帝都における住宅事情

@curisutofa

帝都における住宅事情

『調度品のたぐいは、全て撤去してあるようだな。不動産屋』


帝国の中枢である帝都にある屋敷を内覧ないらんする為に、わしに代々取引のある不動産屋を紹介して下された城伯ブルク・グラーフ閣下の御言葉に対して。貴族諸侯であらせられる皆様方を相手に商売をしている免状貴族エードラー身分の不動産屋は、完璧な所作にて恭しく深々と御辞儀を行うと。


『はい。城伯ブルク・グラーフ閣下。仰せの通りで御座います。こちらの物件を以前に上屋敷かみやしきとして御使いになられていられました御方が、売却をなされる際に調度品のたぐいも全て売り払われました』


不動産屋の説明に対して、怜悧れいりな印象を周囲に与える城伯ブルク・グラーフ閣下は御頷きなられると。


『自らの領地を他家から守り抜く事も出来ずに奪われた者には、自力救済フェーデの慣習を重んじる帝国において、貴族諸侯の爵位を保つ資格は無いからな。帝都の法廷が爵位を剥奪して平民身分に落とした判断は妥当である』


城伯ブルク・グラーフ閣下は異国出身の成り上がり者であるわしとは異なり、由緒正しい帝国の貴族諸侯の家門に生まれ育った御方だが。自力救済フェーデの慣習を非常に重んじる考え方をされておるな。


如何いかがかな男爵バローン殿。いささいわく付きの物件ではありますが、帝都において上屋敷かみやしきとして使える別宅はあまり売りには出されないので。この機会を逃されると、次に適当な物件を入手する機会がいつになるかわかりませぬが』


わしよりも爵位が上位の城伯ブルク・グラーフ閣下に対して、心底よりの感謝の気持ちを込めて恭しく深々と御辞儀を行い。


『異国出身の成り上がり者に過ぎぬわしの為に、御骨折りを頂きまして心底よりの御礼を申し上げます城伯ブルク・グラーフ閣下。こちらの物件で決めさせて頂きます』


身の程をわきまえたわしの態度に対して、城伯ブルク・グラーフ閣下は満足気に御頷きなられると。


男爵バローン殿は異国出身の傭兵ゼルドナーとして活躍なされて、一代にて皇帝陛下から爵位を叙爵じょしゃくされた立志伝中りっしでんちゅう御仁ごじんですので。お役に立てて幸いですな』


『恐悦至極に存じ上げます。城伯ブルク・グラーフ閣下』


傭兵ゼルドナーとして武功を挙げて、男爵バローンの爵位を皇帝陛下から叙爵じょしゃくされてからが。異国出身の成り上がり者であるわしが、門地門閥もんちもんばつこだわられる、由緒正しい帝国の貴族諸侯であらせられる皆様方の社交界に受け入れて頂けるかどうかの、本当の意味での闘争カンプフが始まる。

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