第3話:よく分かんない憲法の達人。

家事代行をお願いしたら、僕のマンションに中国人の女の子がやってきた。


しかも僕とそんなに歳も変わらないくらいの女の子。

まあ女子高生ってことはないんだろうけど・・・。


「君、若そうだけど・・・ほんとに家事代行さん?」


「そですけど・・・私じゃ、なにか支障おありますでしょうか?」


「あ〜いや、支障とかそう言うことじゃなくて・・・」

「僕はもっとこう、家事代行って言うから中年のおばさんが来るのかな

って思ってたから・・・」


「ベテランさんのほうがよかっただか?」


「だから、君が嫌だとかダメとかって言ってるんじゃなくて・・・むしろ

逆だから・・・」


「逆?」


「おばちゃんじゃなくてよかったって言いたかったの・・・・」

「あ〜もういいです・・・どうぞ中に入ってください」


「私でいいのだか?」


「はい、クーニャンさんで、ぜひお願いします」

「君でいいんだって・・・おばちゃんなんかよりずっといいんだってば・・・」


俺は彼女に聞こえないようボソッと言った。


「え?」


「なんでもないです、どうぞ入ってください・・・話の続きは中で」

「とりあえず上がってください」


若い男の部屋に初対面の若い女がなんの抵抗もなく入っていった。

それはただ仕事だからと割り切っているからに他ならない。


近隣住民の主婦が見てたら、クーニャンさんは「敬四郎けいしろう」の彼女

だって思われたかもしれない。

それにしても、どうしても、こんな若い子が来るなんてなにかの間違いじゃ

ないのかって僕は思った。


「あの・・・お腹お空きになったでしょ?・・・お宅にお伺いする前にスーパーに

寄て食材買ってきただから」

「すぐに支度するあるね・・・」


「ありがとう・・・お願いします」

「こんなこと聞いて気を悪くしないで欲しいんだけど・・・君、料理できるの?」


「愚問あるよ・・・私に料理できるって聞くの」


「ああ・・・ごめん・・・じゃなきゃ家政婦さんなんてやってないか?」


「やっぱり、クーニャンさんの得意分野は中華料理とか?」


「料理全般、どんな料理もこなすあるよ・・・ちゃんと夕食が出来たら

敬四郎、文句ないあるでしょ?」


「もう呼び捨てですか?・・・まあいいけど」


「あ、あのさ・・・あの〜・・・知らない人の部屋にお邪魔するのって、

抵抗ない・・・怖くない?」

「君みたいに若い子が、とくに僕みたいに独り者の男の部屋なんて・・・」


「ご心配なく、私これでも拳法の達人だから・・・」

「私になにかしようとしたら、私に触れる前に病院のお世話になるだよ」

「敬四郎・・・何かしようと企んでるあるか?」


「あ、いやとんでもない・・・何も企んでないし、なにもしないよ」

「そっか・・・うかつに手を出したら返り討ちか・・・」


「なにか?」


「ああ、なんでもないです・・・」


(聞いた俺がバカだった・・・深く反省)


「拳法って言ったけど・・・中国拳法かなにか?」


幽老参人拳法ゆうろうさんじんけんぽう


「なにその拳法、太極拳とかなら聞いたことあるけど、そんなのあんまり

聞いたことないけど・・・」


「私のひと蹴り食らったら、お月さんまで飛んで行って頭から刺さるよ」


「え〜そんなに?」


(でもいまいち信憑性なしだな・・・ほんとに拳法なんて使えるんだか

どうだか・・・怪しい)


「まあ、とにかく夜は晩ご飯作りに来てくれるんだよね、クーニャンさん」


「ほいっ改めてよろしくお願いしますだわ」


「こちらこそ、お世話になります・・・」


「ほいっ、お任せていただけるあるよ?」


そう言って彼女は腰に手を当てて俺を見ると、とってもナチュラルな表情で

笑ったんだ・・・

その笑顔がめちゃ可愛いかった・・・。


僕にとってクーニャンさんはまだ未知の存在だけど、だからこそ

彼女のことがもっと知りたいって思った。


つづく。

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