第25話 恐るべし迷宮第二層

     ……………


 「健!?」


 三体の悪魔のうち、一体が三本の身体に繋がる魔術の紐を持っている。蝙蝠の羽と牛のような角を生やした、紫の身体を持つ人間のような奇妙な姿をした悪魔は、顔を歪ませニヤニヤとした笑みを浮かべている。他の悪魔たちも高らかに笑いながら、靖穂、國山先生に魔術の紐を付け、黒魔術の呪文を用意している。


 稲葉さんは、三体の悪魔に果敢に蹴りによる連撃を振るが、何度か避けられつつ、数度攻撃を入れる。悪魔は蹴りを腕で受け、30ダメージや20ダメージと言った低ダメージで切り抜け、反撃として手に持つフォークでの連携攻撃を行う。

 彼女はその槍の連撃をかすめながらも避け、離れる。10のダメージを負う。


 金田と重吾は更に悪魔たちの攻撃を抑制するため、向かっていく。一体の悪魔が金田へ向け槍を突く。金田はその激しい突きを見極め、槍を掴み取り、悪魔をそのまま床に叩き付ける。その隙を狙い、もう一体の悪魔が槍を金田の脇腹へ突き刺そうとする。

 だが、その背後で重吾が、魔力の薄い後ろ脇腹から、腕で胴を貫き、悪魔を一撃で消し去った。消える悪魔と共に、持っていた槍も跡形もなく消え去ってゆく。


 ――もう一体……! クソッ……國山先生に魔術が!


 隙を利用し悪魔が魔術を行い、國山先生との呪いの紐に力を込める。國山先生はすぐに防護術を自身に掛け、守りに入る。次の瞬間には彼女を中心に爆発が起こる。


 『ドガァアアアアン!』


 「先生!」


 重吾は背後の國山先生の方を見る。彼女はによって自身と外部への爆風を完全に遮断し、他の仲間の被害と自身の被害を防いでいた。彼女は爆発の後、直ぐに呪いの解除に集中。

 重吾は悪魔の方へ見遣る。悪魔は即座に上空へと飛び、既に3メートル以上は高い位置にいる。だが、金田は、それを追う様に走る。稲葉さんもそれに続く。

 二人は、呪文を口ずさみ、『一般気絶魔術』を行う。先程DMダンジョンマスターに貰った魔術だ。二人の手から伸びる魔術の紐は、飛び去る悪魔の身体だへと結ばれ、一瞬その身体を硬直させる。それによって悪魔は地面に墜落する。


 「オラァアッ!」


 金田はそのままタックルによって348ダメージを与え、悪魔を地面に叩き付け、拘束する。稲葉さんはその拘束された悪魔に一方的な連撃を加えて行く。50、58、51、56、51と五連撃を一気に頭部にくらった悪魔はそのまま消滅した。


 靖穂はすぐに瀕死状態の三本へ回復を行う。三本は息切れをしながら、握りしめた拳で床を殴る。


 「ハァ……ハァ……クソッ……」

  

 ――僕は……役に立てないのか……? 僕よりも……靖穂や金田が……上だというのか?


 それを見て金田が苦言を呈する。

 

 「悔しいのは分かるが、反省会に顔を出さないで、そう悔しがるのは違うんじゃねえか? ……事情があるのかは知らねえけどな」


 三本が金田を睨む。


 「ああ?」


 「ああじゃねえよ。おれがパーティ参加する前に帰り道で反省会しようっつってたんじゃねえのか。先生は後からその時の情報を共有している、だが、お前はそれにすら参加しない。理由も告げずにな……。それはちょっとばかしスジが通らねえんじゃねのか? 理由くらいは誰かに伝えて置いて、後からでも……」


 「……僕は忙しいんだ……関係ないだろ、お前に」


 「関係なくねえよ、テメエ、こんな場所で生きる死ぬだのやってんのに『関係ねえ』とはどういう了見だよ。ああん?」


 「少し言い返せばケンカ腰か。それに僕がさっさと帰る理由はある、勉強だよ。僕は受験というものを控えているからね」


 「だったら部に来た時でも、昼休みでも重吾なり稲葉なりおれなりに話を聞けばいいじゃねえかよ。それくらいの暇は付けられるだろうが。ぐちゃぐちゃ言い訳しやがって」


 金田が眉間にしわを寄せ、怒りの表情になってゆくところに、重吾が割って入る。


 「まあまあ、二人とも少し熱くなりすぎてねぇか? ……ここでする話でもない。健には今後おれが昼休みに反省会の内容伝えといておく、健は国立の上位目指しているから勉強は仕方ない、なあ、先生?」


 先生は頷いて、金田と三本に近づいて言う。


 「ええ、こんな状況でもあなた達はあくまで学生。本分は勉強よ。その上でしっかりとパーティーの情報交換と交流をするのは難しいかもしれないから、全体で協力していくしかないと思うわ。勿論、三本君の今の態度も褒められるものではないけれど、金田君もそれは同じ」


 金田はばつが悪そうな表情で答える。


 「……わかってますよ。……だが、このままにするのは、良い状況を生まない。それはお前に言っておく」


 金田は三本を指して言う。三本はそれを不愉快な顔で見ながら「ご忠告どうも」と皮肉っぽく言った。


     ―――――


 その日、放課後ダンジョンクラブはそのまま迷宮ダンジョンから部室へと帰り、そのまま全員帰路についた。三本は例によって、一人でいそいそと家路につく。


 ――やっぱりあの金田と僕は合わない。出席日数で留年を食らって、その腹いせに暴れて部活を退部させられるような馬鹿とはやってられない。

 あの部活は……。パソコン部は、放課後ダンジョンクラブは、あいつの方が新参者なのに……。真面目にやっている僕だけがお荷物だというのか……?

 

 「クソッ……」


 三本は校門をくぐり、そう考えながら拳を握り締める。校門の前には彼の親の車が出迎えていた。

 

 (続く)

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