私はある日、推しCPの部屋の壁になった

伊藤乃蒼

私はある日、推しCPの部屋の壁になった

 腐っていたならば誰でも一度は思ったことがあるだろう、『推しキャラの住む部屋の壁になりたい』と。私は今『〇〇物語』の最推しであるB君の部屋の壁になっていた。


「Aさん……」


「B君、君はとてもかわいいなぁ」


(Aさん×B君最高すぎる!!!!!)


 恥ずかしそうに頬を染める清楚なB君はとても可愛らしいし、甘やかし攻めなAさんによるA×Bは最高だ。

 腐女子である私は公式と神創作者様の方々からのB君受け供給の摂取だけでも今まで最高だった。そんなわけでAさん×B君を毎日摂取できるB君の部屋の壁というのは、壁になって動けなくなってしまったことなど些細な問題にしか感じられない。


「あ、B君危ないよ」


「Aさん、僕はもう子供じゃないよ?」


「子供にはこんな事しないよ」


 イチャイチャラブラブドロドロなAさん×B君の壁生活は毎日が過剰供給の連続で、私は毎日が尊死の連続だ。


(ああ、B君可愛い……A×B最高……!!)


 私は推しキャラの壁を大いに楽しんでいたのだが、そんなある日Aさんが出張へ行くことになった。


「それじゃあ、行ってくるね」


「行ってらっしゃいAさん」


(しばらくA×Bの供給は無しか……)


 名残惜し気にキスをしながら見送るB君と一緒にAさんを見送る。しばらくはCPの供給ではなく、B君単体を楽しもうと思っていた。


――ピンポーン


 インターホンが鳴る。誰だろうと思っていると『〇〇物語』のC君が部屋に入ってきた。


(え、なんでC君がB君の部屋に……)


「よう、B」


「ふふ、C君だ」


 俺様系のC君とB君が抱き合う。私の頭の中は大混乱だった。


(え、え、え、C君とB君がイチャイチャしてる? 私は幻覚を見ているの……?)


 何度も目の前の光景を確認するが、やはりC君とB君が甘々な光景を繰り広げている。


(C君×B君!? いや、好きだけど……ええっ!!)


 突然のC×Bに驚き壁ではなく人であったなら顎が外れていただろう。壁であるので私は目を閉じることもできず、C×Bの甘々展開をガン見する。


「おらこっちこいよ」


「ごめんごめん」


「まったく、お前は……」


 甘やかし系とは違う俺様系の攻めに頭がクラクラする。しかし、それ以前の問題だった。


(C×BとA×Bが同時に存在しているだと……え、C君はEさんとのCPが最大手だったはずなのに……いや、たしかにC×Bも結構な数あるけれど……)


 頭の中で『〇〇物語』の原作と大手CPと目の前の光景を高速反復横跳びする。しかし、目の前のC×Bは変わらなかった。


(B君!! Aさんとはどうなっているの!?!? C君、Eさんはどこへ!!)


 ただの壁が質問を出来るはずもなく、私はAさんが出張中ずっとC君×B君を見続けていたのである。


「ただいま、B君」


「おかえりなさいAさん」


 ニコニコしながらB君はAさんを迎え入れている。AさんはC君×B君の事など知らないのでまたイチャイチャし始めた。


「寂しかったかい?」


「ええ、とっても」


(Bく~ん!!)


 C君との事など一切話さずにAさんと甘い時間を過ごすB君に私は大いに慌てた。


(Aさ~ん! B君が……B君がぁ!!)


 私は壁なので泣くこともできず、ただただB君の事をAさんへ言葉にならず訴えるだけである。

 それから数日後、Aさんは再び出張となった。


「最近、出張が多くてごめんね」


「いいえ、お仕事ですから……」


 名残惜し気にキスをしながら見送るB君と一緒にAさんを見送る。


 ――ピンポーン


 インターホンが鳴る。


(C君か!?)


 私は再びのC×Bに備える。しかし、部屋に入ってきたのはC君ではなかった。


(まさかのDちゃん!? え、DちゃんとB君ってそんなに接点あった!?!?)


『〇〇物語』屈指のショタキャラDちゃんの登場に驚きが隠せない。


「ここがBお兄ちゃんのお部屋かぁ……」


「ふふ、ゆっくりしていってね」


(いやいやいや、たまたま遊びに来ただけよ……そう、たまたまB君の家にDちゃんが遊びに来ただけで……)


 なんとか私は心落ち着けようとする。


「Bお兄ちゃん……」


「Dちゃん……駄目だよ」


「ぼくも男なんだよBお兄ちゃん」


(なんか、良い感じのショタおにとなっているだと!?!?)


 B君総受け状態に頭が大混乱する。しかし、落ち着くとふとある考えが頭をよぎった。


(Dちゃん×B君……よくないか?)


 今まで気にしたことがなかったが、あのシーンやあの話ではDちゃんはB君と絡んでいる。つまり、CPとしてあってもおかしくはない。


(Dちゃん×B君……)


 頭の中の『〇〇物語』の原作DちゃんとB君の事と、目の前の事を交互に考える。


(D×Bよくね?)


 今まで考えたことのないCPだが、最高にしっくり来た。


「Bお兄ちゃん」


「Dちゃん……まって……」


(あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ)


 目の前で提供されるD×Bに私の精神が崩壊する。


(この、この萌を誰かに伝えねば……)


 この最高のD×Bを誰かと共有したくてたまらなかった。しかし、私はB君の壁である。


(神様! 仏様! 同人の神様! BLの神様! この素晴らしきDちゃん×B君を世に広めますのでどうか私をこの壁から解き放ってください!!)


 強く強く心から願う。


「お願いします!!」


 大声で願うと同時に私は飛び起きた。ベッドで眠っていたらしいが、今はそれどころではない。私は急いで『〇〇物語』の原作を読み返す。


「うん……Dちゃん×B君が最高すぎる!」


 今までまったく思っていなかったD×Bのネタが大量に湧いてくるので、私はそのままパソコンへと向かう。調べてみるとD×Bはそれほど作品数が多いわけではない。しかし、絶対に諦めない。私は茨の道を突き進むと心に誓った。


「この萌を皆、見てくれ。最高なんだよDちゃん×B君は!!!!」


 それから数か月後、『〇〇物語』のD×Bオンリーイベントが開催され私はその壁サーになったのである。


 

 ――――Dちゃん×B君を基本書いているが、たまに……ごくたまに……B君総受けを書いていたりもしている。

 

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