第26話 ランキングダークホース登場

     ……………


 重吾、靖穂、金田、稲葉さんはコンビニ横の駐輪場で反省会を行っていた。

 車がまばらに行き交う道路の音が響いている。五月に入り、道南はようやく春の陽気が感じられる気候になっているが、冬服のままの重吾たちの中でブレザーの上着を脱いでいるのは金田だけである。彼は金属バットの入った袋を背負いながら、コンビニで買った缶コーヒーを飲んでいる、顔は少々強張っている様子だ。

 その微糖のコーヒーを飲み干して、彼は周囲の沈黙を破り、重々しく口を開く。


 「……後衛の攻撃役である三本が複雑な魔術を扱えないのは問題があると思うが、靖穂はアイツにそれを指南しようとは思わんのか?」


 靖穂は首を振る。


 「私も三本先輩に教えようとは思っているんです。でも、彼、あまり私と話したがらないというか……」


 重吾が悩ましい顔で答える。


 「んー。おれの方からも言ってみるが……アイツも一年の時以上に忙しいと思うからなァ……いつも学校から親の車ですぐに塾に行ってるみたいだぜ」


 稲葉さんは心配そうに言う。


 「三本君、私たちと部活やっているの負担になっていないかな……」


 重吾が答える。


 「流石にアイツも負担に思っていたり、嫌がっていたらすぐに辞めるさ。……それよりも、全員の魔術の覚えについての方が大事だ」


 靖穂は訊き返す。


 「全員?」


 「ああ、全員。拘束魔術は全員覚えた……それに……」


 コンビニ前の道路を車が通り過ぎてゆく。歩道の端には隙間から草花が咲き始めている。


     ―――――


 次の日の放課後。

 掃除の時間の終わった廊下を重吾は渡り、校舎三階パソコン室へと向かう。廊下は遠くのグラウンドから運動部の掛け声が聞こえる以外、静かで、以前には聞こえていた文化部の生徒の行き交いや、お喋りの声などは全くない。更には、帰宅部がいそいそと帰っていく様子も見られない。既にそうした生徒は、あの迷宮ダンジョンの奥へと向かっているのだろうと重吾は思う。

 ――教員は、國山先生以外まだ知らないのだろうか……。知ったところでどうにもならないが、増えれば一波乱ありそうだ。今日も、『冒険者狩り』が来るかもしれないしな。

 重吾はそう思いながらパソコン室の引き戸をガラガラと開く。パソコン室に既に居たクラブの面々は入って来た重吾を一様に見遣る。特に外に響いてくる音がなかったので、昨日のような喧嘩はなかったのだと重吾はちょっと安堵していた。

 だが、部屋での面々それぞれのまばらな配置や沈黙を目の当たりにして、重吾はその安堵を失った。


 三本は黙々とパソコンでの作業を保存し、電源を落とす。だが、その表情には険しいものがある。

 金田も回転椅子に座りコツコツと指で椅子のプラスチック部分を叩いている。

 國山先生はそれを心配そうに横目に見つつ、資料整理の作業をパソコンで行っている。

 重吾は見かねて口を開く。


 「今日はまだレベル上げだが……他の『冒険者』の動向によってはボスの視察をしたいところだよな」


 机に向かい、本を読んでいた靖穂が顔を上げ、返答する。


 「……あんまり焦ってもしょうがないと思うけどね……。とりあえず、全員で『魔術』について知識を共有したいんだけど……」


 少し困惑した表情だった稲葉さんが安堵したように会話に参加する。


 「全員で……あの二層突破報酬で貰った『一般気絶魔術』があるから?」


 「それも応用できるかもしれないけれど……それよりも先生や三本先輩みたいに『日本語の魔術』を覚える可能性が全員にあるから、それをより自在に操ることを目的としてるね。今のところ後衛だけがレベルアップで魔術を覚えているけど……」

 

 稲葉さんがおずおずと言う。


 「実は私……昨日の戦闘でレベルアップしたとき、魔術を覚えてて……言い出しにくくて言えてなかったんだよね……」


 それに続いて重吾が言う。


 「おれも覚えてたよ。サプライズしようかとも思ったが流石に、今はそんなおふざけはできねえ感じだし白状するよ」


 「お姉ちゃんは仕方ないとしても、兄貴は反省しろ。……まあ、これで魔術を扱う情報を共有する意味がもっと強くなってきたってことね。それじゃあ、二人はどういう魔術を覚えたの?」

 

 重吾が笑って言う。


 「それは見せながらの方がいいんじゃねえか。修君もいい加減、動きたいだろうし。お前だって『魔術的結合』の詳細を知るために、魔術をじかに見ないと……だからみんなで迷宮ダンジョンに行くぞ! ついでにエントランスでランキングも確認していこう!」


 三本と金田は黙って立ち上がる。國山先生も資料整理を終え、立ち上がる。


     ―――――


 エントランスではやはり、生徒が行き交っている。クラブの一行はエントランスの西の壁に掛けられているランキングの掲示板を見て、少々驚く。

―――――――――

 個人ランキング 

―――――――――

 1位 伏見重吾  Lv21

 2位 金田修   Lv21

 3位 矢本漣   Lv23

 4位 三本健   Lv21

 5位 伏見靖穂  Lv21

 6位 稲葉南   Lv21

 7位 千歳実巳  Lv24

 8位 渡瀬桜   Lv23

 9位 國山千秋  Lv21

―――――――――

 

 重吾は3位、7位、8位にランクインする見知らぬ名を見て驚愕していう。


 「……おれ達よりレベルが高い……!? もう二層に来ているってのか? この三人は……」


 靖穂はパーティランキングを見ながら言う。


 「いや、この三人……同じパーティーのメンバーではないみたい。それぞれバラバラな……?」


 上位に名を連ねる『矢本』『千歳』『渡瀬』の三名はそれぞれ別のパーティー、それも、彼ら以外のメンバーがいない個人のパーティーである。

 当惑する重吾は、後ろの生徒たちの雑踏の中から、男二人、女一人、計三人。こちらに向かってくる人がいるのに気づく。


(続く)

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