あたしゃ、メリーさん

源なゆた

第1話 メリーさんはおばあちゃん

 あたしゃ、メリーさん。

 かれこれ五十年か、百年か、こうして誰かの口の端に上り、生き延びて来た怪異かいいさ。

 もうおばあちゃんもおばあちゃん。ひいおばあちゃん、ひいひいおばあちゃん、なんて呼ばれてもいいくらいの年齢としになった。仮に子孫が居ればの話だがね。

 とは言え、こうしてついつい老け込んだ口調になっちゃいるが、声は現役、『世界一かわいいよ!』と言ってもらえそうな、最高のぷりちぃぼいすを保ってる、つもりだよ。声優さんに間違われることだってある。ま、その声優さんは、本当にかわいいらしいがね。

 さて、それはさておき、だ。あたしゃ、誰に電話をかけてたんだったかねぇ。あんた、知ってるかい?

 え? 自分にかけてるはずだ、って? そんな馬鹿な、あたしゃあたしにゃ電話出来ない、そうだろう?

『自分』っていうのはあたしのことじゃなくてあんたのこと……ああ、そうかい、そうかい、すまないね、こちとら何しろ老いぼれだ。メリーさんも電話の誤り、ってことで許しとくれ。

 ん? 何の話かわからない、って? はぁーまったく、最近の若いもんは仕方ないねぇ。弘法も筆の誤り、ってことわざがあってね、そう、昔の偉い人、弘法大師こうぼうだいしって方がいらしてね、あたし? あたしなんかよりよっぽど大昔の人だよ、やだねぇ、まだ五十か百かって最初に言っただろう。弘法大師様はね、千と二百年も前のお方だよ。あたしより十倍以上も古い、ふるーい時代の方だ。いやぁ、偉いこったよ。たかだか五十年か百年か語り継がれるだけでもこんなに耄碌もうろくするってぇのに、千二百年も語り継がれて尚輝きを失わない、尊敬の的だ。本当に偉いお方だよ。

 うん、それで、何の話だったかねぇ……ああ、そうだ、メリーさんも電話の誤り、と、ありがとう。そう、弘法大師様はとんでもない筆達者な方で、つまり字が殊更ことさらお上手だったと。そんな弘法大師様でも時には筆を誤る、書き間違えるんだか気に入らない出来になるんだかは知らないけどね、兎に角失敗することがある、と言う話さ。だからね、あたしゃメリーさん、電話を通じて現れる怪異だがね、そんなあたしでも、電話のことで間違えることもある、と、そういう話、例え話さね。わかったかい?

 ああ、そうかい、よくわかったと、偉い子だねぇ、利発りはつだ。うん? 利発ってのはね、頭が良い、ってことさ。そんなことない? そんなことないわけないよ、あんたぁあたしの話をよーく聞いて、ちゃんと受け答え出来てる。こらぁ偉いことだよ、うん。自信持ちな。弘法大師様を超えるくらいのこと目指しなさい。それでこそ若者だよ。

 えーとそれで、そもそもの話は……そう、あたしゃメリーさん。今、あんたの後ろに居るよ。




 って言いたいんだが、あんたん、最寄り駅からは、どう行けばいいのかね?

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