それを無視して旅立つこともできたが、エルの言う通り別に今回が最初で最後というわけでもないので、二人共そこまで無理をする気はなく、今回は留守番となったのだった。
『ふふふ、その時はエル様が女王様になっていたりするんでしょうか?』
「まさか! 王位は普通にお兄様が継ぐでしょうから、それはないわよ」
画面越しの聖の言葉を、エルが苦笑して否定する。アトランディアの王位は男性のみと決まっているわけではないが、それでも血を残しやすいという観点から、基本的には男がなることが多い。
王族の子がエル一人であれば話も違っただろうが、年上の兄がいる以上、エルが王位を継ぐ可能性はほぼなかった。
『ぬあー! 何も見えぬのじゃ! お主達、ちょっとどくのじゃ!』
『ウェーイ! 俺ちゃんにも見せるんだぜー!』
と、そこに子供達を押しのけ、ディアが大きな顔を出してくる。更に画面の下からは、ニオブもニュッと顔を伸ばしてきた。ディアの下腹部から伸びる亀の頭はそこはかとなく卑猥な気がしたが、剣一もエルもそこには触れない。
「ちょっと何してるのよデブゴン! 今アタシとヒジリが話してるところだったでしょ!?」
『そんな事知らぬのじゃ! ワシだって見たいのじゃ!』
『俺ちゃんだけ仲間はずれはよくないんだぜ! 一寸の亀にも五分のウェイがあるって諺があるだろ!』
「諺を魔改造しすぎだろ! 何だよ五分のウェイって!」
目の前にいるならニオブの頭をペチッと引っ叩きたいところだったが、残念ながら剣一の手はスマホの画面を超えられない。剣で斬るなら斬れそうな気がするが、それはまた別の話だ。
『というか、そもそもこんな小さい画面でわちゃわちゃやっておるのが駄目なのじゃ! のうケンイチ、ちょっとそのスマホで、周囲をグルッと見せるのじゃ』
「周囲? 別にいいけど……?」
ディアの要望に、剣一は首を傾げつつスマホを片手にクルリとその場で回る。セルジオが手続きしてくれたおかげか、周囲に剣一とエル、それに案内係の人以外の人影はない。
「これでいいのか?」
『うむ。空間は大丈夫そうじゃな。ならば……』
「おい待て、今スゲー嫌な予感したんだけど――」
『ゆくぞ、カオスゲート!』
ブォン!
「「「えっ!?」」」
瞬間、剣一達のすぐ側に、剣一の部屋でギュウギュウ詰めになっていたはずの一行が現れる。即ち祐二、愛、英雄、聖、そして……
「うむ、到着なのじゃ!」
「ウェーイ!」
「なのじゃでもウェーイでもねーよボケ!」
「ぬふぁっ!?」
「ウェイ!?」
引っ叩かれたディアの腹がぷるんと波打ち、ニオブの頭が揺れた。そしてその周囲では、祐二達がこれ以上無いほどの戸惑いの表情を浮かべている。
「え、え!? 何これ、どういうこと!?」
「私達、スマホの中に入っちゃったの!?」
「剣一さんとエルちゃんがいるってことは……」
「……どうやら私達は、アトランディアに転移したようですわね」
焦る祐二と愛、呆然とする英雄と、冷静に状況を分析する聖。そんな友人達の姿に、剣一は改めてディアに詰め寄った。
「おいディア、お前何したんだよ!?」
「なにって、見たままなのじゃ。あんな画面越しでは面倒くさくてたまらんから、サクッと転移してきたのじゃ」
「サクッとって……え、お前の転移魔法って、海外まで飛べるもんなのか!?」
「当たり前なのじゃ。お主というこれ以上ない目印があって、目視で転移先の場所まで確認したのじゃぞ? ダンジョンのように空間が隔てられているでもないし、たかだか数千キロ程度を転移するなど造作もないのじゃ」
「…………」
目の前にいるディアが毎日食っちゃ寝するだけの腹のたるんだデブゴンではないという事実をまざまざと見せつけられ、剣一が言葉を失う。すると同じく固まっていたエルが、ハッと我に返るのと同時にこの場を何とかできそうな人物の名を力の限り叫んだ。
「ジイー! ジイ、すぐ来てー!」
「姫様!? どうなさい――っ!?」
剣一とエルを邪魔しないように少し離れた場所にいたセルジオが、その声に慌てて飛び出し、そして目の前の光景に動きを止める。だがすぐに状況を確認すると、剣一達に付き添っていた案内係の男性に真っ先に声をかけた。
「館長に連絡して、施設の完全閉鎖をお願いします。必要であれば私の名前を出して構いません。それと姫様……」
指示出しと同時に、セルジオがそっとエルの前に歩み出る。その視線が向かう先は、ぽっちゃりドラゴンと白い亀だ。
「え、何?」
「あちらのドラゴンと亀は何者でしょうか? 蔓木様のご友人と一緒におられるようなので、害はないのだと思いますが……」
「あ、そっか。そう言えばセルジオさんには紹介してなかったっけ」
セルジオの目には、ディアもニオブも強いとは映らなかった。だがそれは弱いのではなく、「強さが全くわからない」ということだ。
加えて見た目がドラゴンと亀だ。これで警戒しないはずがなく、言われて気づいた剣一がそう言ってディア達の側に近づいていった。
「紹介します。こっちがうちの居候ドラゴンのディアで、そっちは俺がエル達の代わりに倒したドラゴン……元ドラゴン? のニオブです」
「ワシがディアなのじゃ! 本当の名はもっと長いのじゃが、お主だけ違う呼び方をされても面倒なので、ディアと呼ぶことを許すのじゃ!」
「なら俺ちゃんもニオブでいいぜ! 年寄りはあんまり趣味じゃないんだが、そっちが望むならウェイウェイしてやっても……ウェイ!?」
「アホな事言ってんじゃねーよ!」
「そうよこのエロガメ! ジイに手を出すなんて許さないんだからね!」
「ふむ、これは……どうしたものですかね」
エルから話を聞いていた、二体のドラゴン。世界を滅ぼせるような存在の予期せぬ来訪を受け、セルジオは次の一手をどうするべきか、冷静にその思考を巡らせ始めた。
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