第4話 寮室へ

 ルーミリア寮の中はやはり、外見と変わらずボロかった。

 ゼノンはポカーンと口を開けていた。カイルはその様子を見て

(ああ……ゼノンの思考が停止している……)

 と思った。


 寮の大広間まで来て、二人の様子を見て何かを察したであろうバサラは

「ははは!ボロいだろ?俺も初め来た時はお前達みたいな顔になったもんだぜ。まぁ、そう思うのは今だけさ。このボロさはただのボロじゃない。その全てのボロさには素晴らしい歴史があるんだ。例えば……」

 と言うと大広間の壁の凹みを指差した。

「あれは50年前に今のルクヴァールの校長が学生時代に学友と喧嘩した時に凹ませた跡だ。そして……

 今度は天井のシミを指差した。

「あれは今の校長が学生の頃、卒業する時のパフォーマンスで失敗した時にできたシミだ」

 と言った。

「……さらに、寮の壁に爆発したみたいな箇所があったろ?あれは10年前に校長に就任した時、寮を訪れた時に魔法が暴発して出来た跡だ」

(校長何やってんだ)

 とカイルは訝しんだ。


「まぁつまり、この寮はルクヴァール魔術学園の歴史が詰まった言わば遺跡だ。これから君達もこの遺跡に君達がここで生活していたと言う事実をこの寮に刻んでいく事になるって訳だな。

 ……ちなみに今の言葉は現ルクヴァール学園校長の言った言葉だ。まぁ心の隅にでもしまっておいてくれ。」


(…説得力がある言葉だな)

 カイルは感心した。

「さて、まずはお前たちが使う部屋でも案内するか。荷物も邪魔だしな。」

 そう言うとバサラは寮の階段を上がって行った。

 

 カイル達はバサラ続いて寮の階段を登った。階段は一段一段登るたびにギイギイと鳴った。

「ねぇカイル君、この階段底抜けそうじゃない?」

「……大丈夫だろ……多分」

 階段を登る間、焼け跡、切り傷、凹み跡、水のシミの跡等、生活感のある様々な痕跡をカイルは見た。


(まさか部屋中、板だらけじゃあるまいな)

カイルはこの分だと部屋も危ういんじゃないだろうかと頭によぎった。

 3階に着いた時、バサラは一室の扉を開けて立ち止まった。


「よし、着いたぞここだ。今年、この寮に入寮するのはお前達二人にあと一人居るんだが、そいつは確か一週間後に到着する予定だ。そいつも合わせてこの部屋を3人で使ってくれ」


 部屋の中にはニ段式ベッドが2台、足が折れたようで補強された後が痛々しい机が1台とデザインが不揃いの4脚の椅子があり質素な空間だった。質素な部屋を見てカイルは意外にも悪くない場所だと感じた。


「バサラ先輩。ご案内ありがとうございます!失礼します!」

 そう言うとカイルは部屋へ荷物を置きに入った。

「失礼します!……部屋広い?カイル君」

 続いてゼノンが部屋に入った。


「ああ、まぁそこそこじゃないか?」

 部屋はこじんまりとしていたが満員の4人だとしても、ある程度快適な生活できるだけのスペースがあった。

(3人なら案外広い部屋と言えるかもしれないな)

 

 カイルは無造作に右の二段ベットに荷物を置いた。

「あ!カイル君はそこのベット使うの?」

「ああ、そうだな」

「じゃあ僕この上使うね」

 ゼノンは右のベットの上段を指差した。

「分かった」

「やったー!」

 カイルがそれを了承するとゼノンは荷物を置いて喜んだ。


「荷物は置き終わったろ?一階の広間に行くぞ。他の寮生を紹介する。」

 二人がそんなやりとりをしていたらバサラが部屋のそんな風に声を掛けた。


「「はい!」」

 カイル達はバサラに返事をするとバサラに続いて一階に向かうことにした。

「部屋は気に入ったか?」

 バサラの問いに

「うーん、まだ分かりません」

 ギイギイ言う階段を降りながらゼノンが言った。

「そりゃそうか!まぁ、もし気に入らなかったら一年後に個室が何室か空くから、その時の寮長に相談してくれよ」


 カイルはその話を聞いて一つ疑問を覚えた。

「寮に管理人の方は居ないんですか。」

「おう、居るぞ。居るには居るが形だけでな。大体の事は学生の寮長に一任される。学校の方針でな。そのおかげで規則は寮長がある程度自由に決められる。ただ自由の代償も大きくてな。寮のボロ具合を見ただろ?ああいうのも自分達で修繕しないといけない。それくらい運営を学生任せにしてるから昔、潰れた寮もあるらしい。」

 バサラは神妙な顔で答えた。

「それで……大丈夫なんですか?」

 さらなるカイルの質問に

「寮の方はまぁ、定期的に土木関係の仕事をしてる卒業生に格安で見てもらってるが今の所問題ない。運営の方も二、三年生でしっかりとやっていくから安心してくれ」

 バサラはしっかりとした声で答えた。

「勿論、その為には寮生の誠実な協力が必要だ。100年も続いた寮を俺の代で潰したくないからな。二人ともそこらへんはしっかり頼むよ」

 続けて、バサラは振り向いてそう言った。

「ちゃんとします。……寮が潰れちゃったら俺達困りますし!」

 カイルがそう言うとゼノンも頷いた。


「ははは!まぁ管理人が本当に危なくなった時は指導してくれるし、学校もお金の援助もしてくれる。最悪潰れても他の寮に行けるしな。一年のお前達は、寮の運営の事なんて先輩に任せて寮代だけきっちり払ってくれ。」

「はい!」

 ゼノンが明るく返事をした。

「はい。……あ、お金の事なんですけど、一つ聞きたいことが……」

 カイルが何か質問しようとしたが

「お、今いるのはこれだけだけか?まぁいいか。じゃあとりあえずカイル、ゼノン、自己紹介をしてくれ」

 カイルはいつの間にか広間に着いていて、寮生に注目されていた。

 カイルは質問を後ですることにした。


 寮の一階の広間にはバサラを含めて7人の寮生が集まっていた。

 彼らは興味深そうに2人を見ていた。カイル達は名前と出身地を簡単に話した。


 それから、バサラが改めて自己紹介をし、その後、6人の先輩達はバサラに紹介された。

 とても簡単な挨拶で、名前と学年だけの紹介だった。


「まぁ、どうせ生活する中で話すだろ。今は俺のことだけ覚えておけばいい」

「「はい」」

 カイルとゼノンはそれでいいのかと思いつつも返事をした。

 二人の返事にバサラが頷いた。

「それじゃ、疲れただろうから今日はもう寝ろ二人とも」

 そう言われて、二人は部屋へと向かった。カイルは聞きたいことを聞きそびれた。

 

 暗い部屋のベッドの中でカイルは物思いに耽った。部屋は先ほどまでの喧騒とは打って変わりゼノンの寝息だけが聞こえていた。

(ゼノンはもう寝たらしいな。疲れたんだろう……俺も疲れた。……寮の外見を見た時はどうなるかと思ったが、まぁどうにかなりそうだな。仕事をするにはどうすればいいか聞きたかったが…明日聞かないとな)

 そんな事を考えていたカイルは自分の意識が薄れていくのを感じた。カイルはゆっくりと夢の中へと落ちていった。

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