23、桃園の契り 毒殺未遂事件
「すみません、
「むっ。貴様は
「えっ、そうなんですか?」
それは初耳。初対面以来、会ってないけど?
驚きつつ、紺紺は事件の顛末を聞いた。
* * *
茶会は、北にある
時刻は、もうすぐ午の刻(十二時)という昼であった。
妃たちは美しくて目の保養だが、見ているとたまに「俺も女になれたらなあ。あんな風に着飾るのになあ」という妙な考えが浮かんでいけない。
なので、妙な考えをしてしまうたびに「お、俺は今何を考えていた?」と自分が怖くなってしまう最近なのである。
さて、
現在、三十二歳。
成熟した色香のある女性で、目元がつり上がっていて、きつい印象がある。
実際この妃には恐ろしいところがあり、宮殿内に拷問室と処刑場を設けて、ちょっとした罪で刑に処するのである。怖い。
しかし胸元はたゆん、むちっとした豊満ぶりで、五歳になる公主の母親というのもあって
今上帝に大切にされている――妃の中で最も位が高い権力者だ。
身に纏うのは、大陸の三大刺繍とうたわれる
その衣裳は、吉祥文様や魔除けの刺繍が「やりすぎでは?」と思うくらいに凝らされていた。霊験あらたかなものに目がなく、信心深い妃なのである。
それにしても眠い!
昨日同僚と囲碁に熱中しすぎたせいか。
もっとも、魔性の乳とでもいうべきか、
と、乳の好みと匂いを噛みしめてうっとりしている間に、妃同士の優雅な会話が始まっていた。
「お待ち申し上げておりました、
「
おお、謝罪のようでいて、「昨夜わたくし、主上の寵愛を受けたのよ」と自慢しているんだコレ。
これに対して、
これが朝露の中で儚く濡れ咲くすずらんのように可愛らしい。
なお、すずらんには毒がある。すずらん様は、以下のように仰った。
「まあ。そういう御事情なら仕方ありませんね。それにしても、茶会の席で
『花咲く山中に琴を奏でに』とは、李白という詩人が詠んだ詩のネタだ。
「花咲く山中でお酒を飲んでおいしかったねー、明日の朝また琴を抱えてきてくれよ!」という詩なのだが、それを用いて「閨事情をあけっぴろげに話してお下品ね。酔っぱらっているのかしら」と皮肉っているのだ。
妃たちの優雅な会話とはこのようなものであるらしい。背筋がむずむずする会話だ。
「くすくす、琴を弾いて差し上げましょうか? お酒も飲みましょうね」
「わたくしをそれだけ親しい友と想ってくださっているのですね。うれしゅうございます」
仲が良さそうに笑顔を交わす二人の妃。
いや、絶対この二人、不仲だろう。
そんな会話を背景に、配膳係は「何も聞いていません」という顔で仕事をしている。
籠に盛られた果物から二つが取られ、二つの皿に置かれた。
そして、
ちょっと複雑な配置だ。
これは何をするのかというと、ごっこ遊びみたいな友好の儀式をするのである。
この姉妹の絆を『桃園の契り』というのだが、それにあやかり、後宮では『桃園姉妹の契り』ごっこが流行っているのだ。
具体的には、以下の手順。
まず、小さくて食べやすい果物を用意する。
次に、同じ短刀で皮を剥く。
そして、同時にパクリと食べる。
終わり。果物は、二人で一個でもいいし、二個でもいい。『同じ短刀を用いて』、『同時に食べる』、というのが要点らしい。信頼してますよ、という絆を確かめ合う儀式なわけだ。
ただ、ここでツッコミしたくなるのが「この茶会で果物を食べるのは、毒見役の侍女」という点だ。妃は食べない。
理由はというと「果物に毒が混入されているかもしれないから」。
そう、この二人の妃。
ぜんっぜん、お互いを信頼してないのである……。
話を続けよう。
用意されていた果物は、
不老不死の果実とも呼ばれる、健康に良い果物だ。果物を指し、
「花を咲かせぬ果実と呼ばれていますわね。彰鈴妃にピッタリだと思いましたのよ」
ただいまのご発言は、意訳すると「彰鈴妃はこれから先、ひと花も咲かせることもできない人生ですからね」と言っているのである。
うわぁ~、
「咲かせぬと見せかけ、うちに小さな花が多数入った
気丈な返答をして微笑んでいる。
こんなやりとりも日常なのだろう。
「まあ。その仰りようですと、愛でられぬのに種をどこからかいただいて実を結ぶみたい」
「想像力が逞しくていらっしゃるのね。ご自分でいつもそのようなことを考えていらっしゃるからですか?」
二人の妃は、「あらあら、うふふ」「おほほ」と黒い笑みを交わし合っている。
おーい、段々と優雅じゃなくて
大丈夫か! 帰ってもいいか!?
先に
そして、皮を剥いた無花果は毒見役に渡し、剥くのに使った短刀は
短刀を受け取った
そして、無花果を毒見役に渡した。
「いただきましょう」
「ええ、ええ」
二人の妃の毒見役が、同時に無花果を口にする。
箸で持ち上げ、儀式的にひとくち食べて、皿に一度置く。ここまでで『桃園姉妹の契り』ごっこは完了だ。『同じ釜の飯を食う』という言葉があるが、「これでわたくしたち、仲間ね」というのである。
食べたのは毒見役であって、妃たちは食べてないが――というツッコミをするとクビが飛ぶので、
思ったことをぺらぺら口にすると生死に関わる。
軽口、だめ、ぜったい。
先日も
「それでは、このあとは普通のお食事を……」
あとは普通の料理をお召し上がりいただく流れなのだが、ここで異変が起きた。
「
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
読んでくださってありがとうございます。
事件の詳細回がちょっと長くなったのを2話に分割しました関係で、本日は2話更新Dayにしたいと思います。
お昼の12時過ぎにもう1話投稿します。楽しんでいただけましたら幸いです。
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