第17話 迫りくる塔

     ……………


 第二層のホールにて、DMダンジョンマスターは重吾たちに笑顔のまま語り始める。


 「第一層の攻略、お疲れさまでした……。最後、予想外の事が起きたようですが、ご安心ください。私が対処しております。……第二層の攻略を始める前に、皆さんに私から説明しなくてはいけないことがありますので、ここでお待ちしておりました」


 重吾は疑るような目で訊き返す。


 「……説明しなくてはいけない事だって?」


 「はい。あちらをご覧ください」


 一行はDMダンジョンマスターの指し示す方を向く。ホールの東、指し示す場所には一つの扉がある。その上には1から6までの数字が書かれたガラスがあり、2の部分に光がともっている。その扉は一行が目を向けたと同時に開き、中の豪華な装飾に彩られる個室を見せる。

 それは、エレベーターであった。


 「エントランスから各層のホールへ直接つながるエレベーターです。最上層のみ通じてはおりませんが、他の階層なら、ボス攻略の手間や探索の手間を省いて直接目的の層に向かう事が出来ます」


 三本が疑わしい目で彼を見ながら訊く。


 「ボス攻略の手間って。……ボスは固定湧きで何度でも出ると?」


 「ええ、その通りです」


 ――本当にダンジョンゲームだな。それもずいぶん老舗の。

 三本は次いで気になったことを伺う。


 「あのモラクスの妙な球は毎回出るのか?」


 「あれは先程申し上げたように不測の事態です。今までこの迷宮ダンジョンに足を踏み入れた『人の子』はいませんので……」


 重吾がそれを聞いて、口を開く。手を頭の後ろにおいて話の内容には特に興味がない様子でもある。


 「……ふーん……まあ、いいか……丁度おれたちのMPも底をつきそうだし、エレベーターで一層まで降りて帰ろうか」


 そのまま一行はエレベーターに乗り、第一層エントランスに戻り、パソコン室へと戻る。その日はメンバーの皆は勝利をたたえながら帰路についた。


     ―――――


 翌日。重吾は学校の昼休み、三本ともに教室で談笑していると、金田が教室の扉を勢いよく開ける。


 「重吾、三本、来てくれ!」


 「な、修君?」


 驚きながらも重吾は三本とともに金田の後に続き廊下を走り抜ける。その足取りの先は階段、そこを走って登り、屋上へと出る。柵に囲まれた広い屋上は誰も居ない殺風景な景色だが、一点、不自然な場所がある。

 そこには重吾たちのよく見慣れた迷宮ダンジョンのエントランスが映る空間がある。重吾がそれを確認しながら話す。


 「これは……迷宮ダンジョンの入り口じゃないか! ……まさか、こんなところにも……」

 

 「他にもあるみたいで、学校のいたるところで噂になっている……三年の『鳧都けりと』と話している時に知ったんだ。アイツ、そう言う噂話には興味がないと思っていたんだが……。どうもそんな奴の耳に入るほど、既に有名になっているようだ」

 

 「……僕たち以外の『冒険者』……増えるかな」


 「ああ、増えるだろうな……確実に」


 その日の放課後、重吾たち生徒がパソコン室に入ると、國山先生が深刻な面持ちで待っていた。


 「皆、揃ったようね……既に聞いているかしら、迷宮ダンジョンの入り口が現れた事について」


 「はい……いよいよ……って感じですね」


 「私達教員の中ではあくまでも噂話程度の情報しかないけれど、生徒が迷い込んでいる可能性が高いわ……私は教員としてDMダンジョンマスターに話を聞かなきゃいけない」


 「……こっちでも迷い込んだ話はあまり聞いてはいないですが……聞いてみないとわからないですからね……んじゃあさっさと行きますか」


 迷宮ダンジョンのエントランスホールにはいつものようにDMダンジョンマスターが中央で翼を広げて、空中に浮かび佇んでいる。笑顔のまま彼は話しかけてくる。


 「皆様、その御様子ならば既に聞き及んでいるとは思いますが、既に迷宮ダンジョンの入り口は拡大し、新たなる冒険者が数名この場所に迷い込んでおりました……」


 「やはりそうでしたか……。教員としてはこの場所を生徒だけで歩き回るのは看過できないのですが……」


 「その点に関しては、私が『冒険者』を表に記載し、現在迷宮ダンジョン内に居る人数を管理しているので今のところは問題ないとお伝えします。このエントランス以外の迷宮ダンジョンの出入り口は存在しません。あなた達の世界の入り口は全てこの場所に繋がるのです」


 「……」


 重吾が話に入る。


 「要するに、これ以上どんどん数が増えて行けばDMダンジョンマスターでも管理しきれなくなる可能性が出てくる、それを止めるにはおれたちがもっと強くなって最上階の『巨人』を倒すほかないんだろ? まあ、おれ達も人が増えて救助が必要になればある程度手も貸せるくらいには現時点でも強くなっているから、先生がそこまで心配する必要はないんじゃないですか?」


 「さらに申し添えるならば、『冒険者』が増え、その力をどんどん付けて行けば更に救助の可能性と『巨人』への脅威が増え、迷宮ダンジョンの攻略が早まるという事です……。……これが私ができる最善の手であるのです。どうか、ご理解のほどよろしくお願いいたします」


 「……わかりました、とにかく、私たちは上を目指して強くなるしかない……そういうことですよね」


 DMダンジョンマスターは静かに頷く。

 重吾は言う。


 「じゃあ、さっそく、二層に行こうか」


 一行はそのままエレベーターへ乗り、第二層のホールを抜け、一層とは違う大きな石を積んで作られた通路を渡った。

 三本が足を止める。一行はすぐに戦闘の陣形を作る。

 その遥か前方には、ゆっくりとこちらへ歩みを進める影があった。

 馬のような頭を持ち、牛のような身体をした、蝙蝠の羽を付けた化け物が10体、現れたのだった。


 (続く)

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