ヒーローになりたかっただけ。

此花

第1話 ヒーローに憧れて

「はぁ!?今回バイクじゃなくて車に乗ってんの?意味わかんねぇ…。ありえないだろ!バイクじゃなきゃ仮面ライダーじゃねえだろ!くそ!制作者共なに考えてんだよ!そもそも前回も今回もベルトのセンスが−−−」


俺の名は山田勇希。今年で26歳になったが未だに日曜の朝の特撮作品の鑑賞は欠かせない。

まあ、所謂オタクってやつだな。


「あんた日曜の朝からうるさいのよ。いい加減そういうの見るのやめたら?」


「うるせえ!別にいいだろ!」


「親に向かってうるせえとは何よ!26にもなってそんなんみてばっかで働きもせずに!」


「それは…。まだ働かないだけだし。スーツアクターの採用受かればいつでも働くし。」


「そんなだらしない体で受かるわけないでしょ!夢見たいなら相応の努力したら!?」


「う、うるせえ!毎日筋トレとかしてますぅ!そっちこそ少しは痩せたらどうなんだよ!と、とにかく今良いところだったんだから邪魔すんなよ!」


仮面ライダー俳優になることは俺の顔じゃ無理だって中学の時に諦めた。だからせめてスーツアクターとして衣装を着てみたかったんだけど、採用の枠なんてほんの僅かで殆ど受かるのは遊園地で着ぐるみ着るようなバイトだけだった。


「くそっ…。」


プリキュアは母親がうるさいから録画したものを後で見ることにしてコンビニでもいくことにして、外へと向かう。


「鍵、鍵…。あ、スマホ。」


俺はサイクロン3号(まあ、貰い物の原付な…。)にのってコンビニへと向かった。


「いらっしゃいまっせぇ」


(なんだその独特なイントネーション…。

とりあえずコーラと…。)


「え!ウエハースチョコのシール仮面ライダー出たの!?知らなかった…。やべ、結構無くなってんじゃん。」


残っていた8個全てをカゴに入れてレジへと向かった。


「ありがっとございましたぁー!」


「へぇ、結構ラインナップ良いじゃん。うわ!3

袋連続で被りとかありかよ!!きっも!」


ウエハースの開封を1人コンビニの駐車場で楽しんでいると視界の隅に小学生くらいの姉妹らしき2人がうつった。


結構小さいように見えるけど親とかいないのかな?俺が少し心配に思ったのも束の間だった。


乗り降りの為に停車しているバスの目の前を横断しようとしている2人。停車しているバスを追い越そうと明らかに中央線ギリギリを走って来ている黒いプリウス。お互いが死角なんだろう。


俺の身体は頭より先に動いていた。


身体中が熱い。いや、痛いのかも知れない。

2人を助けられたのかどうかもわからんが俺が車に吹っ飛ばされたのはわかる。


「だ、大丈夫かい?2人とも…!」

「そっち2人は無事か!良かった。こっちは…。ダメだなこりゃ。」


子供達は大丈夫なのか…?

俺は死ぬんだろうな。指も動かねえし声も出ない。でも、子供達救えたんなら少しはマシな人生になったかな…。ヒーローってこう言う気持ちだったんだろうな。


車に吹っ飛ばされた衝撃で折れた肋骨が肺に刺さり呼吸もうまく出来ない勇希は朦朧とする意識の中そんなことを想いながら眠りについた。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


「…いや。有り得ねえだろ。」


目が覚めた勇希が観ている景色は普段見慣れない洋風の建物や、馬車や人々の服装、そして人間と呼ぶには難易度が少しばかり高い人型生物達。更に最後の記憶が自身の死に際。これだけ情報が揃えばオタクの勇希が導き出せる答えは1つだった。


「異世界ファンタジーきたぁぁぁあ!!!」


街中での大声だけでなく周りからすると不可解な服装をしている彼はとりあえず注目を浴びてしまっているその場を離れ人通りの少ない裏路地へと移動をした。


「ここが異世界だとして、なら俺はやっぱりあの時死んだってことだよな…。うわ、今作の劇場版見れなかったじゃん!最悪…。あ、でも異世界ファンタジーつうなら魔法とか使えん−−−」


「やあ。こんな所で何をしている。先程、妙な格好をした奴が街中で叫んでいると通報があったんだが…。話を聞かせてくれるかな。」


現在の状況を整理しようと1人でぶつぶつ喋っているとおそらくこの街の警官のような存在が話をかけてきた。勿論、勇希のことを怪しんでいることは確かだ。


「君はこの街の人間かい?初めて見るがどこから来たのかな?」


「いやぁ…。俺にもわかんないっす。気付いたらここに居て。」


「そんなわけないだろう。それともなんだ?記憶喪失とでも言いたいのかい?」


実際、ここに来た経緯については全くもって記憶が無いのだから仕方がない。


「そーなんすよ!なんでここにいるのかわかんなくて…。」


「ふむ…。この際、それはどちらでもいい。とりあえず君にはついて来てもらうよ。」


(どっちでもいいことがあんのかよ…。)

けれども、相手が警官なら何かされる心配も無いだろうか。


「ど、どこについていくんすか?」


「メシエッタ様のところだよ。」


「メシエッタ…様?誰すか…?」


「本当に記憶を失っているのかい…?メシエッタ様はこの国の王女様さ。彼女のスキル『千里眼』があれば君が何者なのかもわかるからね。」


「王女様か…。ん?今スキルって言った?」


この警官の話し振り的にやはりこの世界には魔法に近しいスキルというものが存在するらしい。


「そ、そのスキルってみんな使えんのか!?」


「どうしたんだ急に…。質問の答えだけれど万人がスキルを扱えるわけではないよ。スキルは神からの授かりものなんだ。」


(なるほど…。つまり生まれた時点でスキルってものが使えるかどうか決まってるって訳か。)


「それって使えるかどうか確認することってできるんすか?」


「ん?ああ。心の中でステータスオープンと唱えてステータスを開くんだよ。そうすると自分がスキル持ちかどうか確認することができる。てか、ほんとに君、記憶を失っているようだね…。」


(ステータスオープン!)

そう唱えると良くゲームやアニメで見るような形で目の前に文字が現れた。そしてそこにはこう記されていた。


『変身者』

“己の正義の心にのみ従いヒーローっぽい事が出来る力”

※使用条件に満たさない場合にスキルを使用した際、使用者には相応の罰が下される。


「い…異世界ファンタジーきたぁぁあ!!」






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