検索禁止

「ええい、長い話をウダウダと……要は大人に唆された子供と、子供を唆した大人がいたというだけの話じゃろう? 唆された子供が愚かだったと切り捨ててもよいし、唆した大人を卑劣者と罵ってもよい。それで終わる話じゃろうに、何故関係ないものの行動を規制するのじゃ!?


 面倒くさい! 本当にこの世界は面倒くさいのじゃあ!」


「あはははは……でもその面倒くささがないと、僕達みたいなのは生き残れないんだよ」


 子供のように手足をジタバタさせてわめくディアに、祐二は思わず苦笑しながら言う。法律という檻は強者にとって動きを阻む邪魔者でしかないが、弱者にとっては外敵から身を守る壁でもあるのだ。


「まあよい。面倒な法ができた理由はわかったのじゃが……それで結局、どうやって金を稼ぐのじゃ? 重要なのはそっちなのじゃ!」


「うっ、まあそうだね……」


 聞かれたから説明したのに、それをどうでもいい感じに切り捨てられ、祐二の心のメガネが軽く曇る。だが確かにそうなので、心のメガネを綺麗に拭きながら改めて対策を考え始める。


「第三階層まででお金を稼ぐのは、やっぱり現実的じゃないよ。かといって剣ちゃんのスキルだと、冒険者以外じゃお金は稼げないだろうし……」


「<剣技:一>だからなぁ」


 剣を使って戦うことに特化したスキルなので、当然剣で戦う以外には使えない。剣一の実力が認められるならば解体業者などで働ける可能性がなくもないが、普通その手の業者が優先して雇うのは<解体>とか<爆破>のスキル持ちなので、実際に剣一が働くのは難しいだろう。


「未発見のダンジョンを見つけて探索するって手もあるけど、ダンジョンを見つけた人には報告義務があるから、これもやっぱり一回しか使えないね。それにそもそも未発見のダンジョンなんて、そうそうあるものでもないし」


「未発見ダンジョンか……なあディア、お前の力で未発見ダンジョンを見つけたりできないか?」


「む? ダンジョンを見つけることはできるが、それが人に見つかっているかどうかは判断できんのじゃ」


「えっ、マジでできるのか!? だったら――」


 まさか本当にできるとは思っていなかったので、剣一は思わず驚きの声をあげる。するとディアは細いチータラを三本纏めて囓ってから言葉を続ける。


「むぐむぐ……しかし探すというからには、広範囲に強い魔力を発せねばならぬ。そんなことをすればワシの存在……少なくともここに強力な魔力を発することのできる何かがあるということは知れ渡ってしまうのじゃ」


「そうか……なあ祐二、ディアのことって、やっぱりバレたらマズいよな?」


「そりゃそうだよ。この見た目じゃ誤魔化しようがないし」


 騒ぎになったら面倒な事になりそうだな、くらいの理由でディアを隠してここまで連れてきた剣一だったが、それを改めて確認すると、祐二が思いきり呆れた顔でそう答える。


「念のため言っておくけど、剣ちゃんが想像してるよりずっと大変なことになるからね? ディアさんが研究機関に連れて行かれるのは当然として……」


「待て待て。ワシは容易く人間に連れ去られなどせぬぞ?」


 ディアが抗議の言葉を挟んだが、祐二は真剣な顔で首を横に振る。


「確かにそうかも知れないけど、でも抵抗したら『暴れる魔物を地上に連れてきた』ってことで、剣ちゃんが罪に問われると思うよ? まあディアさんなら捕まっても逃げ出せるんだろうけど、その場合結局隠れ住むことになるわけだから、それなら最初から見つからない方がいいよね?」


「む。それはまあ、そうじゃな」


「あと、一度でも剣ちゃんと一緒だってバレたら、剣ちゃん自身は勿論、その周囲にいる人……僕やメグ、それに剣ちゃんのご両親にも監視がつくと思う。日本政府はともかく、外国人だったら誘拐して脅すとかするかも」


「ふっざけんな! そんなことされたら、俺マジで怒るぜ!?」


「そうじゃそうじゃ! そんな奴ら根こそぎ燃やしてしまえばいいのじゃ!」


「……本当にできそうだからこれ以上は言わないけど、それやったらそれこそ普通の生活は送れないってわかるよね? ディアさんの存在をバラすくらいなら、まだ法律を無視してダンジョンの奥に潜る方がいいよ」


「やっぱりそっかー。あー、どっかにお金持ちのお嬢様とか、外国のお姫様とかいねーかなー」


「えぇ? 剣ちゃん、突然どうしたの?」


 いきなり訳のわからないことを言い出した剣一に、愛が訝しげな声をかける。


「いやほら、ラノベとか漫画だと、こういうときって大体困ってる女の子を助けたら実は凄い金持ちとか権力者で、そいつが主人公にベタ惚れした挙げ句、困りごとを全部纏めて解決してくれるんだよ」


「へー、凄いね。じゃあ剣ちゃん、最近誰か助けたの?」


「……助けてねーな」


「じゃあ今から助けるの?」


「……まあ、いれば?」


「そんな人、いるの?」


「……………………うぉぉぉぉ! 祐二!」


「泣きつかれたって、そんな知り合いいるわけないだろ? 剣ちゃん、もう少し現実を――」


 現実を見ようよ、と言おうとした祐二の視線が、剣一の隣でチータラを貪るドラゴンを捕らえる。正しく漫画の中にしかいないような生物であるドラゴンに比べれば、お金持ちのお嬢様や外国のお姫様に巡り会う可能性の方が間違いなく高い。


「…………ひょっとしたらいるかも知れないけど、それに期待するのは流石にね?」


「ぐぅぅ、俺だって女の子とイチャイチャしたいのに、どうして俺が出会ったのは、こんなオッサンドラゴンなんだ……」


「お主割と無礼なことを言っておらぬか? 誰がオッサンじゃ!」


「ていうか、ディアちゃんって男の子なの? 私てっきり女の子だと思ったんだけど」


「むぐ? 身体的にはドラゴンに雄も雌もないが、精神的にはそのどちらかに寄ることはある。ただしそれも絶対のものではなく、用はその時の気分で男だったり女だったりするのじゃ」


「え、そうなのか? なら今のディアはどっちなんだよ?」


「お主に出会った時のワシは雄じゃったな。じゃがお主に負けてお主の庇護に入った故、今のワシはどちらかと言うと雌よりじゃろうか?」


「えぇ、マジで?」


 思わぬ告白に、剣一は微妙な視線をディアに向ける。大きく開いた足の間にたるんだ腹を収め、チータラを囓るディアの姿に女の子要素は微塵も感じられない。


「まあ気にするな。それともまさか、お主ワシが乙女としって発情するのか?」


「しねーよ! お前のどこに興奮しろってんだよ!」


「カッカッカ、つまりそういうことじゃ。雄か雌かは発情するか否かの違いでしかないのじゃから、発情しないなら雄でも雌でも関係ないということじゃ。ワシとて人であるお主に発情なぞせんしな」


「そうだよね。ドラゴンが発情するのは自動車にだけだよね」


「……ん? それはどういう意味じゃ?」


「えっ!? あっ!?」


 ポロリと漏らした小さな呟きをディアに拾われ、祐二のメガネがズレ落ちる。


「へー、ドラゴンって自動車に発情するのか? 祐二は相変わらず物知りだな」


「祐くん? それどういうことなのか、教えてもらってもいいかなー?」


「ち、ちがっ!? 僕は何も……」


「あ、スマホで検索すればいいのか。えーっと、ドラゴン、自動車、発情……」


「やめろーっ!」


 普段は大人しい祐二が、雄叫びをあげて剣一の手からスマホをもぎ取る。


「やめろ剣一! 駄目! 駄目だから! これはあの……ウィルス! 調べるとスマホがウィルスに感染して爆発するから!」


「爆発!? え、何それ怖い」


「そう怖い! 怖いんだよ! だから絶対調べたら駄目だから! いいな? 約束だぞ! ただでさえお金ないのに、スマホが爆発したら困るだろ!?」


「お、おぅ、困るな。わかったよ。調べないよ……」


「祐くーん? 後でゆっくりお話しようね?」


「誤解! 誤解だよメグ! 僕は何も知らないから!」


「一体何なのじゃ……? ふむ、この食べ方は新しいのじゃ」


 またも話が脱線し騒然となった場の空気に、当事者にして部外者であるディアは困惑しながらもチータラからタラ部分を剥がし、チーズだけとなった棒を三本纏めて口に入れた。


――――――――




なお、本当に調べたことによって生じる問題に対し、作者は一切の責任を負わないものとします(笑)

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