第50話 クラブの復活
……………
翌日、阿嘉霧極東高校は『野球部顧問の懲戒』で話題が持ちきりだった。既に昨日の時点で例の音声データが出回っていることもあり猜疑の目を向けられていた顧問が次の日には教育委員会に呼び出され懲戒免職処分を受けているともなれば話題にしない道理はない。各クラスにおいて賛否の声と笑い声、部活動をどうするのかといった部員の切実な心配が口々に話されていた。
そんな中、重吾らが在籍する二年一組での話題に上るトピックスにはもう一つ、別の物があった。数日ぶりに投稿した金田と、学年きっての秀才・三本、そして重吾が各休み時間中ずっと談笑している事だ。特に金田は典型的な不良として見られ腫れものとしてクラスでは重吾以外まともに話しかけられることもなかったので、この意外な組み合わせにクラスメイト達は困惑していた。
だが、三本も金田も、そしてもちろん重吾もそんなことは気にせずに過ごし、クラスメイト達は困惑しながらも、金田の朗らかな様子を知り、少し態度を改めようかと考える者もいる様子だ。
そして、放課後。重吾たちは久しぶりに三本と金田もそろって、
エントランスホールにはいつも以上に人が居た。そして、その人々の中には明らかに高校生ではない、中学生と思しき制服の団体や大学生くらいの若い男女、果ては散歩途中と思しき犬を連れた老爺まで居た。
人々の渦中に、空中に板を浮かし、そこに図を示してこの
彼は困惑する國山先生や重吾たち一行の顔を認めるとふわりと人波を浮遊することによって乗り越えて、近づいて来る。その顔にはいつも以上の笑みが見えるように三本には思えた。
「『放課後ダンジョンクラブ』の皆様、よくお揃いで……」
その挨拶も
「この人たちは……。
「ええ、その通りです。残念ながら、この
「街まで……」とうろたえる國山先生に重吾がのんきに話しかける。
「どのみち、おれたちにできる事はレベル上げと戦闘の上達……。そんでボスを倒す事だけだから心配しても仕方ないんじゃないですかねえ」
國山先生は何かを悩まし気に考えながらも、「それは……そうだけど……」と重吾の意見を認める。重吾は他の面々を見ながら言う。
「さ、そうとわかれば三層に急いでいこうぜ。矢本と差はついているだろうが……どうも、この
「ああ……」と
重吾はそれを特に気にせずにエレベーターへと歩き出す。一行はそのまま重吾が先導して三層のロビーへと至る。
迷宮第三層のロビーは、天井から光が射し、エントランスホールや他の層のロビー宜しく眩い壁の装飾を照らしている。靖穂はその壁の装飾壁画を見て、何かに気づいたように見回している。それに気づいた稲葉さんは、すぐに迷宮通路へ向かおうとする重吾たちを横目に靖穂に話しかける。
「靖穂ちゃん、どうかした?」
靖穂は一通り壁を見回しながら少し考える風な素振りをしつつ答える。
「……何か、この壁画物語っぽいなぁって。この天使、何度も描かれているからさ……」
靖穂は壁画に精緻に描かれた白い羽を携えた白い衣の天使を指さす。その天使の顔は美少年のようにあどけなくも整っており、そして他の20人余りの天使たちを導くように壁画の随所で描かれていた。
「本当だ。……国語で見た絵巻物みたいに時の流れがあるのかな?」
靖穂の指さした部分から、円形のホールがぐるっと一周するように、その一連の壁画は宗教画的な趣の物語を描いていた。
――20人ほどの天使が、山に降り立ち、ふもとの人々を見ている……。やがて天使たちは話し合い、何かを約束するように一同で手をつなぐ。そして天使たちはふもとへと降り立って人間の女性たちと手を繋いでいる……。どういう話だろう?
靖穂はその壁画の全容を見ながらそう思う。少なくとも彼女の中に類似した壁画や神話などの知識はなかった。
「うーん。ゴメン、見てもあんまりわからなかった……。なんか気になるんだけどね……」
「そう……。下の階の壁画とかも意味があるのかな?」
靖穂はその言葉を聞いて、他の回の壁画を思い出す。
――第一層、エントランスホールの壁画はどうもアダムとイヴの神話のようで、蛇や、楽園からの追放も描かれていた。第二層は二人の男が居り、一人を殺す様子が……。そしてここ……。エントランスホールの様子から見て、キリスト教の物語化何かだろうか?
靖穂が再び考え込む中、後ろの方から重吾の声が響く。
「おーい、早く行こうぜー!」
靖穂はすぐに考えを打ち切って「はいはい」と答え、稲葉さんを連れて通路に向かった。
第三層の通路は石畳に装飾柱などが等間隔であしらわれた石の壁で構成されるもので、道幅は非常に広く、5メートル以上はあった。天井は下層よりは少しだけ低くなっているがかまぼこ型の天井となっており、空飛ぶ敵もある程度は現れそうな予感が重吾にはあった。
エントランスホールからしばらく、広く、少しだけ暗い通路に足音を響かせていると、三本が気付く。
「前方に敵……。数は……。待って、早い! 三体来る!」
そう言ったのも束の間、通路内にけたたましい『エンジン音』と馬のひづめの音が鳴り響く!
重吾たちの前方には首のないライダーが乗るバイクと首を片手に自らの頭を持った騎士が薄暗い闇の中より疾走し、突撃してきたのだ!
(続く)
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