第二章 ラスベルシア家

第十八話 フォルカスの街

「おはようございます」

「おはようございます……」


 ギルド本部前に、馬車が一台やってきた。ラスベルシア家の馬車だ。

 だがしかし、御者がヴァルジアさんじゃない。見知らぬメイドさんだ。多分ユウキと同じくらいの歳で黒髪ショート、とても可愛らしいお嬢さんだが……目が怖い。光が無い。


「ダンザ=クローニン様ですね」

「あ、はい」

「ヴァルジア様のご命令でお迎えに上がりました。どうぞ」

「ありがとうございます」


 荷室に入る。荷室は俺だけのようだ。他に誰もいない。

 馬車の窓から外を見る。ギルドの見送りは誰もいない。昨日の夜、どんちゃん騒ぎしたからみんな酔いつぶれてるのだ。俺はこの体のおかげで酔いは一切ない。しかし、まったく酔えないと言うのはそれはそれで寂しかったりもする。


 馬車に揺られ、街道をゆく。


 今日、俺はこの街を去る。向かうのはフォルカス。この北方地方の中心地だ。ラスベルシア家の本邸に俺は行く。


 クロッセルを出て、草原を暫く走り、フォルカスの街に入る。


 フォルカスはとても綺麗な街だ。クロッセルは荒くれ者の街だから、建物はどれも派手で薄汚い(個人的には好みの街並みなんだけどね)。一方フォルカスは綺麗で統制が取れた街並みだ。


 空にハーピーが飛んでいたり、耳の尖ったエルフが歩いていたり、ユウキの言う通り多種多様な種族がいる。これにはきちんと理由があって、こういう国に保護されている街は異種族優遇の制度があり、基本的に異種族は住みやすくなっているのだ。だから異種族が多い。


 街の中心、貴族街。


 そのまた中心に俺は運ばれた。


「到着しました」


 メイドさんの言葉を聞き、俺は荷室を下りる。

 正真正銘の城が目の前にあった。噴水のある庭、迷いそうなほど広い菜園、監視塔もいくつもある。


 俺が正面の城に入ろうとすると、


「そちらではありません」

「え?」

「ユウキ様の住処はこちらです」


 メイドさんは城のすぐ近くにある菜園を歩く。俺も後をついていく。


「さっきの城はラスベルシアの本邸じゃないのですか?」

「本邸ですよ。ラスベルシアの人間はあの本邸に住んでいます。ですが、ユウキ様のみ、別居に住んでいます」


 貴族の暮らしに詳しくないから何とも言えないが、一人だけ別の家って、寂しいというかなんというか。嫌な感じだな。


「こちらです」


 二階建ての屋敷。

 広いし、住む分に困りはしないだろうが……地味だ。菜園の一部に取り込まれているから周りは草と木だらけで陰鬱な空気がする。


「では私はこれで」

「はい。ご案内ありがとうございました」


 メイドさんは去っていく。

 俺は扉を開き、中に入る。


「失礼します……」


 玄関ホール。灯りが少なく薄暗い。

 人の気配がなくて、虫の鳴き声が良く聞こえる。


「ご足労いただきありがとうございます」


 ユウキが階段の上から声を掛けてきた。

 ユウキは階段をおりてくる。


「申し訳ございません。ヴァルジアはいま体調を崩していまして、ロクなおもてなしはできないのです」


 ユウキが出迎え、ってことは、まさかヴァルジアさん以外に従者がいないのか? こんな広い屋敷で?


「それは構わないけど、えっと……」


 ユウキは俺の前まで来ると、眉尻を下げて困ったような表情をする。


「色々と気になりますよね。必ず説明するので、少し時間をください」


 ユウキは「こちらへ」と階段へ来るよう促してくる。


 案内された二階の部屋。

 天蓋付きのベッド、でっかいクローゼットやら机やら窓がある部屋だ。


「今日から入学まで、ダンザさんにはこちらで過ごしてもらいます。隣が私の部屋になります」


 こんな豪勢な部屋に泊まれるとは役得ってやつだな。

 ユウキが隣の部屋なのも好都合。なにかあった時、すぐに助けに行ける。


「いまコーヒーを淹れてきますね」

「お、それは助かる。お願いするよ」


 手荷物をクローゼットなどに入れる。

 カーテンを開き、窓を開けると、後ろで扉が開く音が聞こえた。

 ユウキかな? と思い振り向くと、


「うっわぁ~! ホントにリザードマンじゃん! の守護騎士」


 ユウキに……よく似てるが違う。ユウキは黒と白が混じったロングヘアーだが、そこに立っていたのは真っ白な髪でボブヘアーの女の子だった。隣にはさっき俺をここまで案内したメイドさんもいる。


「誰ですか?」

「アイ=ラスベルシア。あなたのお姫様の双子の妹だよん。あ、この子はアイの守護騎士のハヅキね。可愛いでしょ?」


 アイと名乗った子はメイド――ハヅキの頭を撫でる。まるで猫を撫でるようにくしゃくしゃと。


「アイ様は一体俺に何用ですか?」

「あっれ~、なんか態度冷たくない~? 別にいいけどさ、リザードマンに好かれても気色悪いし」


 いけ好かない雰囲気だな。なんとなくザイロス達を思い出す。


「でも一応、あなたに教えておかないと思ってさ~。知ってる? お姉さまのヒ・ミ・ツ♪」

「知らないし、聞く気もない。そういうのは本人の口から聞く。本人が話したくない秘密なら、一生知らないままで結構だ」

「カッコいい~。でもさ、これはあなたにも関係あることだよ? だって、下手したらあなた……」


 アイは厭らしい顔で言う。


「お姉さまに殺されちゃうよ?」




 ――――――――――

【あとがき】

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