家は買いません

大道寺司

第1話

 今日は住宅の内見に来ている。

 ま、家を買う気など全くないが。

 冷やかし? 馬鹿言ってんなよ。俺には崇高な目的がある。住宅の確保や不動産投資なんかよりも素晴らしく称賛されるべき目的がね。


「こちらが今回内見する物件です」

「ふーん。立派なお城だ」


 不動産屋に連れてこられたのはとても大きなお城。一つの建物で俺の故郷の村の数倍はありそうだ。


「では、中に入りましょうか」

「ほい」


 そこから長い長い旅が始まった。

 食堂、風呂場、牢屋に宝物庫etc. とにかく城の中を歩いた。


 そして、最後。城主の居住スペースに足を踏み入れた。

 そこには今回の目的、今の城主もいた。


「えっ? 勇者ァ?」

「よう。魔王」


 ここは魔王城。勇者である俺の旅のゴール。


「何故ここに?」

「世界を救いに来たんだよ。王様が姫ちゃんと結婚させてくれるって言うから仕方なくね」

「おかしいな。まだ最初のダンジョンの主が倒された報告すらないが......」

「いや、ダンジョンとかめんどくせーから不動産屋に行って魔王城を言い値で買うから内見させろって言ったら来れたのよ」

「我、そんな部下を持った覚えはないが?」


 魔王は俺の後ろに隠れている不動産屋を睨みつける。


「せ、世界征服の資金の足しになると思って......」


 やる気のある無能ってのは怖いもんだ。もっとも、俺の仲間はやる気のない無能なのでカジノで遊んでいるが。


「貴様には罰を与える」


 魔王が怒りの限りを不動産屋にぶつけた。


「破滅の呪文! ヤバスギルスペル!!!」


 不動産屋は悲鳴をあげる暇もなく消滅した。

 魔王は怒りの矛先をこちらに向けてくる。


「次は貴様だ。突飛なアイデアでここまで来たのは良いが。レベル上げが出来ていないんじゃないか?」

「あ」


 盲点だった。俺は魔物を一体も倒してこなかった。本来なら魔王城周辺の魔物にすら一撃でやられる強さだ。勝てるわけがない。


「今日はこの辺で......」

「ヤバスギルスペル」


 魔王の支配は今日も続く。

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家は買いません 大道寺司 @kzr_

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