第二十一話 守護騎士修行
ラスベルシア家で過ごす日々は楽ではなかった。その大きな要因はヴァルジアさんの復活だ。
「良いですかなダンザ様! お嬢様は朝食にデザートがついていないと一日のモチベーションが下がります! この残りの僅かな時間でスイーツのバリエーションを百は持ってもらいますぞ!」
「はいぃ!」
ユウキがカムラ聖堂院に通うとなれば、ヴァルジアさんとは当然
ヴァルジアさんは心配なのだ。自分の世話なしでユウキがちゃんと暮らせるかどうかが。だからこうして俺に家事を叩きこんでいるわけだ。
「洗濯の際は擦り過ぎずに! 少しの傷もお嬢様は気づきます!」
「はい!」
「ピーマンを料理に入れる際はバレないようにするべし! お嬢様はピーマンを食べると1日のテンションがだだ下がりです!」
「はい!」
「お嬢様は綺麗好きなので、掃除はマメにやるように!」
「はい!!」
家事は別に嫌いじゃないし、ヴァルジアさんの教え方はうまいから苦じゃない。
家事スキルだろうがなんだろうが、できることが増えるのは嬉しいものだ。
「ヴァルジアさんはどうして、ユウキお嬢様の執事をやっているのですか?」
一緒に料理しながら俺はヴァルジアさんに聞く。
この人のユウキに対する忠義は本物だ。その忠義がどこから来ているのか気になった。
「それは、お嬢様が呪いの子なのに。ということですかな」
「はい。ここ数日でわかりました。あなた以外のラスベルシア家の人間はメイドから庭師までユウキお嬢様を避けている。なのにあなたはそうじゃない。なにか理由があるのかな、と思いまして」
「はっはっは。大した話ではございません」
ヴァルジアさんは嬉しそうに語り始める。
「私の妻が感染症で亡くなった時のことです。私の妻は私と同じくここラスベルシア家で働いておりました。生涯をラスベルシア家に費やした。なのに、妻の墓に……一人を除いて、ラスベルシア家の人間は来ませんでした。葬式にも来ませんでした。感染症が移ると言って」
「そんな……確かに死体から病が感染することはあるけど……」
「妻の意思で、妻の遺体はすぐさま火葬しました。他の誰にも病を移さないように。葬式の時にはもう焼けた骨しか残ってませんでしたよ。でも、それでも彼らは来なかった。そんな中、あのお方だけは葬式にも墓にも来てくださったのです。ユウキ様だけは……」
「それが、あなたが彼女に尽くす理由ですか?」
「小さなことだと思いますか?」
「まさか」
「驚きましたよ。まだ十歳の身で、彼女は周囲に流されず己の善を貫く意思を持っていたのです」
安心した。
どうやら俺のお姫様は守るだけの価値がある人間らしい。
「しかしダンザ様、あなたもあなたでお嬢様の秘密を知った後でもまったく恐れずここにいるではありませんか。魔神が怖くはないのですか?」
「怖くないです。むしろ戦ってみたいですよ」
「はは! これは頼もしい! ……ダンザ様、もう一品作りましょうか。あなたが好きな魚の刺身を」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
ちなみにヴァルジアさんは俺たちがカムラ聖堂院に行っている間は娘夫婦のところに世話になるそうだ。
この人に余計な心労をかけないよう、しっかり家事を覚えないとな。
料理の準備を終え、三人で食事を始めた時だった。
正面の席、ユウキが神妙な顔つきで話を切り出した。
「もうすぐ、
「なんだそりゃ」
「
餞別ってわけか。
「へぇ、いいじゃん。タダより安いもんなしだ」
「この戴宝式には守護騎士も同行します。なので、10日後は予定を空けておいてください」
「はいよ」
「今年、ラスベルシア家からは私を含め、三人がカムラ聖堂院に入るため、三人まとめてこの戴宝式を受けます。妹――アイさんも来るので、また変なことを言われるかもしれませんがどうか気になさらないでください」
「あ~、あの子か~。苦手なんだよなぁ」
あのズケズケ嫌なとこに切り込んでくる感じ、嫌いだ。
「ん? ユウキとアイで二人だろ? 残りの一人は誰だ?」
「最後の一人は分家、血縁上は私の従兄弟にあたるノゾミさんです。男性で、天才的な剣の使い手です。分家なので通常時は本邸にはいません。正直……彼は私やアイさんより、よっぽど出来がいいですね」
「ふーん。剣術の天才か。ちょっと楽しみだな」
「余計ないざこざは起こさないようにお願いしますよ。穏便に終わらせましょう」
「わかってる。その辺、俺は大人だから信じてよ」
こんな姿になっても人の常識までは捨てちゃいない。
穏便に何事もなく終わらせるさ。
――――――――――
【あとがき】
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