第15話 優しく包み込んで オニール視点
クレアたんをアパート迄送り、アパートのドアに防御魔法をかけ、周辺に魔道具を設置した。コレですぐに何かあれば駆け付ける事が出来る。
クレアたんの部屋の窓に明かりが点いて、分厚いカーテンが閉まったのを確認し、ロジャーとの待ち合わせの酒場に向かった。
酒場の個室に入るとロジャーはもう先に飲んでいた。
「おお。ディラン、楽しかったか?で。クレアとは付き合う事になったのか?」
私も席を案内した店員に酒を注文し、ロジャーの正面に座った。
「勿論。正式なお付き合いの許可を頂いた。クレア嬢からはお互いを名前呼びする許可も貰ったし、私の事を優しいし、素敵だと言われた。手を繋いで公園を散歩し、お揃いのペンを購入した。このペンは婚約記念品だと思う」
胸元のペンを撫でて黄色の石をうっとりと見つめるとロジャーが「まてまて」と言った。
「おい。お前の妄想じゃないよな?本当に付き合うんだな?婚約は気が早すぎだろ?がっつくと嫌われるぞ。お前、クレアから素敵って言われたの?怖いじゃなくて?ああ、無敵じゃねえ?知的ならありえるか?クレアは目は悪くなかったよな?」
「クレア嬢の言葉を聞き間違えるはずがないだろう?ロジャーは馬鹿か?」
「お前、本当、酷い」
「なに?がっつくと嫌われる?クレア嬢は確かに恥ずかしそうにしていたが、嫌がってはいなかった。これからも恥ずかしがりやの彼女に私が優しくリードすべきだと思う」
「どこ頑張ってんだよ」
私の前に酒が運ばれてくると、ロジャーはまた新しい酒と肉を注文した。
「おい。お前もなんか食えよ。あ。レッドボアの煮込みがあるぞ。これも頼もう。あと、この本日のおすすめを二人分。ボトルでワインも。クレアは交際するか悩んではいたみたいだがなあ」
「はあ。そう言えば、彼女は私が貴族な事を気にしていたな」
そう言えば、こいつも貴族だったと思ってロジャーに聞いた。
「まあなあ。そりゃ気にするかもな」
「自信が無いと。私が貴族で金持ちで筆頭魔術士で、優しくて素敵だから」
「嘘じゃないんだろ?クレア、頭大丈夫なのか?」
ロジャーは頷いて酒を飲んだ。
「ロジャーだって貴族だ。今どき貴族を気にするのか?王族なら分かるが。私は古いばかりの貴族で、父上もクレア嬢が平民だろうと気にせず歓迎している」
「俺の家はそれこそ名前だけだ。土地も何も持ってねえ。古い大きな屋敷と家柄だけだよ。お前の所は違うだろ?まあクレアはそういう所を気にしてるんだろ」
「どういう所だ?」
「気にしないのにって所だ」
「分からない」
「まあ、クレアに優しくしてやってくれ。今日は楽しかったんだろう?」
運ばれてきた料理と酒を俺の前にロジャーは置きながら聞いてきた。
「それはもう。可愛くて、何度連れ帰りたいと思った事か。今、我が家にクレア嬢の部屋を作るように計画しているが早めた方がいいな。彼女が我が家に来た時に快適に過ごせる部屋がないと駄目だろう?甘い物が好きなようだから、我が家のシェフにも菓子のレパートリーを増やす様に言ってある。もう帰る必要が無い様にしないといけないからな」
「ああ。だから思考がやべえ」
「今すぐに閉じ込めたいし、誰とも合わせたくない。ただ、彼女が外で楽しそうに笑っているのを見るのはとても可愛いので仕方がないとも思う。あのアパートからは早く引っ越しをして欲しい。防御魔法をかけたが、あのアパートでは少し耳をすませばクレア嬢の声が聞こえてしまうからな。両隣と下の住人の耳を潰してやりたいが、クレア嬢が助けを求めた時に聞こえないのは困るし、何かあった時に盾は必要だ。悩ましい所だ。ああ、でもクレア嬢を助けるのは私だけでいいか」
早くクレアたんに引っ越しをして貰う為にはどうしたらいいか。
手っ取り早く大家を買収するか。我が家では息が詰まるというなら、少し小さめの家を買ってクレアたんと一緒に住む。
二人きり。
同棲。
最高か?
よし。早く家を見に行こう。
「おい。なんか変な事考えているだろ?」
俺が顔を上げるとロジャーが肉を口に入れて聞いてきた。
「クレア嬢が仕事を辞めるのは駄目だろうか?」
「え?マジで言ってんの?お前クレアに嫌われるぞ」
「嫌われるのは駄目だ。ロジャーの職場なら安全か。職場を変えられるよりはいいのか」
「おーい、クレアに優しくだぞ?」
この男は私の話を聞いていたのだろうか?
「ロジャーは馬鹿だな。クレア嬢に優しくするに決まっているだろう?」
「いや。もう。クレア、大丈夫かな。で、お前次は何を考えてるんだ?」
「ああ。戦闘一覧を思い出していた。どの戦法が一番早く城を落とせたかと」
「・・・まあ、なんとなく言いたい事は分かるなあ」
「まだ完全に落とせてない。籠城を決められたら困る。抜け道を一つ作って、スパイを送り込んで、周りをしっかり囲うのが良いだろう」
「ああ。味方は増やすに越したことはないな。すでに俺の部下達はお前の下に就いているだろ?クレアにお前と付き合う事を勧めていたからな」
「なに?また差し入れを送っておこう。円満な人間関係は大切だな。うちの魔術士達にも見習って欲しい所だ」
私は酒を飲んで、エマ・シルバー嬢からの情報を思い出していた。
クレアたんはシルバー嬢と非常に仲が良い。そして、彼女もクレアたんを大切にしている。シルバー嬢は売店の男を気にしているようだったので、男の情報と一緒に知り合いの知り合いを見つけ、紹介をしたら喜ばれたが、「クレアにオニール様の事を悪くは言わないけれど、決めるかどうかはクレアですよ?彼の情報は有難いけれど、友人を売るような事はしないから期待しないで」と、言われ、ふむ、この友人ならクレアたんは安全だと思ったので、「問題ないですよ。愛しい人の友人の力になりたいだけです」と答えておいた。
やはり、敵将を落とすにはまず馬を射る事だな。シルバー嬢からの信頼を勝ち得る事が急務だろう。
「ロジャー。将を落とすのに、馬を射るだけではなく馬を手懐ける事で、馬が将を連れてくることもあるのではないのだろうか」
「ああ?まあな。可能性はあるだろうな。でも、下手な小細工をお前の大事なお姫様が気付いたらお前の事を嫌いになるかも知れないぞ」
「何?それは困る。大切なのはバレない事か」
「だから、思考がやべえんだよなあ」
私はワインを飲みながら、クレアたんは酒は弱そうだったな、と思いだしていた。
少し飲んだシャンパンでも頬が少し赤くなっていた。飲めない訳では無かろうが、強くはなさそうだ。気をつけなければ。酔った姿を見たいが、私だけに見せて欲しい。
「家にバーを作るか」
「また、変な事考えてるだろ?ま、バーならいいさ。でも付き合える事になって良かったな」
「ああ。早く同棲出来るように頑張るつもりだ。家のカーテンの色は二人で決めた方がいいだろうな」
「だから家は早いって。でも、うちはカーテンは一緒に買いに行ったかな?ああ。そうだ、気に入ったのがないとかで、何件か回ったな」
クレアたんの好きな色は何色だろうか。緑以外のカーテンを選ぼう。
薄いクリーム色もいいな。女性は花柄等が好きなのだろうか?レースのカーテンが風で揺れて、そこにクレアたんがにっこり笑って立っているだけで可愛い。
「カーテンを選ぶ時は見本をあるだけ持って来て貰うか」
「そうだよなあ。お前は買い物に行くって発想がねえよなあ。ディラン。商人が家に来るのは貴族か金持ちの家だけだ」
「では、どうやってカーテンを決めるんだ?窓に付けるのにその家の雰囲気とどうやって合わせるんだ?」
「普通に買いに行くんだよ。歩き回って探すんだ。二人で話し合ったり、考えるんだよ」
「そうか。分かった。気をつけよう。二人で話し合うのか。いいな」
「ああ。クレアになるべく合わせてやれ。監禁すんなよ。クレアは優しいお前を好きになると思うぞ。余裕のある男の方が好かれるぞ。自由にさせてやれ」
「大丈夫だ。ちゃんと俺が守れる範囲で自由にして貰えば問題ない。監禁などしない。ただ、誰も来ない部屋で二人きりですごすのは魅力的だな。早く、イヤリングか指輪を贈ろう。身体にしっかり触れる物じゃないとクレア嬢の生命反応と位置情報を把握するのは難しいだろうからな」
「贈り物の基準がなあ。根っからやべえ。でもなあ。悪い奴じゃないんだよなあ」
やばいとは、クレアたんの可愛さの事だろう、ああクレアたんの部屋はどうしようかな。
日当たりが良い部屋がいいだろうが、外から見られない様にしたい。やはりカーテンは大事だ。
鍵も何個もつけておこう。
「ああ・・・。楽しみだな」
私はクレアたんの部屋の事をうっとりと考えた。
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