◇幕間──白い女◇

 怪祖は、妖屋を出て三十分ほどで帰ってきた。あっさりと話はついたらしい。白い着物の女性──白吹冷しらふきれいは、そんな彼に冷たい緑茶を差し出す。相談を片付けた後の、いつもの光景だ。外は暑かったでしょう、と言ったが、怪祖に汗をかいた様子はない。それも、彼の持つ能力を考えれば当然のことか。怪祖は、茶を美味そうに飲みながら言う。

「確かに、最近は昔に比べて暑くなったようだね。君が外に出られなくなる道理だ」

 冷が夏の間、境界の外に出られない理由は、その暑さだった。彼女は寒さや冷たさには耐性を持つ──というよりもそれが本質のような部分があるが、暑さや熱さには滅法弱い。熱い料理を食べることはないし、入浴のときでさえ、湯を使うことはない。

 近年の殺人的な猛暑で通常の人間ですらがばたばたと倒れていくのに、冷がそれに耐えうるとは考えられなかった。事実として、一度消滅しかけたこともある。

 これらの性質には、彼女の出自──雪女であることが関係している。

 北陸の雪国に雪女として生まれた彼女は、初めから熱耐性などというものを持ってはいなかった。というよりも、必要としていなかった。雪国で生活していた間はそれでも一向に困らなかったが、ある時を境に、彼女は故郷を離れることになる。

 住んでいた山に、雪女を探す人間が大量に流れ込んできたのだ。吹雪を起こして足止めし、時間を稼いで山を降りたものの、行くあてはない。怪祖と出会ったのは、そんな逃避行を行っているときだった。

 彼の勧めで境界に逃げ込み、妖屋の仕事を手伝うようになった。それから一体どれだけの歳月が経っただろうか。彼女はこの生活を一度も嫌とは思ったことはないし、手放したいとも思わなかった。



主コメ

とりあえずここまで。次の更新がいつになるかは正直分からないっす、すんません。

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妖屋~境界の妖怪相談所へようこそ~ 春井涼(中口徹) @ryoharui

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