俺のスキルは<剣技:->(いち)!
日之浦 拓
運命の日
新連載始めました! 初日は3話更新、以後は毎日18時更新となります。
――――――――
「何だよ
窓から西日の差し込む小部屋。赤い光に照らされたそこで、一人の少年がそう切り出す。
彼の名は
「悪いね剣一。どうしても伝えておきたいことがあったんだ」
そんな剣一に相対するのは、キラリと眼鏡を光らせる知的な……あるいは大人しそうな少年。一〇人中八人が「ハカセ」とあだ名をつけそうな剣一の親友、
「剣一……今日限りで、君を俺達のパーティから追放することが決定したんだ」
「なっ!?」
祐二の言葉に、剣一が驚きの声をあげる。そして勿論、それだけでは終わらない。
「おいおい、冗談はよせよ祐二! 俺達五歳の頃からずっと仲良しで、一緒に冒険してきただろ!?」
五〇年前、世界中にダンジョンが出現してから、この国の法律は二転三転どころではなく変わってきた。それはダンジョンの出現に伴い、人間に「スキル」と呼ばれる不思議な力が目覚めたからだ。
スキルがあれば、たとえ初めてのことだろうと熟練者のように振る舞える。そしてスキルは若年層ほど伸びがいい。その研究結果が「子供のうちからスキルに合った仕事をやらせたり、学ばせたりする方がいい」という風潮となり、現在の日本では義務教育は一二歳までとなっている。
そんな世界で、剣一達は一二歳からダンジョンに潜って魔物と戦い、お宝を得て戻ってくる冒険者という仕事を選んだ。正確には「異界の門」に入って「特定外来生物」を狩猟したり、発見された鉱物や資源を持ち帰る「異界調査協力員」というのだが、誰もそんな呼び方はしていないので問題ない。
「思い出すよな、大人に隠れてこっそりダンジョンに潜って、スゲー怒られたこととかあったし」
「ああ、あったね。一〇歳くらいの時だっけ? 剣ちゃんがどうしてもって言うから入ったら、あとでメグに『私も行きたかったのに!』って泣かれて、なら今度は三人でって計画してるのがばれて…………げふんげふん!
そんなこともあったな。でも関係ない。僕……じゃない、俺達の関係は、もうここまでだ。理由は剣一が一番良くわかってるだろ?」
懐かしそうな表情での昔語りから一辺、再び厳しい顔をする祐二に、剣一が俯き拳を握りながら言う。
「……俺のスキルが<剣技:一>だからか?」
「そうだ。今の世界ではスキルレベルが全て……レベルの低い奴とは、もう一緒にやっていけない」
そう言う祐二のスキルは、知的な見た目と違って<槍技:三>である。一つ違えば世界が違う、二つ違えば次元が違うとまで言われるスキルレベルの差は如何ともし難く、実際何も知らない者が話を聞けば、祐二に剣一が寄生していると考えるのが自然だろう。
だが、剣一にも言い分はある。
「で、でも! 確かに俺のスキルレベルは低いけど、実は俺、スゲー強いんだぜ!? 祐二は気づいてなかったかも知れないけど、寄ってくる魔物の大半は俺がこっそり倒してたんだ!」
「……知ってる」
「知ってる!? なら何で俺を追放なんてするんだよ!? 俺が抜けたら――」
「わかってる! 剣一が抜けたら、俺達だって今までみたいに活動はできない。そんなことはわかってるけど……それでも追放するって言ってるんだ!」
「……なんで、だよ……っ!」
「剣一が邪魔だからさ。一緒にいると、僕達が活躍できなくなるんだ」
血を吐くような思いで言葉を絞り出す剣一に、祐二が西日にキラリとメガネを輝かせながら言う。親友の冷たい言葉に剣一が顔をあげると、祐二は嘲るような笑みを剣一に向ける。
「わかるだろう? だって…………明日から施行される改正法で、スキルレベルが一だと三階層までしか潜れなくなるんだからね。剣一はもう、足手まといなのさ!」
「くっそぉぉぉぉぉぉ!!!」
両手を広げ、謳うように高らかに宣言する祐二に、剣一はただそう叫ぶことしかできなかった。
「……ねえ、二人共。そろそろいーい?」
「あ、うん。ごめんなメグ」
部屋の隅でジッと二人の成り行きを見守っていた三人目の幼馴染みの言葉に、剣一はあっさりと平常に戻ってそう告げる。そしてそんな剣一に、祐二が呆れた苦笑を浮かべて声をかける。
「まったく、何でこんなことやりたかったの?」
「いやほら、ちょっと前にパーティ追放って流行ったじゃん! なら俺も一回くらいは体験しときたいかなって」
「流行ったって、あれはフィクションでしょ? 実際のパーティ追放は、こんな感じじゃないと思うけどなぁ」
「いいんだよ! 俺が欲しいのはリアルじゃなくてドラマだから! 実際祐二だってちょっと楽しかっただろ?」
「うっ!? まあ確かに、ちょっとは……」
親友を追放するという内容はともかく、演技そのものは意外と楽しかった。そんな図星を疲れた祐二の顔に、剣一のニヤニヤ笑いが止まらない。しかしそんな二人の様子に、三人目の幼馴染み……黒髪ロングのおっとり系美少女である
「もーっ! 私はちっとも楽しくなかったよ! 剣ちゃんも祐くんも、仲良くしなきゃ駄目なんだから!」
「い、いやメグ、別に俺達、本気で喧嘩してたわけじゃないし……」
「そうだよメグ、これはあくまでお芝居だから!」
「それでも! お友達がお友達を馬鹿にしちゃ駄目なの! 二人が本気で喧嘩したりしたら、私泣いちゃうからね!」
「「それは勘弁……」」
大人しそうな外見とは裏腹に、愛は一度決めるとなかなか意志を曲げない。それは愛の長所であり短所でもあり、万が一愛を本気で泣かせたりしたらどれほどフォローするのが大変かを、二人は九年の付き合いでよく理解していた。
その後は三人揃って、昔話に花を咲かせる。本格的な冒険はまだ二年しかしていなかったが、それでも語ることは幾らでもあり……差し込む西日が赤さを増し、そこに暗闇が混じる頃。窓から外を見た剣一が、ぽつりと言葉を漏らす。
「……本当に今日までなんだな」
「ああ、そうだね」
さっきの追放劇はただの茶番だったが、剣一がパーティを抜けるというのは本当だ。色々な想いを込めて一番星を眺める二人に、愛が声をかける。
「ねえ祐くん。本当にどうにもならなかったの?」
「流石に法律は、ね。一応役所の人にも掛け合ってみたけど、『自分だけは特別だと言う人って、沢山いるんですよ。でも本当にスキルレベルを超えるほど強いなら、そもそもレベルがあがってますよね?』って鼻で笑われちゃったんだ」
「なにそれー! 私が一緒に行ってたら、思いっきり抗議したのにー!」
祐二の話を聞いて、愛が憤りを露わにする。なおそれがわかっていたから愛を連れていかなかったのだが、それを口にするほど祐二は馬鹿ではない。
「それに役所の人の言うことも、間違いじゃないんだよ。実際僕だって、剣ちゃん以外にスキルレベルが低いのに強い人なんて見たことないし」
「それは私もそうだけど……でもそれなら、せめてテストとかしてくれたらいいのに」
「三〇年くらい前までなら、やってたみたいだけどね」
五〇年前の「異界の門」出現と同時に生まれた、『スキル』という概念。当時は何もかもが手探りで、調査項目のなかには「スキルレベルと称されるものは、本当に当人の技能を正しく現しているのか」というものもあった。
だが世界にスキルが発現してから一〇年経ち、二〇年経ち、スキルがあるのが当たり前の世界で生まれた子供であっても、スキルレベルと比例しない能力を持つ人間は一人として見つからない。
その結果世界は「スキルレベルはその所有者の技能を正当に評価するものであり、疑う余地はない」という結論を出した。今では「俺の実力はスキルレベルでは測れないんだよ!」などと言うのは単なる負け惜しみとしてしか認識されず、当然役所は金と時間を使ってそんなものを検証してはくれないのだ。
「というわけだ、剣ちゃん。一緒に冒険できなくなるのは寂しいけど……」
「気にすんなって。ダンジョンに潜れないだけで、会えなくなるわけじゃないんだし」
「そうだね。私と剣ちゃんと祐くんは、ずっとずーっと友達だもんね!」
「おう! 俺達の友情は永遠だ!」
「ああ、そうだね。僕達はずっと親友だ! まあ僕とメグは恋人だけど」
「もげろ!」
親友同士のカップルに、剣一が心からの
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