第25話 重たい愛も悪くない
うっすらと目を開けると窓から入る光からもう陽が高く昇っている事が分かった。
いけない、今何時?頭がふらふらする。
いつものようにベッドサイドに置いてある時計を確認しようとしたが、見慣れない天井が目に入り、ここが自分の部屋では無い事に気付いた。
ゆっくりとあたりを見回し、右を向いた時に「は?」と言って固まった。固まった私の目線の先には肘をついて「おはよう」と寝転んで微笑んでいるディラン様がいた。
え?
私は一気に目が覚めた。
もうバッチリ目が覚めた。
私の眼は落ちそうに開いていたと思う。
驚きすぎると声が出ない。
「????」
「よく寝れたか?」
身体を起こし、「ふっ」と笑うディラン様に私はポカンとした顔で頷いた。
低い声がちょっとかすれてるのはディラン様も寝起きだからかもしれない。黒く長い髪はほどかれていた。
えっと?どういう事?
ここは何処で、なんで私は寝てたのかな?
昨夜の事を必死に思い出そう。
・・・。
確か、部屋に帰ろうとしてディラン様に捕まり、いきなり知らない家に連れて行かれて、話をしようと言われたけど何故か指を咬まれたんだ。部屋は寒くなるし、なんだかディラン様は怖いし、なんで咬むんだ、猫や犬じゃないんだと思っていると同棲の話を勝手に決められていて怖さや今までの不安さで腹が立ったんだった。
ここはあの時の家か。
そして結局、どうなったんだろう。
・・・。怒ってそれからは?怒った事までしか覚えてない・・・。
不味い。非情に不味い。
不満をぶつけたのは覚えているけれど、解決はしてないんじゃなかろうか。
どうしよう。
私はアワアワしながらゆっくりととベッドにもぐりこみ、自分の服をごそごそと確認し、こっそり顔を出してディラン様の状態も確認した。
服はボタンが外れてたけど、異常なしだった。ディラン様もボタンは外れているけどシャツを着ている。
ホッとしているとディラン様とバッチリ目が合った。
「クレア嬢?気が済んだか?」
「ディラン様。あ、あの。はい」
「具合は悪くないか?」
パニックになっている私を嬉しそうに見て、手を伸ばすとグイっと抱き寄せられた。
「離れると寒いだろう。もう少しこうしていよう。くっつくと温かい」
「!!」
近い!
顔に熱が集まってくるのが分かり、ディラン様を見上げると嬉しそうにみられて「うん?」と聞かれながらおでこにちゅっとキスをされた。
「!!」
「何か飲むか?喉が渇いているだろう?」
「は、はい」
「水を飲むといい。後でお茶をいれよう」
「ど、どうも」
私は起き上がろうとして上手く力が入らず、ディラン様に支えて貰って水を飲んだ。
ゆっくりと水を飲むと身体に染みわたって行くのが分かった。
「有難うございます。力が入らない。どうして?」
「すまない。私のせいだな。魔力に当てられたらこうなる。今迄に魔力酔いは?水はもういいだろうか?」
「魔力酔い・・・。少しめまいがしますけど、大丈夫です。魔力酔いの経験はありません」
「そうか・・・」
ディラン様はそう言うと空っぽになったグラスを置き、ゆっくりと私の体を自分の方へともたれかかるようにした。
「あの。重たくないですか?」
「いや。本当に具合は大丈夫だろうか?」
ディラン様を見上げると、ディラン様は動かずに私を見ていた。
「大丈夫です。それよりも何故、私達は一緒に寝ているんでしょうか?」
「昨夜、クレア嬢は急性魔力過剰状態になった。先程言った魔力酔いだな。少し酷い状態になってしまい、心配で傍に付き添っていた。私のせいだ」
「あ、成程・・・」
「その服では寝辛かっただろう?次、このような事があれば着替えさせても良いだろうか?」
「いえ、大丈夫です!」
「遠慮はしなくていい。次は私が着替えさせよう。クレア嬢の許可が欲しかった」
ディラン様の基準が独特な感じがしたけれど、本当に嫌な事はしないだろうし、深く考えない様にした。
ディラン様は黙っている私の髪をゆっくりと梳き、「綺麗な色だ」と言い、ベッドサイドに置いてある紙を手に取ると、ゆっくりと私を抱きかかえて紙を読めるようにして見せてきた。
「私達の婚約許可が出た。クレア嬢はここにサインをしてくれればいい。兄上からは今朝、許可が出た。今度二人で会いに行こう」
「は?」
ディラン様はペンを私に持たせてそっと手を添えている。
今朝?婚約許可?サイン?
私は王室の印が押してある目の前の紙を急いで読むと、兄の名前と最後に国王陛下と王妃様のサインがあった。
「え?」
「婚姻まではもう少し時間がかかる。すぐに婚姻でも良いのだが、半年から一年は婚約期間をと兄上から返事を頂いた」
「お兄ちゃんが?」
「婚約を喜んでくれていた。クレア嬢宛の手紙が添えてあった。後で渡そう。それと、婚約者になるのだから、様はもういらない。ディランと呼んで欲しい。ディーでもよいが。私もクレアと呼んでもいいだろうか?」
「はい、でも、ディラン・・・ってちょっと言いづらいかなと。私はクレアでも、リアでもいいですけど」
ディラン様は私の指を触り、左手の薬指をゆっくりと曲げていた。
「ゆっくり慣れてくれればいい。でも、やはりディランと呼ばれたい。クレア、近いうちに婚約指輪を買いに行こう。一緒に選ぼう」
「本当に?あの。私と婚約?」
「・・・嫌だっただろうか?」
「嫌じゃないけど、ちゃんと先に言って欲しかった。私になんでも聞いてくれるんですよね?嫌な事はしないんですよね?」
「勿論!ただ、これは急がないといけないと思って。・・・勝手に手続きはすませた。すまない・・・」
「ちゃんとした言葉が欲しいです」
「すまない。・・・クレア、私と結婚をして欲しい。君だけを愛し、君に私の全てを捧げ、君の全てが欲しい。頼む、私の手を取って欲しい」
私の手を取って、不安そうに私を見るディランは可愛いと思う。
「はい。宜しくお願いします。私達、ちゃんと沢山、話をしましょう。私達のルールを決めましょう。仲良く過ごしていきたいから」
「ああ!勿論!よかった。何でも言って欲しい」
「はい、あの、私、ディラン・・の事、好きです」
恥ずかしいけど、ちゃんと言えた。
「ああ!!大切にする。クレアだけいればいい。私の方がクレアの事が好きだ。私は幸せだ」
ディランは私を後ろからぎゅうぎゅう抱きしめると、そのまま抱きかかえ、ソファーに移動をし、私をゆっくりと座らせお茶の準備を始めた。
「ああ。幸せだ。クレア。もう、部屋の移動は私が抱えて移動をしよう。口に入れる物も全部私が用意したい。ああ、可愛い。今日はクレアの服を見に行こう。さ、サインを書いてくれ」
結局、サインを急かされ、私がサインをすると急いでその紙を取られ、ベルを鳴らし、現れたセバスさんに手渡すとディランはまた私を抱きかかえるようにしていた。
「クレア、色々と聞きたい事はあるのだが、好きだ」
「はい、私も好きです」
こうして私はディランの婚約者になった。周囲が心配する程の重たい愛を受け、魔力に慣れるようにと魔術棟に頻繁に顔を出して、ディラン様が喜んだり、嫉妬したり周りが困ったりしながらも、私に真っすぐに愛を捧げてくれるのなら、重たい愛も私は悪くないと思ってしまっている。
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