第六十一話 ノゾミ&ユーリ アイ&ポーラ

 ダンザがヨスガと戦っている頃、タワー型人工迷宮スザク・Cルート・第10階層。

 第10階層は草原ステージであり、森と草原が半々で存在する。タワー型の迷宮はそれぞれの階が隔離空間として成立しており、室内にもかかわらず空があったり、風が吹いたりする。形態としてはヨスガの収納空間アイテムボックスに近い。


 ノゾミ&ユーリペアは順調に迷宮を踏破していた。

 ノゾミは叔父であり現当主であるゾーマより託された刀、魔導書幻魔刀牢げんまとうろうで骸骨兵を斬り伏せ、ユーリは弓矢で夜叉コウモリという刀を咥えたコウモリを射抜いていく。


「ノゾミちゃん、見事な腕前だねぇ。惚れ惚れしちゃうよ」

「そりゃどうも、ありがとうございます」


 ノゾミは自分の国の王子を前にして、何ら緊張していない。敬語は使っているが、ユーリへの対応は無愛想そのものだ。


「ノゾミちゃんはいいね。俺が相手でも一切、興味なしって感じだ」

「そんなことはありませんよ。弓の腕、素晴らしいですね。惚れ惚れしますよ」


 棒読みでノゾミは言う。


「お世辞も無理な敬語もいらないよ。俺達は同級生じゃないか」

「目上の人間にタメで話すのは無理です。ユウキだって敬語で接していたでしょう?」

「まぁね。でも彼女の場合は敬語が自然だったからさ。お前は全然、敬語が馴染んでいない。無理してるだろ? やめろよ。不愉快だ」


 強い口調でユーリは言う。そこまで言われるとノゾミも無下にはできない。


「そっか。ならこれからは遠慮なくフランクにいかせてもらうよ。ユーリ」

「うんうん、それでいい」

「ところでユーリ、お前のユニークスキルは何なんだ? さっきから弓矢しか使ってないみたいだけど?」

「お前だってユニークスキルを使ってないじゃないか」

「無暗にユニークスキルを明かすなと生意気な守護騎士に言われているものでね」

「俺も同じさ。必要にならなきゃユニークスキルは使わない。ユニークスキルは命に関わる個人情報だから簡単には明かせない」


 食えない奴。とノゾミは心の内で毒づく。


「俺達の戦闘スキルなら多分、ユニークスキルを使わずともこの演習はクリアできるよ」


 事実、ノゾミの刀術とユーリの弓術はレベルが高い。打ち合わせせずとも上手く連携が取れているのは互いの技術が高いレベルで同じだからだろう。


「でもやっぱ教えておくか。例の件もあるしな」


 そう言ってユーリは背後についてくる光――ロゼの妖精を指さす。


「カクレが王族を狙っているって話か。面白い……来るなら僕が相手になってやる」

「いざという時、連携を取るために情報交換すべきだとは思わないか?」

「僕のユニークスキルは『双剣ツインソード』。二本の自在に動かせる剣を出せる。以上」

「シンプルだな。俺のユニークスキルは『指令オーダー』。命令を強制させることができるユニークスキルだ。生物だけに有効で、強力な命令はできない。飛べない人間に『空を飛べ~』とか、死にたくない人間に『死んでください~』ってのは無理だな」

「王様らしい高慢な能力だな」

「いいねぇノゾミちゃん、その物言い。ここまで俺に遠慮ない奴は初めてだ」


 ユーリは愉快そうに笑う。


「待った」


 ノゾミは急に足を止め、腕でユーリを制す。


「どうした?」

「……そこの木影に隠れている奴、出てこい」


 ノゾミとユーリの正面にある大木から、スキンヘッドの男が姿を現す。


「吾輩の気配を勘どるか。子供が相手と聞いてなんと温い任務かと落胆していたが……思いのほか楽しめそうじゃないか」


 男の纏う邪悪なオーラを見て、ノゾミとユーリは迷宮に入ってから一番の警戒を見せる。


「どうやら、例の客みたいだな」

「いいね。歓迎するよ」

「魔導札を破って脱出しないのか?」

「冗談でしょ。こんな雑魚相手に逃げろっての?」

「ははっ! いいぜ。乗った」


 男が指を鳴らす。すると、男の周囲に剣を持った鎧だけの戦士が五体生成された。


「吾輩の名はロウジュ。貴様らが相手にするは無限の兵団! ロウジュ兵団なり!」


「召喚系のスキルか」

「百でも千でも斬り伏せてやる」


 ロウジュの鎧戦士が次々と生成されていく。

 ノゾミは唇を舐め、ユーリは不敵に笑った。



 --- 



 タワー型人工迷宮スザク・Eルート・第7階層。洞窟ステージ。アイ&ポーラペア。

 アイが率先して前を歩き、敵を蹴散らしていく。


「さぁさポーラ様! 先陣はお任せください! このアイ=ラスベルシアがポーラ様を安全に20階まで連れて行きます!」

「ありがとうございます。アイさん」


 アイの更に前をゴブリン一匹とスライム一匹とゴーレム(全長2メートル)一体が歩いている。


「アンタたち! きびきび働きなさい!!」


 アイのユニークスキルは『しきがみ』。倒したB級以下の魔物を札に封じ込め、己が手下、式神にする能力。

 アイが札に魔力を込めると札が消失し、式神が現れる。式神はアイの言うことを何でも聞き、アイの意思で自由に札に戻ることができる。ただし、ユウキの『自己封印ミックスハイド』で使役する召喚獣と違い式神は分身体ではなく本体であるため、破壊されれば修復はしない。


「ポーラ様、私の活躍、とくとご覧ください!」

「はい。拝見させていただきます」


 アイは一国の王女であるポーラに媚びを売りまくり、ポーラはポーラで楽ができるから別にいいと思っている。ある意味、調和しているペアだ。


(目上の人間には媚び! 目下の人間は貶す! それこそラスベルシア家の教えであり私の信条よ! 王族には媚びて媚びて媚びまくってやる!!)


 清々しい程のクズ思考、もとい上昇志向である。

 岩の洞窟の中、壁に括り付けてあるロウソクの火を頼りに歩いていく。


「アイさん」


 ポーラはアイの背広を掴んで止める。


「え? どうしました?」


 ポーラは正面突き当りの壁を指さす。


「あそこの曲がり角、何者かがいます。――あなたがあの突き当りに行った瞬間、首が飛ばされる未来が視えました」

「…………へ?」


 ポーラの言葉を証明するように、曲がり角から女性が姿を現す。


「驚いたねぇ。完璧に気配を消していたってのに」


 露出の広い格好をした女性。体中に刺青を入れており、手には鞭を持っている。


「フン! ロゼ様が言っていたカクレね!」

「そのようです。ですよね? ロゼ」


 ポーラの影から妖精が出てくる――が、妖精はすぐに灯りを消した。


「ロゼ?」


 ポーラ達についていた3体の妖精、その全てが――消失した。

 ポーラは魔導札を手に取り、破ってみる。――が、魔導札は機能せず脱出はできなかった。

 目の前の女性の仕業ではない。ポーラは嫌な予感を感じる。自分の身の危険を感じ取ったのではない。ロゼの身の危険を感じ取ったのだ。


「……ロゼのこと、占っておくべきでした」


 ポーラはアイの横に立つ。


「ポーラ様! 下がっていてください! ここは私が……」

「いえ。私も手伝います。少々、厄介なことになりました。なるべく迅速に片づけます」




 ――――――――――

【あとがき】

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『続きが気になる!』

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何卒、拙い作家ですがよろしくお願いします!

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