第7話 あれ⁈ 俺ってもしかして…
その後も、兄貴は出場機会を掴み取り、試合に出る度に数字以外でもインパクトを残す様子に、確実にチームの信頼を得ていった。
8月には、向井選手がドイツ・ブンデスリーガへの移籍が正式に発表され、このことが追い風となり、チーム内そしてサポーターからも主力選手として認められた。
今シーズンから正式にプロ契約を結び、最近では、味方選手を手足のように動かす様から、ピッチ上の
う、羨ましいなんて思ってないからな!微塵も、厨二心なんて疼かせてないからな!
俺も兄貴の活躍に刺激を受け、努力を続け、試合に出してもらえるようになった。12月に開催される、高円宮杯U-15全日本選手権大会ではベンチメンバー入りも果たした。
なんとか出場機会に恵まれ、1ゴールを挙げたが、全国のレベルの高さと、自分自身の未熟さを痛感した大会でもあった。
そうして3年生が卒業していき、新チームでの活動が始まった。俺も今年は、確実なレギュラーを取るんだと意気込んでいた矢先。
そいつは突然、目の前に現れた。俺が出会った2人目の天才。そして、この世界の重要人物。
※
4月上旬、桜の季節が到来。
その日は、新入生の紹介と基礎的な練習がメインだった。俺もどんな後輩が入ってくるのか楽しみにしていた。
「集合!」
「「「はい!」」」
俺たち2、3年は監督の前に整列する。監督の隣には、新入生と思われる少年達が10人ほど並んでいる。
「よし、全員揃ったな。これから、新しくチームに加わるメンバーの紹介を始める。それぞれ、自分の出身チームとポジション、それとアピールポイントを言うように。それじゃあ、左から順によろしく」
そうして自己紹介が始まる。新メンバーの大半は、ユナイテッドのU-12からの繰り上がりなので、知り合いが多く、俺の同期達からも反応が上がる。
そして、俺の意識は1人の後輩の自己紹介に持っていかれた。
「バルセロナFC出身、夏目葵、ポジションMF。小2から小6まで、親の仕事の都合でスペインにいました。日本には、今年に入ってから戻って来ました。ドリブルなら、誰にも負けないです。よろしくお願いします」
バルセロナという単語に、周囲が騒ついている間、俺は彼の名前に引っ掛かりを覚える。
夏目葵…
初めて会った筈なのに、既視感のある名前。よく見れば、顔立ちもどこか見覚えがあった。この感覚、前もどこかで?
一つ思い浮かぶ事があったが、有り得ないと自分で否定する。だって、余りにも馬鹿げている。
練習中も気になって、事あるごとに夏目の様子を観察していた。だが、どうにも手掛かりは得られそうにない。
もう気にしてもしょうがない、と思考を切り替え始めた時、思ってもみなかった機会が訪れる。
正確には、忘れていたという方が正しいかもしれない。UTでは1年生の実力を測る一環として、1年生対2・3年生のチーム内紅白戦が毎年行われる。
当然、去年俺達も上級生を相手に挑んだ。結果は、惨憺たるものだったが、そこで存在感を示した奴は公式戦で即起用されたりもした。俺もその中の1人だったりする。
その紅白戦で、夏目のプレーを直接目にすることが叶ったのだ。
夏目は、サイドを主戦場とするサイドアタッカー、つまりウイングのポジション、特に左サイドを得意としていた。
よく、左右の両ウイングを合わせて両翼なんて言葉で表現される、サッカーにおける花形のポジションだ。
夏目はスピードタイプのドリブラーだった。相手の重心が少しでも前によれば、反発ステップを利用して一気に加速し、相手を抜き去る。
最後は、中央へカットインして、自らゴールを決める。自己完結型のアタッカーだったのだ。
夏目のプレースタイルを見た俺は、自分の馬鹿げた妄想を笑えることが出来なかった。
間違いない。「夏目葵」それは、とある少女漫画の登場人物の名前だ。その、エゴイスティックなプレースタイルも、特徴と合致する。
そして、俺はそんな彼を引き立たせるためだけの存在。俗に言う、当て馬だったのだ。
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