第五十六話 逮捕されたオッサンリザードマン
カムラ騎士団。カムラ聖堂院が保有する法執行機関である。
その騎士団の本部の地下には牢獄がある。地下牢ってやつだ。
――ま、俺が今いる場所がその地下牢なんだけどね。
「俺って式典と相性が悪いのかもな……」
一人、地下牢でポツリと呟く。
牢屋の数は多いモノも、収監されているのは俺も含めて数人だ。カムラ聖堂院は治安が良く、犯罪率が低い。ゆえに囚人も少ないというわけだ。
入学式に乱入した後、俺は手錠を掛けられ連行された。大講堂の天井を破壊した罪、入学式をぶち壊した罪、抜き身の刀を振り回した罪諸々で収監されてしまった。今はもう深夜だ。
無音の地下牢。硬いベッドの上に横向きで寝て、背中を丸める。リザードマンになってからこの寝方が馴染んでしまったな。尻尾が邪魔で仰向けは気持ち悪く、顔が前に伸びているからうつ伏せもキツい。リザードマンは横向き寝しか無理だ。
『……ンザ……ダンザ……』
耳元で女性の声がする。ロゼの声だ。
『寝るのはまだ早いわよ』
声の方を向くと、案の定妖精が漂っていた。
「ロゼか。待ちくたびれたぞ」
『ごめんなさい。こっちも色々とやることがあってね』
「状況は?」
『えっとね……』
ロゼは30分に渡って現状を説明してくれた。
ロゼから語られた膨大な情報。かいつまんで、四つの事柄に分けて語ろう。
1、カクレの目的
ハヅキの活躍でウルスラというカクレの構成員を捕獲し、拷問してカクレの情報を聞き出すことができた。
カクレのターゲットは『王族の誰か』だったそうだ。
つまりターゲット候補はユーリ様、ノイシェ様、ポーラ様、ルル様の誰かだ(他学年に王族はいないため、この4人に絞られる)。
さらにこの任務はカクレ全体で動いているらしい。だからまた刺客が送られる可能性は大きいということ。
なぜ王族をターゲットにしたかは不明、ウルスラも知らなかったそうだ。依頼主も不明らしい。ただ、成功報酬には莫大な金が用意されており、その額はカクレが5年で稼ぐ総額に匹敵するそうだ。
2、ウルスラの身柄・ハヅキの処遇
情報を引き出した後、ウルスラはカムラ騎士団に引き渡した。後はウルスラの口から今回の一件が語られれば俺がやむえず大講堂に乱入したと証明できるんだと。ロゼの主人であるポーラ様、セレ王国第1王子のユーリ様が俺の弁明に手を貸してくれており、おかげ様で後数日で釈放されるだろうとのこと。
ただ俺の身の潔白を示すためにウルスラをカムラ騎士団に引き渡したことで、ウルスラの口からハヅキの素性をバラされてしまった。ハヅキは元暗殺者、すぐに追放処分を下されてもおかしくはない。だがカムラ聖堂院はカクレの情報の提供を条件にハヅキがこの地に留まることを許してくれた。カクレの情報を流すため、ハヅキがカクレに狙われる危険性は増えたが、ハヅキは納得しているとのこと。ハヅキのこともきちんと守らないとな。
3、なぜジェイクは自爆したのか
これについては概ね予想通りだった。
ウルスラから聞いた話だと、ジェイクのユニークスキル『
俺とジェイクの力量差は相当のモノだった。俺を生み出すため、アイツは魔力を全て費やしたが足りず、命を消費して無理やり俺の影を召喚したわけだ。
ロゼからは『気にしなくていい』と言われたが、少しばかり責任は感じる。奴の両腕をもっと完全に破壊するべきだった……そうすれば俺の影を召喚されることもなく、ジェイクも死ななかっただろう。いやでもあれ以上やると殺してしまいそうだったしな。力のコントロールって難しい……課題だな。
4、ユウキの機嫌
悪い。すこぶる悪い。
事情はすでに説明しており、ユウキも理解しているが……理屈は抜きにして俺に対して怒っているそうだ。ま、事情がなんであれ、『おとなしくしている』という約束を破ったわけだからな。ジェイク戦、影ダンザ戦で俺が何度か判断ミスしたことも事実。釈放されたらすぐ謝ろう。
「王族の4人が心配だな」
『それぞれの守護騎士にこの一件は説明してある。王族4人の守護騎士は私含め優秀だから、カクレ如きに後れを取ることはないと思うけれど、3日後に問題があってね』
「問題?」
『迷宮演習があるのよ。ほら、カムラ聖堂院が建てた人工迷宮スザク。あそこにパラディンクラスを入れるのよ。生徒2人1組になってダンジョンに挑戦するの』
「危険すぎるな。タワー型の迷宮だろ? 罠こそ少ないが魔物が多い。魔物で消耗させられたところを狙われたらひとたまりもない。守護騎士か教員を同行させられないのか?」
『提案したけど断られたわ。緊張感がなくなって経験値が積めないからですって』
「そりゃそうだろうけどさ……」
生徒だけで挑むからこそ効果的。
その理屈はわかるけども、王族を危険に晒すのは得策じゃないだろうに。
『一応、迷宮脱出用のアイテムが配られるらしいから危険が迫ればそれで脱出してくれるはず。迷宮の周りは守護騎士で固めるし、私の妖精に王族たちを尾行させるから何とかなるとは思うけどね』
「わかった。頭に入れとく。あと頼みがあるんだが」
『なんでもどうぞ』
「俺がいない間、最低でも妖精を一体ユウキにつけてやってくれるか? 心配なんだ」
ユウキはアルゼスブブを宿している。ゆえに、ユウキも悪党共に狙われる理由がある。一人にしておくのは怖い。
「できればお前がポーラ様と一緒にユウキの守護騎士も一時的にやってくれると助かる」
『いいわよ。ユウキちゃん可愛いしね』
「手は出すなよ」
『相手の気持ち次第よ』
このロリコンめ。
『それじゃ、騎士に見つかる前に妖精は消すわ』
「了解。じゃあな」
『おやすみなさい』
妖精の光がポツリと消える。
俺はベッドに横たわりながら、カクレの目的について考える。
『王族の誰かを殺害すること』。
これがカクレの目的。この目的の裏に、一体どんな思惑があるのか。
カムラ聖堂院で王族が殺されたらどうなる? まずカムラ聖堂院は責任を問われるだろうな。もしや、依頼主の目的はカムラ聖堂院の信用低下か?
主要四国の全ての王族がターゲットになっているのだから、どこかしらの国に加担する勢力が依頼主とは考えづらい。
とりあえず、王族が殺されると非常にまずい。国際問題だ。たとえば帝国の皇女であるノイシェ様が殺された後で、依頼主がセレ王国の大臣とかになったら――悪い方、悪い方へ流れ続けたら戦争なんてことも……。
な、なんとしても阻止しなければならないな。
――――――――――
【あとがき】
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