マンションの先住民

芳乃 玖志

404号室のうちみさん

「こちらが今回ご紹介するお部屋、4LDKで家具エアコン・先住民付きです」


「おう、よろしくな!!」


 住宅紹介所の足立さんに案内された部屋にはおっさんがいた。


「……どちら様ですか?」


「ワイは内見うちみって言うんや!この部屋の先住民やな!よろしく頼むで!!」


 なるほど、この短い会話だけで一つだけ決定したことがある。


「すみません足立さん。この部屋は無しで」


「そうですか、駅近ですしお勧めなんですけどね。では次の住宅へ行きましょうか」


「ちょっ!ちょい待ち!兄ちゃん!」


 後ろから自称先住民のおっさんが待ったをかけてくる。


「なんですか。俺はこの春から大学生として一人暮らしを始めるので準備に忙しいんですが」


「視線が冷たい!そんな距離取ろうとしないでくれへんか?ワイと兄ちゃんの仲やろ?」


「初対面ですが」


 本当に、こんなおっさんに構っている暇はないのだが。


「まぁまぁ、ちょっと聞いてくれって」


「馴れ馴れしい似非関西弁のおっさん相手に何を聞けと?」


「そう言わず、年長者の話は最後まで聞いた方がええで」


 なんだか無視しても余計にしつこそうなので、仕方なく話を聞くことにする。


「今、この部屋に住めば凄い特典があるで」


「特典ですか」


 まぁ、こんなおっさんと無理やり同居させられるのだ。何かしら得がないとやっていられないが。


「なんと、この部屋に住むだけでワイの財産の相続権をゲットや」


「ほう……その額はいくらほど?」


 ちょっと興味を惹かれる特典だ。


「聞いて驚け!なんと……五億円や!!」


「マジで!?」


 つい口調も崩れる。それくらいの衝撃だった。


「マジやで、ほら通帳」


「えっと、一、十、百、千……本当だ、五億ある!!住みます!!足立さん!契約書!!」


 即決だった。もうここ以外は考えられなかった。


「いいえ、その必要はありません。私がこの家に住みます!!」


「足立さん!?」


 こうして、内見さんと足立さんは同居を始めたらしい。

 俺の家?まだ見つかってない。

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マンションの先住民 芳乃 玖志 @yoshinokushi

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