第十七話 決着

「う――!? ああああああああああああああああああっっ!!?」


 可愛げのない濁声が響き渡る。

 ムゥの手から落ちたカードは砕け、ライラちゃんへと変化した。『札封殺イート・カード』は強力なスキルだが、維持するのに強い集中力が必要。右腕を失った痛みと動揺でその集中が切れ、スキルの効果が消えたのだ。


 俺はすぐさまライラちゃんの元へ行き、彼女を抱えて距離を取る。


「ダンザさん……すみません。足を引っ張ってしまい……」

「気にしないでいい。これまで俺が君のおかげでどれだけ救われたと思っているんだ。今はゆっくり休んで」


 俺はライラちゃんを寝かせて、再びザイロス達の前に出る。


「あう……あっ、あぁ!?」


 ムゥは未だに痛みに悶えている。そのムゥの様子を見て、ザイロスとカリンは体を震わせていた。

 ようやく奴らは理解したようだ。どちらが捕食者で、どちらが獲物なのかを……。


「どうする? あと一撃、残ってるぞ」


 俺が脅すとザイロスはカリンの腕を引っ張り、自分の前に出して盾にした。


「ちょ、なにすんの!?」

「お、お前に一番暴力振るってたのはコイツだろ! コイツにしろよ!」

「ふざけんな! あのオッサンを囮にしたのはアンタだろ! ね、ねぇ。お願い……お願いします! 許してください! あ、あたしにできることならなんだってやるからさ。あたしは許してよ! ねぇ!」


 醜いな。

 悪党としても三流というかなんというか。本当に、こんな奴らにこびへつらっていた過去が恥ずかしい。


 二人とも、タダで帰す気はない。

 俺はそこまで善人ではない。

 相応の傷は負ってもらう。


「“炎填・灼息”」


 俺は一刀の内に、ザイロスの左腕と、カリンの右腕を斬りつける。

 斬撃のダメージ自体はかすり傷程度。だが、切り口から火炎が起こる。


「あっ――」

「つぅ!!?」


 ザイロスの左腕とカリンの右腕は火炎に包まれ、指の先から灰になっていく。


「全員腕一本ずつ。ひとまずこれで収めてやるよ」


 三人の叫び声が重なる。

 俺はライラちゃんを背負い、宝器のマントを手に持ってその場を後にする。


「さよならだザイロス。二度と俺の前に現れるなよ」


 街に向かっていると、向こう側から馬車がやってきた。御者がヴァルジアさんだったので、荷室にいるのはユウキお嬢様だろう。


「ちょうどいいところに」


 馬車は俺の目の前で止まる。


「ダンザ様! そちらの方は大丈夫ですか!?」

「大丈夫じゃないです。衰弱してます。なにか治療道具はありますか?」

「私にお任せください。治癒魔法の心得がございます」

「そうですか。じゃ、お願いします」


 俺はヴァルジアさんにライラちゃんを渡す。ヴァルジアさんがライラちゃんを荷室に入れると、入れ替わりにユウキが出てきた。


「……そのマント、宝器ですね」

「お、見てわかるかい?」


 俺は宝器を掲げ、ユウキに見せる。


「これで俺がキミの守護騎士ってわけだ」


 俺はその場で跪き、右手を差し出す。こんな姿だが、騎士の真似事だ。


「これからよろしく頼むよ。主殿」

「はい。これからよろしくお願いします……ダンザさん」


 ユウキは俺の、リザードマンのゴツゴツとした右手に、その白くて細い左手を乗せた。

 こうして俺はユウキの守護騎士になった。



 --- 



 迷宮を攻略してから一週間が過ぎた。

 ラスベルシア家の後押しもあり、ギルド総会に俺とライラちゃんがまとめた告発状は受理された。ギルドメンバー達の証言もあり、ザイロス・カリン・ムゥの三名はギルドより永久追放処分となった。これで彼らはもうギルドに所属できない。ギルドに所属できなければロクなクエストを受けることができないため、アイツらの冒険者としての人生は終わったと言える。


 気がかりなのは誰もアイツらの姿を見ていないこと。

 またろくでもないこと考えてなきゃいいんだが。


 俺は現在、北のノース傭兵団マーセナリーズのギルド本部でザイロスを追放したことを祝う打ち上げに参加していた。


「いやぁ! まさかダンザさんがリザードマンになっていたとはなぁ!」


 後輩の35歳の男戦士、ハリマが肩を組んでくる。俺より年下だが、顔中髭塗れで50歳ぐらいに見える。


「ダンザに助けられる日が来るとはな」

「凄いよダンザさん! あんな冴えないオッサンだったのに!」

「ダンザさんのおかげで、いつも通りのギルドに戻ったね」


 ザイロスのせいで出ていった人たちが戻ってきた。さらにザイロスによって強制されていた制服も元に戻った。

 和気あいあいの空気……俺の大好きな北のノース傭兵団マーセナリーズの空気だ。


「そんでダンザさん、次のギルドマスターは誰にするつもりですか~?」


 酔ってるせいか、ハリマが無神経に聞いてくる。


「俺はいつでも準備できてますよ!」 


 とハリマは言うが、


「なに言ってんのよ! 次のギルマスはダンザさんに決まってるでしょ!」

「そうそう! 三下は引っ込んでてよね! ザイロスにぺこぺこしてたクセに!」

「さ、三下ぁ!? お前らだってザイロスに逆らえなかったじゃないか!」

「あはは……みんな落ち着いて。その件についてはもう決めてあるんだ。俺の一存で決めるのもどうかと思ったけどね。やっぱり誰かが舵を取らないと」


 みんな酒を飲む手を止めて、息を呑む。


「俺は……ギルドマスターにはならない。これから守護騎士としてユウキお嬢様に三年間付き添わないといけないからね」


 ハリマがゴクリと唾を飲み込む。

 それなら俺か……? とでも思ってそうな顔だ。残念、それだけはない。


「次のギルドマスターは、ライラちゃんに任せようと思う」

「ええぇ!!?」


 後ろで、酒を運んでいたライラちゃんが驚きの声を上げる。


「ちょ、ちょっとなに言ってるんですかダンザさん!! 私、魔法も武器も使えないんですよ!? 受付嬢ですよ!?」

「なにも強くなくちゃギルマスになれないわけじゃない。俺はライラちゃんほどこのギルドを愛している人間を、理解している人間を知らない。キミがギルマスに相応しい」

「で、でも私なんか……」

「周りを見てみなよ。否定しているの、キミだけだよ」


 ハリマも、他の面々も、笑顔でライラちゃんを見守っている。

 みんなわかっているんだ。彼女がどれだけ、ギルドのために働いてきたのかを……。


「……わかりました」


 ライラちゃんは涙ぐみながら頷く。


「私が、このギルドを守ってみせます」

「うん。任せたよ」


 これでこのギルドはもう大丈夫だ。心置きなく旅立てる。


「それじゃ!」


 俺はジョッキを上げる。


「新ギルドマスター就任を祝って、乾杯!」

「「「かんぱーい!!!」」」


 全員でジョッキをぶつけ合う。

 いつぶりだろうな……こんな賑やかな夜は。


 ――――――――――

【あとがき】

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何卒、拙い作家ですがよろしくお願いします!

小説家になろうでも連載中です!

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