第22話 話し合いのはずなのに
*ヤンデレ要素多いです。苦手な方はそっと閉じて下さい。
「ディラン様・・・」
私が呟くと、ディラン様は大股であっという間に私の隣迄来て「おかえり、クレア嬢」と言うと、私の荷物と手首を持ち、アパートの部屋とは反対の方へゆっくりと向きを変えて歩き出した。
前を向いて歩くディラン様の眼が夕焼けに染まって真っ赤だった。
「ディラン様?あの、私の部屋は向こうで」
「クレア嬢。ゆっくりと話をしよう」
「え?あの?話なら私の部屋で」
「大丈夫。明日はクレア嬢は休みだ。ロジャーには連絡している」
「は?え?」
口調は優しいのにヒヤリとするほど声は冷たく、私の手首を握るその手は熱かった。
魔動車の前で待っている人が私達を見てお辞儀をしてドアを開け、ディラン様が頷いて乗り込むと、私は引っ張られるように乗り込んだ。
ディラン様の方から冷気がする。
私の腰にはディラン様の手が回され、もう片手は手首を持たれていて身動きが取れない。
「あの?どこへ?」
「大丈夫。私の家に行こう」
「ディラン様の?」
「ああ。屋敷とは別に私の個人の物だ。そこでならゆっくりと出来る」
「あ。はい・・・」
「セバス。出してくれ」
ディラン様が指示を出すと、魔動車は走り出し私が住んでいる所から少し離れた場所で止まった。
ここは、貴族街?いや、貴族街の端っこ?
見慣れない場所だからよく分からないけれど、王宮の位置と周りの家から、おそらく高級住宅地で間違いはないはず。
魔動車のドアが開き、ディラン様が先に降りて私はそれに続くように降りたが、その間も手首は離される事はなかった。
小さな庭と駐車できるスペースがある家を見上げていると、また、手を引かれて家の中に入り、小さなホールを抜け、階段を上り二階の一室に入った。
「さあ。どうぞ、くつろいでくれ。今日はメイドがいないから、出来合いの物を用意している。キッチンに食べ物があるはずだ。セバス、お茶の準備を。クレア嬢の荷物も頼む」
「はい。ディラン様。お茶の準備後は私は屋敷の仕事に戻りますが宜しいでしょうか?」
「ああ。そうだな。仕事中だったな。屋敷に戻ってくれ。後は私達だけで大丈夫だ」
「かしこまりました。どうぞごゆっくりお過ごし下さい」
セバスさんはお茶の準備をすると、お菓子を出して一礼し、帰って行った。
ドアがパタンと閉まると、部屋の中はしんとしてに二人きりになってしまった。
どうしよう。
ディラン様の周りからなんでさっきからずっと冷気が出ているんだろう。
「ディラン様?」
「私は、クレア嬢に優しくしたい。君に嫌われる事はしたくないと思っている」
ディラン様は私の手をゆっくりと離すと、「動かないで」と言って、目の前の用意されたポットからお茶を淹れ、私の前に出すとお菓子を一つ摘まみ、私の口元に差し出した。
「クレア嬢、このお菓子は新商品だそうだ。ほら、食べて」
「え。あの、自分で」
にっこり笑っているのに眼が笑ってない。
「私が怖いのか?」
「いえ!ただ、なんで、ここにいるのか、とか」
「ゆっくり二人きりで話をしようと言っただろう?邪魔はいらない。さあ、食べて」
ゆっくりと口元に差し出されるが、ディラン様の眼の色の赤みが増している気がする。部屋の空気がゆらゆら揺れているし、窓はゆっくりと白くなって、部屋の温度まで冷えてきている。
寒い。
私がお菓子をじっと見ていると、「うん?」と優しい口調で唇にトントンと、焼き菓子を押し付けられた。
「ほら。口を開けて」
私がゆっくりと口を開くと、お菓子が口の中に入れられた。私がゆっくりと口を閉じるとディラン様の指が口の中にまだ入っていて慌てて口を開けたがディラン様はニコリと笑って、私の口から引き抜いた自分の指を舐めていた。
ゾワっと背筋に何か走った気がした。
「クレア嬢?」
「ご、ごめんなさい」
「うん?いや、問題ない。何も悪い事をしていないだろう?クレア嬢は優しい人だ。それなのに」
ディラン様はゆっくりと私の手を持つと、私の指に咬みついた。
「痛!!」
「早く私の印が無いと、と気が急いてしまった。君の指に私の印があるのは素敵だ。リングを嵌める指に意味があるクレア嬢は知っているか?」
「は?え?」
「右手や左手でも意味が違うようだが。小指。これはシグネットリングをつける。クレア嬢は見た事がないかな。私がつけているコレだ。手紙を封する時に使う。印になる。クレア嬢にも私の印をつけれたらいいのにと思う」
ゆっくりと私の小指を撫でながら、ディラン様は説明をしている。
部屋の温度は冷えたままで、空気の揺らめきを見ながら私は白い息を吐き出した。
「次は親指。ここに着けるのは弓を扱う騎士が多い。弓を引く時に便利だ。剣を扱う者は指輪をつけない。また平民の中にはこの指が力を象徴するとも言われているから商人なんかはよく指輪をつけている」
今度は私の親指を撫でる。
「次は人差し指。この指は魔力がある物が大事にする指だ。昔、魔法使いが杖を使わず指を振って魔術を使ったと言う。その為、この指に魔力が宿ると言われている。魔術士や治療師などはここに指輪をはめる者も多い」
私の人差し指を触り、ゆっくりと曲げて指の付け根を撫でていった。
「中指。平民が一番指輪をつけているのがこの指だ。また大臣達はこの指に陛下から下賜された指輪をつけている。今までは興味がなかったが、魔術大臣になぜこの指なのか聞いたら、指の中で一番長いからだと。意味が分からない答だった。きっと昔の慣習だ」
私の中指を触り、「君の中指は小さいな」と言って撫でられた。
「最後に薬指。この指は婚約指輪や結婚指輪をはめるらしい。愛の証の指だそうだ。クレア嬢の指はどの指も可愛いな」
そう言って私の指を取ると、薬指を撫でて、またカリっと咬まれた。
「あう!」
「はやくこの指に嵌めたいと思うと我慢が出来なかった。私の指にも早く嵌めれたらいいのにな。クレア嬢も咬むか?」
「あっあの」
「クレア嬢は私に話があるのではないのか」
「!」
「何か言いたい事が?」
「あの」
「まあ、内容次第ではこの家から出せないかもしれないし、聞きたくない事であれば、クレア嬢の口を塞いでしまうかもしれない」
「ひっ」
「クレア嬢は逃げないだろう?まあ、逃がさないが」
ディラン様はにっこり笑って私の薬指を撫でている。私はそんなディラン様を見ているだけで目が閉じれない。涙が浮かんでいると思うが、なんて答えていいのか分からない。
なんで、こうなってしまったの?
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