第六十五話 アイ&ポーラvsムラシベ

 アイとポーラはすでに刺青の暗殺者――ムラシベを壁際まで追い詰めていた。


「はぁ……はぁ……はぁ……!」

「何よコイツ。全然雑魚じゃん」

「油断は禁物ですよ。アイさん」


 アイとポーラの前には巨大な式神がいる。

 ゴーレムのような岩石質の肌、形は二角獣バイコーン、尻尾は翼蛇ナーガ。体躯は3メートル程。


――合成獣アイ・スペシャル三号。


 アイはBランク以下の魔物しか札に封じ込められない代わりに、魔物のが行える。一つの札に多数の魔物を封じることで自動的に合成され、新たな一体が生まれる。何度も繰り返し、継ぎ足すことも可能。一体一体は弱い魔物でも肉体の相性、弱点・耐性、使える魔法・スキルを考え、上手く重ねることでAランク以上の能力を持つ式神も作れる。強力な一体を封じ込め、使役するユウキとは対照的な能力だ。


 今アイが召喚しているのはゴーレムとバイコーンとナーガを合成した式神。アイだけのオリジナルの式神だ。速く、硬く、強く、さらに尾のナーガが自立して動くため手数も多い。


 ポーラの『未来予知』のスキルで相手ムラシベの次の動きを読み、式神を使って次々と行動を封殺。さらにポーラの妖精も戦線に加わり、盤石な構えが出来ていた。


 敵が弱いのではない。このペアが凶悪なのだ。


「あ、アンタら……学生のレベルじゃ――!!」

「言いたいのはそれだけ?」

「予言します。あなたはあと数秒で、とてもとても痛い思いをします♪」


 アイスペシャル三号がムラシベを轢き飛ばす。ムラシベは空中で三回転した後、地面に激突。気を失い、動かなくなる。


 アイ&ポーラvsムラシベ、勝者アイ&ポーラ。



 ---



 タワー型人工迷宮スザク・Gルート・第8階層。沼地ステージ。

 黒いローブを羽織った黒髪の魔法使いルルと、褐色肌で白髪のエルフの少年ダズは、カクレの一員である女性を昏倒させていた。

 二十歳ぐらいの暗殺者、名はカリーナ。ルルは笑みを浮かべながら、その光の無い瞳でカリーナを観察する。


「う~ん、どうしますかね~。ダズさん、もしよろしければこの子犯しませんか?」

「……何を言っているのですかアナタは」

「拷問に性的攻撃は結構効果的なんですよ~。まぁいいや。せっかく目の前に沼があるんだし、水責めでいいですかね~」


 ルルは暗殺者カリーナの身ぐるみを剝いでいく。


「服を剥ぐ必要がありますか?」


 拷問――相手から情報を引き出すことには賛成だが、あまり手汚いマネはしたくないダズ。理由が無ければ王族が相手だろうと、ルルの服剥ぎを止める気だ。


「ありますよ~。服は心の鎧……服を剥ぎ取られるとプライドや尊厳が薄まり、情報を引き出しやすくなります」

「……」


 一応理はあるようだ。

 しかしダズは見るに堪えず、背中を向ける。


「情報はできるだけ搾り取らないとですね。ルルを殺そうとした罰は重いですよ~」


 ダズは目の前の少女に、殺人鬼と同様の匂いを感じた。

 歪で、狂っている。これまでの迷宮攻略でダズはルルという少女の本質を看破しつつあった。

 普段は一切言葉を発せず、ただ微笑みを浮かべているだけ。その猟奇的な本性は戦闘において露わになり、今回の殺し合いは一気に表面化した。


(か、関わりたくねえ~!)


 ダズは一見物静かな少年だが、その実、内面は騒がしく臆病であり、ルルに心底ビビっていた。

 事なかれ主義のダズにとって、ルルは最悪のパートナーだった。

 ルルはカリーナを丸裸にした後、カリーナの服で手と足を縛る。


「――ん?」


 カリーナが目を覚ます。ルルは玩具を買ってもらった幼子のような笑みを浮かべる。


「おはようございますお姉さん」

「ひぃっ!?」


 そしてカリーナにとっての地獄が始まった。

 ルル&ダズvsカリーナ、勝者ルル&ダズ。




 ――――――――――

【あとがき】

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