野良猫の毒

na.

第1話野良猫の君

 『ガサッ』


 _________ふと振り向くと男の目が止まる。


 瞳は金色、黒く光る艶やかな毛並み、窓の外のそれに一瞬のうちに心が奪われたようだった。


「…ねぇ聞いてるの?ねぇ?あなたったらっ」


 時間にすれば数秒、もっと短い刹那と言うほどの時間だったかもしれない。

男が目を奪われてた間に声をかけていた女が反応のない男に声を大きくした。


「…あぁ、悪い。…なんだっけ?」


 女は男の“妻”だ。


「もぅ…昨日も言ったけど、今日は私出社だから舞花の送り迎えよろしくね。」

「わかってるよ。別に初めてじゃないから俺が着替えさせてるし、大丈夫だよ。」


 “舞花”は二人の娘でもうすぐ五歳になる。

普段は在宅ワークをしている女が舞花を保育園に送っているが月に2、3度ある出社の日は男が代休をとり送り迎えをしている。

 この日は丁度その日で舞花の着替えをさせていた男は外から聞こえた小さな音に目をやると塀の上で男の方を見ていたそれに思考を停止させていた。

 出社前の準備を行いながら女は手の止まっている夫に声をかけていたのだ。


「ぼけーっとして手が止まってるし大丈夫じゃなさそうだから声をかけたの。なんでもできるくせして考え事始めるとほんとダメなんだから…」


 男の手が急に止まるのはたまにあるのかいつもの事なのか女はあきれ顔だ。


「それじゃ、わたしもうでるから、送り迎えとあと、お買い物と夜ご飯の準備お願いね。」

「おっ、おい。」

「いてきまーす」


 返事を待たずに女はそれだけ言うと家を足早に出て行ってしまう。


「ったく、あいつは、いつも“ああ”なんだから…」

 

 男は飲食店で働いており買い物や料理を苦だとは思っていない。普段は女が家事を行っているが、女が出社の時くらいは、と積極的に家事を行っている。もちろんこの日もやるつもりでいたわけだが言われてしまうと少し腹が立っているようだが、女と同様にいつもの事とあきらめる。


「んじゃ舞花とっととお着替えして保育園いこっか?」


 男は舞花の頭の上に“ポンッ”と手をおいて撫でると止まっていた手を動かし慣れた手つきで着替えを済ませていった。

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