猿真似

上原げび太

十四歳

中学三年生、十四歳。

当時の僕は影響されやすく、身の丈に合わない称賛を求めていて、その頃よく視聴していた「配信者」に強い憧れを抱いていた。

退屈で色も味も失った狭い世界で暮らしていた僕にとって、数千人、数万人を相手に意気揚々と喋る彼らの姿は強烈だった。

しかし、愚かな僕は間違えてしまった。大人しくブルーライト越しに彼らを見て、それで満足していれば良かったのに、湾曲した憧れはいつしか、「自分も配信者になりたい」という歪で馬鹿な願いになってしまった。

そして僕は当時流行っていたある配信アプリに目を付けた。そのアプリでは視聴者に自分を見つけてもらえるよう、タグを付けることができたので

#中学生 #男子 #雑談 #過疎 #愚痴 #鬱...

他にも色々と恥ずかしいタグを付けて、サムネイルなんかも作った。(#鬱というタグがあるが、僕は鬱病ではなかった。空っぽな自分を少しでも特徴付けるために、僕は鬱を騙った。この体験の中で、一番の犯罪だと僕は思う。)

初めての配信はよく覚えている。

開始前、僕は上手く喋るために何度もイメージトレーニングをしたが、全く役に立たなくて、誰も見ていない中、ボソボソと一言二言喋って終わった。

その次の配信では一人だけ見に来た。

「こんばんは」と挨拶だけを残して、数十秒で消えた。


一か月経った。

配信に慣れてきて、そこそこ喋れるようになった僕は、気が付くと彼らの真似をして、悪口や、不謹慎なこと、つまらないことを言ったり、必死に奇を衒って数人の視聴者を喜ばせようとしていた。社会、成功者、弱者、同級生、時には憧れを抱いていたはずの、彼らでさえも嘲った。

「真似」と言っても、僕のそれは、例えるのなら幼子の模写というか、とにかく稚拙で、ただただ不快なだけの、猿真似以下の代物だったと今では思う。

しかし当時の僕は本気で、これが面白いと思っていたのだ。

恥ずかしいことに、僕は日本一の配信者となった自分の姿を、いつも頭の中で鮮明に思い描いていた。彼らのように数千人、数万人の称賛を浴びる自分の姿を。


配信中、視聴者に僕の配信は面白いか聞いてみたことがある。

「頑張ってるとは思う」と、帰ってきた返答。

違う。僕は、ただ一言「面白い」と言ってほしかった。


またしばらく時が経って、中学の卒業が近づいてきた頃、僕はさすらいの視聴者に猿真似を見破られ、悪寒と恥に串刺しにされた。

いつものように僕がへたくそな物真似を披露していると、彼は突然やってきて、配信に次のようなコメントを残した。

「○○の真似?」「サムい」「つまんね~」

串刺し。傍から見ればちっぽけな事だろうが、僕にとっては地獄に引きずり込まれたような感覚だった。

今までこんなことを言われた試しがなかった僕はひどく動揺し、勢いに任せ、別れの挨拶もなしにアカウントを消した。

怒っていた。こんなことを言われる道理がないと思った。しかし今となっては、散々人を嘲ってきた自業自得で、もしあのコメントがなければ今も僕は恥をさらし続けていたかも知れないと思うと彼が救世主のようにも見える。

そうして僕の一つの黒歴史であり、青春が終わった。


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猿真似 上原げび太 @hanabara0309

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