第49話 綿竹城の攻防

 劉璝は綿竹城に入った。

 城兵は二千人しかいなかったが、彼は絶望しなかった。

 ここでの戦いが雒城を救い、雒城の戦いが成都を救うのだと思った。ひいては益州全体を救うことになる。


 劉備軍二万五千は綿竹城を包囲した。

「まずは降伏勧告を行おう。李厳、使者になってくれ」と劉備は言った。


 李厳は城内で劉璝と会談した。

「劉璝殿、劉備様に降伏しないか。この州を守り切れるのは、あの方しかいない」

「私はそうは思わない。益州を託せるのは、劉循様だ」

 劉璝の言葉を聞いて、李厳は意外に思った。

「劉循様? 劉璋様ではなく?」

「劉璋様と劉備殿を比べると、確かに主の方が劣るのだろう。しかし、主のご子息の劉循様は素晴らしい方なのだ。私は降伏しない。劉循様のために戦う」 

 

 李厳は城から出て、劉備に報告した。

「劉循殿とは、劉璋殿の息子か。そんなによくできた子なのか?」

「実はよく知らないのです」

 李厳は首をかしげた。

 劉循は二十歳の若者で、なんの実績もない。劉璝がなぜあれほど肩入れするのかわからなかった。

「劉循殿はどこにいる?」

「成都城にいたと思いますが、いまどこにおられるかはわかりません」

 劉備は劉循のことが妙に気にかかった。


 劉備軍は綿竹城を攻め始めた。

 はしごを立て掛け、城壁を登ろうとするが、城兵は懸命に守って、なかなか突破できなかった。

「敵の士気は高いな……」

 劉備は目を見張った。

「城兵は二千人ほどらしいです。攻めに攻めれば、必ず落とせます」と龐統は言った。

「そうだろうが、ここであまり犠牲者を出したくない」

「消極的になれば、いつまで経っても落とせません」

「ううむ。だが、なにか不気味な感じがするのだ。用心しろ」


 劉備軍は総攻撃を控え、綿竹城をゆるやかに攻めた。

 二か月が過ぎた。

 城兵の士気は下がらず、いつまでも意気盛んだった。


 劉備は間諜を放って、劉循のことを調べた。

 そして、劉循が雒城にいて、防備を固めているのを知った。

「しまった、本丸は雒城だ。綿竹の戦いは、時間稼ぎにすぎない。用心しずきて失敗した」

 劉備は総攻撃を命じた。

 黄忠や魏延らが、綿竹城を全力で攻めた。馬謖、劉封、関平、張苞らの若い武将が、われ先にと城壁を登った。

 

「劉璝様、守り切れません。このままでは城壁を突破されます」

 副官が悲鳴のように叫んだ。

「無理に守らなくてもよい。この城は役目を果たした。雒城ではもう、充分に準備を整えていることだろう」

 劉璝は余裕の笑みを浮かべた。

「西門から撤退する。私がしんがりをつとめる。皆、雒城へ逃げよ」


 劉璝とわずかな手勢が城に残り、多くの兵が雒城へ向かって走った。

 張苞が最初に城壁の上に立ち、すぐに関平がつづいた。

「退去する。おのおの、懸命に逃げよ!」と劉璝は叫んだ。


 綿竹城の兵が雒城へ逃げてくるのを、劉循は城塔から目撃した。そのすぐ後ろに、劉備軍の追手が迫っている。

「僕が援護する。味方を迎え入れろ!」

 劉循は騎兵隊を率いて出撃し、劉備軍とぶつかった。

 彼らが戦っている間に、綿竹の兵は雒城に入ることができた。 

 劉璝も生き残って、入城した。


 劉循は最後の兵が雒城に入ったのを見て、城に戻った。

「劉循様、おかげで助かりました」と劉璝は言った。

「こちらこそ礼を言う。あなたが綿竹でがんばったから、雒城の防衛体制が整った。ここで劉備軍を防いでみせる」

「私もまだまだ戦います」  


 雒城まで敵兵を追った魏延は、若い将に迎撃されて、掃討できなかったと劉備に伝えた。

「その若者が、劉循であろう。なるほど、劉璋殿はよい息子を持っているようだ」 

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