借金二億の俺が、スキル<散財>でアイドルダンジョン配信者を助けたら、バズりまくって取り立て屋が来て鬼詰めされるももう遅い!
トモユキ
第一章 債務者、ダンジョンへ行く
1-1 ハマ♡ムスメ
夏休みの横浜は、気温四〇度近い猛暑日。
こんな日はエアコン全開、キンキンに冷えた部屋で布団に潜り、スマホでアイドルのダンジョン配信を見る。これぞ楽園ヒキコモリ。
俺――
やっぱDストリーマといえば、エンジョイ勢のアイドルグループに限るんだよなあ。ガチ勢パーティの『仲間と挑むフロアボス討伐配信』とか見ても、死にたくなるだけだし。
:キララん歌うまっ、耳しゃーわせ!
:みるくとここあのダンス、キレキレでかっこいい!
:おらナデコ、イカラビ画面内に入ってきてんぞ! キビキビ倒せ!
それにしても……今日の配信は同接二〇〇ちょいか。
スマホ画面を流れるコメントも、ひっきりなしとは言いずらく、投げ銭もほとんど見かけない。
ハマ♡ムスメは、愛されボイスのボーカルに、際どい衣装の双子ダンサー、群がるイカレラビットを華麗な蹴り技で屠るファイターの四人組。
メンバー全員、奇跡的と言っていいくらい顔いいのになあ。
「聴いてくれてありがとー! 音程ちょっと、外しちゃったかな?」
曲が終わるとリーダーでボーカルのキララんは、ぺろっとあざとく舌を出す。
双子ダンサーのみるく&ここあは「全然気付かなかったよ~」と言って、キララんをハグして励ました。
これこれ。ハマムスといえばやっぱ、メンバー同士のチルい関係。
ちょいエロ感じる美少女たちのスキンシップは、いつ見ても尊い。尊死する。
:そんな事ないよ、上手かったよ~!
:可愛かったからヨシ!
:あらあら、百合百合しい
画面を流れるコメントも、優しさ溢れるヌクモリティ。
ここが魔物の巣窟――ひとつ間違えれば死んでもおかしくない危険なダンジョンだからこそ、きゃっきゃうふふとはしゃぐハマ☆ムスメは、戦場に咲く百合の花園。
見ていてスゲー癒される……はずなのにっ⁉
「ちょっとじゃなく、だいぶじゃないっ⁉」
突然、ハマ♡ムスメのファイター・ナデコが飛び込んでくると、キララんの喉元に水平チョップを叩き込んだ!
その勢いでキララんは大きく後ろにのけ反り、みるくとここあを巻き込んで、三人一緒に倒れてしまう。
:ナデコさあ……
:そういうとこだぞ
:ボーカルの喉に、チョップて
気まずい空気と呆れコメントが流れる中、ナデコは変な形のお箸を持って、カメラに愛想を振りまく。
銀髪にかかるウサギの返り血、らんらんと光る
「ご飯も歌もウマくなる! ハマ♡ムスメ・ナデコプロデュース『ボーカルマイク・チョップスティック』! 購入は概要欄のURLから!」
後ろで大泣きしてるキララん、必死に慰めるみるく&ここあもお構いなし。ナデコはお箸をマイクに見立て、ノリノリでさっきの曲のサビを歌い始めた。
歌いながらちらちら後ろを振り返るナデコだが、誰も彼女を止めようとしない。
ナデコよ。ここで誰からもツッコミが入らないのはな――、
:キララんかわいそう
:仲間が後ろで泣いてんのに、よく笑顔で歌えるな
:これ、買うヤツいんの?
お前の空気読めなさに、メンバーも視聴者もドン引いているからだよ!
「じゃあまた次の配信をお楽しみに! バイバーイ!」
サビを歌い終わったナデコは、強引な〆の挨拶で配信を切り上げた。
画面は暗転し、『Dストリーマ管理局』のロゴだけが虚しく浮かび上がる。
あーあ、こりゃ配信事故クラスだ。今頃切り抜き職人たちが、我先にナデコサイコパス動画を上げてやると、必死に編集してるとこだろう。
それも面白いっちゃー面白いんだけど、アイドルDストリーマグループとしては間違いなくイロモノ扱い。誰もハマムスの歌なんて、聴いちゃいない。
ナデコさえいなけりゃ、ハマ♡ムスメは正統派アイドルグループ路線で行けたかもしれないけど――女ファイターなんて、そうそう見つかるわけもないしなあ。
戦いながらライブするのがアイドルDストリーマのウリなわけだが、ダンジョンにはもちろん魔物が湧く。そのため実際は、パフォーマーとファイターにメンバーを分けるのが定石だ。
そしてファイターに男を採用すると……どうしてもパフォーマーとの恋愛疑惑が取りざたされて、ファンが付きにくい。
だから、貴重なスキル<
平気でメンバーに彼氏の話を振ったり、思いっきり頭をはたいてツッコんだり……そんなとこばかり動画で切り抜かれるもんだから、ハマムスの話題は自然とそっちに集中してしまう。
きっと今回も『ツッコむ時に頭をはたいてはダメ』と注意され、ツッコミ方を変えたんだろうけど……喉チョップはマズかったよなあ。案の定、ハマムス掲示板も荒れてるし。
もしかするとナデコ、アイドルDストリーマという楽園から、追放されるかもしれない。
ま、四畳半の楽園ヒキコモリを満喫してる俺には、関係ないけど。
他に面白い配信ないかなと探していると――、
突然ドオオンと、部屋のドアが爆発した!?
炎と粉塵、かろうじて残ったドア枠から現れたのは……身長二メートルはあろうかという、派手スーツの大男。
驚きで言葉を失う俺に、罵声のような高笑いを浴びせてくる。
「がーはっはっは! まーだ引きこもっておるのか、優平!」
声高に笑う男の名は、
横浜に百年続く老舗暴力団、猪高組の組長で――俺の
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