第37話 特攻
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個人ランキング
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1位 矢本漣 Lv32
2位 三本健 Lv32
3位 伏見重吾 Lv24
4位 千歳実巳 Lv30
5位 伏見靖穂 Lv23
6位 渡瀬桜 Lv30
7位 稲葉南 Lv23
8位 國山千秋 Lv22
9位 金田修 Lv21
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翌日。
エントランスホールのきらびやかな装飾のなか、壁に掛けられた掲示に三本は熱心に視線を注いでいた。周囲の雑踏も彼には聞こえていない。彼の顔には眩い天井からの光によって深い影ができていた。その光はどこから注ぐのか、それは誰も知らないが、その影は彼の表情を隠すべく存在するのだと彼は知っていた。
――まだ、まだ足りない。何が足りない。矢本と僕の間に足りないもの。
『モラクスに一人で挑んで勝ったはいいもののそのまま二層に行って敗北さ』
三本はすぐにエントランスから、一層の通路へ向かおうとする。だが、不意に女性の声に呼び止められ、彼はその方向へと振り向いた。
「三本君、あなた、一人のようだけど……」
声の主は矢本共に傭兵として活躍する、渡瀬桜であった。学校のジャージを着て運動するような格好をした彼女はその茶色がかった髪を後ろに結び、学校で見かける際には隠れている耳元を出している。そこにはピアス穴があり、学校では髪を降ろしている理由もそこにあるのだろうと三本は気づく。
「ああ、一人だ。昨日からね」
「ボスへ向かうつもり?」
疑わし気に彼女はそう訊く。
「ああ、二層の敵は一人では物足りなくてね。ムルムルの前にモラクスを倒しておこうとね」
「三本君……。でも、あなた回復術はまだ習得していなんじゃないの?」
三本は目をそらし、少し苛立ちながら答える。
「ああ、それが?」
「三本君。勿論、今のあなたならモラクスも倒せると思う。でも、そのままムルムルも倒すのは無理よ」
「矢本だって格上相手に一人で挑んだんだろ? 一層突破の時は」
渡瀬は少し、困った表情で迷うような間をおいたが、それに答える。
「あれは……いつもの連の誇張。実際は最後の方、私と千歳が駆けつけて倒したの……。そのあとアイツはもっとレベルと経験を積んでから一人で倒すようになったけど、でも格上相手には……」
「僕はあいつとは違う」
三本はそう言ってさっさと通路へ走り抜けていく。渡瀬は追いすがることもなく、ただそれを見るだけであった。
―――――
一層の悪霊たちは三本を避けるように寄り付いてこず、彼の目の前に現れることはなかった。彼はそのことを感知能力によって覚っている。二層に比べて少し狭さを感じる天井の通路に延々と足音を響かせ、真っ直ぐ、ボスの居るホールへと向かっていく。だが、ホールが見える前、三本はそのホールの異変を察知する。
――先客が居るな。いましがた、モラクスを倒した……。冒険者だ。
三本がむくろの転がる、怪しげな魔法陣を中心に据えたホールへと足を踏み入れるとそこには千歳実巳が立っていた。
「ん? おお、たしか……三本! 元気そうだな」
どこか重吾と似た楽天的な様子を持つ彼はやって来た三本にそう言った。三本は彼に伺う。
「どうして一人でここに?」
「んー? ああ、三層に行く前の準備運動だ。矢本も今日から三層に行くってんでな。俺もモラクス単独撃破ぐらいできるレベルかなと思ってね。……相変わらず、うるせえし、今のレベルだと結構楽に行けるがレベルは上がらなかったなァ」
「……独り言の多い悪魔だからな」
その三本の言葉に千歳は怪訝な顔をして訊く。
「独り言ォ? 何言ってんだお前。アイツは喋らねえだろ」
「は? いや、喋ってたよ、僕の時は。サルガタナスがどうだの、無念だの」
「俺たちの時は一度も喋ってねえな。あのミノタウロスもどき、叫ぶだけだぞ」
三本は自分たちが最初に撃破した時のモラクスの様子を思い出す。何かに囚われているだのなんだのと独り言をのたまった挙句、倒したときに何か光の球が出ていたが、
「まあ、最初に倒すと色々違いもあるのかもな……。ムルムルは喋っていたけど」
それには千歳も納得する。
「ああ、あいつは喋っていた。そこは同じだ。……まあいいや。ンじゃあな。がんばれよー」
千歳はポケットに手を突っ込んでのしのしと階段を上ってゆく。
それから少しして、部屋の天井に床とは異なる印章が示され、呪文が響く。そして、床の中心にモラクスの姿がゆっくりと、足から構築されてゆくように現れる。それは正に悪魔の召喚。だが、三本はその感知能力によって、モラクスの中に異常に強い魔力の力が秘められ、そしてそれは床の幾何学模様とアルファベットの『Nelchael』の文字によって封じられていることが一瞬、理解された。
が、その異常な魔力はすぐに彼の感知能力の網から離れ、モラクスの身体が再構築されるとともにその身体の中に秘されたのだった。
しかし、異常まだ続いていた。
三本の知るモラクスは豪奢な宝飾品を身に纏い、王者たる風格を見せつけていた、だが今は、その身体には
――なんだ、一体……様子がおかしい……?
異常な様子のモラクスは三本を睨みつけ、その牛頭の口元をニヤリと歪ませた。
(続く)
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