神竜に丸呑みされたオッサン、生きるために竜肉食べてたらリザードマンになってた

空松蓮司

第一話 化けて出てやるからなぁ!!

 人生とは、生まれつきの才能で全てが決まると思う。


「おいオッサン! 早くしろよ!」

「はい! ただいま!」


 例えば、俺のようなボンクラはオッサンになっても荷物持ちだ。

 一方、才能に恵まれたあの金髪野郎、ザイロスは両脇に美女を抱えてAランクパーティを率いている。


「……さみぃな。クソ……」


 雪山を、四人分の荷物を背負って登る。

 前の三人は炎魔法で暖を取り、楽しそうに談話しながら登っている。俺は厚手の服を着ているが、魔法による保護なし。寒さに歯を軋ませながら登っている。途中、寒さのあまり膝をついてしまった。


「ちょっとぉ! 荷物揺らすんじゃないよ! 化粧品が割れたら弁償してもらうからね!」

「……信じられません。荷物運びすら十分にできないとは」


 女格闘家のカリン、女魔法使いのムゥが俺に軽蔑の視線を向ける。俺はなんとか立ち上がり、また歩を刻み始める。


 今年で38歳。

 努力はした。毎日欠かさず剣を振ってきた。すべての可能性を試した。

 それでも結果、この有り様だ。鍛えた体で荷物を運ぶ始末。

 俺は腕に嵌めてある万識の腕時計ワイズウォッチを見る。この時計はとある高名な賢者が作った物で、ほぼすべての冒険者が着けている。時計部分が液晶になっており、装着者の意思で液晶に映る画面を切り替えることができる。機能は様々だが、一番便利な機能は装着者のステータスを測る機能だ。


 俺は画面を自分のステータス画面に変える。


■ダンザ=クローニン

■力152 耐久101 敏捷82 運230 生命力90 魔力34

■ユニークスキル『鋼鉄胃袋アイアンストマック(ランクF)』

■耐性なし


 冒険者のステータスの平均値はそれぞれ150。つまり俺は力と運以外すべて平均以下というわけだ。先行する三人は俺の倍のステータスを持っているだろう。

 ここ三年、この数値が上昇したことはない。なんなら下がっている。

 やってらんないね。まったく。


「す、すみません。休憩をとりたいのですが……」


 俺が提案すると、ザイロスは血走った目つきで、


「ざっけんなジジィ! 神竜しんりゅうが来るまでもう時間がないんだぞ!」


 じ、ジジィ? 38歳ってジジィなの?


 誰もパーティ組んでくれないから、このパーティに入ったけど最悪だ……どうして俺、こんなザマになってまで冒険者という職にしがみついているんだろうな。


「はぁ……はぁ……!」


 白い息を吐きながら、なんとかついていく。


「着いたぜ! 頂上だ!」


 ザイロスが一足早く頂上に着く。

 やっとか……あと100メートルあったら死んでたな。

 俺はその場に座り込む。


「あーらら、オッサンくたばちゃった」

「ほっとけ。もうそいつの出番はねぇからな」

「そうですね。そろそろ神竜が来ます。皆さん、準備を」


 遥か遠く、黄金の気を纏った竜がやってくる。

 神竜ヨルムンガンド。全長18km。翼はなく、蛇のような長い胴体を持つ竜だ。

 蒼の角、黄金の鱗、白銀の牙。いずれも神々しい。


「アレが世界中の空を周っている神竜か。すげぇな」

「いっちょ戦ってみたいねぇ」

「カリンさん、今日の目的はアレを討伐することではありませんよ」


 そう。今日はあの竜を倒しに来たんじゃない。そんな伝説の英雄でも救世の勇者でも不可能なことをしに来たんじゃない。


「そうだ。今日はあの竜の鱗を剝ぎ取りに来た! 神竜の鱗があれば聖剣が作れる! ようやく俺様に相応しい剣が手に入るんだ!」

 

 聖剣かぁ。昔は俺も憧れたもんだ。

 

「射程に入ったら顎の下を狙え。あそこの鱗が一番脆いらしいからな」


 竜は常に雲の上をゆく。何の目的もなく、ただ空を進んでいる。アレに攻撃を当てるためには高い所へ登らないとならない。

 もうおわかりだろうが、神竜に攻撃を当てるために俺たちはわざわざこのシナズ雪山せつざんの頂上に来たわけだ。


「オッサン! 爆弾寄越しな!」

「は、はい!」


 俺はバッグを開き、ボールの形をした鉄の塊、爆弾をカリンに渡す。……これが重かった。

 神竜が――射程に入る。


「俺の合図に合わせて一斉に攻撃しろ! ……3、2、1――GO!!」


 ザイロスは手から蒼い炎を出し、カリンは爆弾を投擲、ムゥは杖を振って雷を出す。俺は傍観。ここから届く魔法も技も持ってないからね。

 神竜の顎下にすべての攻撃が当たる。さすがAランクパーティ、見事に同時だ。神竜の顎から、キラキラと光る物体が落下した。恐らくは鱗だろう。鱗は雪山の中腹辺りに落ちていく。


「よっしゃ成功! 後は落ちた鱗を回収するだけだ!」

「早く隠れましょう。神竜に見つかる前に……」

「そう焦るな。神竜は滅多に人を襲わないらしいから――な?」


 神竜は滅多に人を襲わない。よほど自身に危害を加えてきた相手以外は襲わない。ゆえに人々は神竜に対し、強い害意を持っていない。むしろ信仰しているぐらいだ。神竜が到来した地には幸福が訪れると、そう言われている。


 神竜は人を襲わない――はずだった。


 神竜は、黄色く鋭い瞳をギョロっとここ頂上に合わせ、牙を剥き、進行方向をこっちに急転換させた。

 暴風を纏い、神竜は俺たちを食わんと突進してきた。


「「「「うわああああああああああああああっっっーーーーーーー!!!!!?」」」」


 全員、一斉に、なりふり構わず逃げ出す。

 俺も、自身の疲労などお構いなしに全力疾走した。

 神竜は山を喰らいながら接近してくる。


「おいオッサン! てめぇ囮になれ!!」


 ザイロスが無茶を言ってくる。


「無理です! さすがにその命令は聞けません!」

「アンタ、こんな時ぐらい役に立ちなさいよ!」

「根性を見せる時ですよ」

「無理です無理です! 断固拒否させていただきます!」


 ガン! と俺は躓いた。

 最初は石にでも躓いたと思ったが、違った。視線を下にずらすと、ザイロスの長い脚が伸びていた。


「つべこべ言ってんじゃねぇ! 万年Fランクが!」

「そん、な――」


 俺は転び、一人残される。

 ザイロス達は道を逸れ、俺から離れていく。


「テメェの命と俺たちの命、比べるまでもねぇだろうが!!」


 ふざけんな。

 一体、なんの権利があってこんなことするんだ。

 神竜はザイロス達を無視し、俺へ一直線だ。囮成功。ははっ、笑えねぇ……。


「ちくしょう……ぜってぇ化けて出てやる」


 そんな遺言と共に、俺は神竜に丸呑みにされた。





 ――――――――――

【あとがき】

『面白い!』

『続きが気になる!』

と少しでも思われましたら、ページ下部にある『★で称える』より★を頂けると嬉しいです!

皆様からの応援がモチベーションになります。

何卒、拙い作家ですがよろしくお願いします!


『小説家になろう』でも連載中です!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る