第15話 21番目と15番目の悪魔

     ……………


 「オン・ヒリチビエイ・ソワカ」


 左右の手を円形に屈し、さらに親指を内側に屈する印相を三本は象り、呪文を口にした。

 すると、彼の周囲の床が割れ、無数の石材の破片が浮かび上がり、左右、前方にいる蛇の大群に瓦礫の嵐として襲い掛かる。石が蛇、一匹一匹の身体を潰し、殺して行く。収まる頃には蛇の大群は数匹が残るばかりであった。


 すかさず稲葉さんがまばらに残った蛇二匹を蹴散らし、走り抜ける。残った三匹の蛇は最前に居る金田へ向け、飛び掛かる。


 「そこだッ!」


 横から重吾が力を一点に集中した突きにより二匹の蛇を空中で消し去った。

 残った一匹が金田の首にかみつく。

 だが、その牙は金田に達する前に止まり、彼の指を弾く動作によって蛇は消し飛んだ。

 すでに金田は、その戦闘値の高さと防御能力の高さから、蛇の毒牙を受けることはなくなっている。守りの姿勢に入った金田の厚い魔力の防護が牙を身体に触れさせることさえないのだ。


     ―――――


 一行は難なく蛇の大群を切り抜け、あの階段のあるホールへと至る。

 各々は『モラクス』の放つ強力な圧力を受け、鳥肌を立てる。だが、重吾は、臆することなく、足を進める。金田、稲葉さんもそれに続き前へと進む。……金田はこの中で一人、長い棒状の包みを背負っている。


 「オオオオ……おのれ……おのれぇっ! ……吾が力をここまで封印し、このような場所に閉じ込める……! 許さぬ……絶対に許さぬ! ウオオオオオオオッ!」


 モラクスは激昂の叫びと共に36匹のウィスプを召喚する。それに先んじて、國山先生が三本へ合図を送り、三本は先程と同じく石の嵐の魔術を用意する。

 モラクスは指をさし、ウィスプの大群は一斉に重吾たちに襲い掛かる。だが、三本の魔術により円状の石の嵐が形成され、ウィスプらは瓦礫にぶつかり削り取られる。


 「クソッ……やはり風の軌道が読みやすかったか……かなり逃れたぞっ!」


 三本が言うように、13匹のウィスプが瓦礫を器用に避け、金田、重吾、稲葉さんの前衛三人に向けられる。

 稲葉さんはウィスプ六匹の自爆を緩急をつけた走りにより、それぞれ寸前で避ける。

 金田は立ち止まり、ウィスプを引き付ける。残り七匹のウィスプが引きつけられ、立ち止まる金田に近づき、自爆を行う。しかし、金田は近づきざまに自爆しようと一瞬止まるウィスプを殴り消し飛ばしていく。三匹ほどが処理に追いつかず同時に爆発するが、3ダメージ程度を受け、そのまま爆炎の中から走り出し、モラクスのもとへと急ぐ。


 結果的に先陣を切ってモラクスへ対峙する重吾は、200センチ以上の身長はあるように思われるその牡牛頭の巨人を見上げ、その威圧感、そして、隙のなさに圧倒される。重吾の魔力感知能力により感じられるモラクスの全身を守る魔力は、分厚く、隙のない甲冑プレートアーマーのように思えた。


 ――いつもなら目につく弱点が……見えない! 攻撃を受けて対応するしかないという事か……!

 重吾はそう考え、受けの構えへと移行する。


 「フン……吾が攻撃を受けるとな、なんと軽く見られたものか……」


 モラクスはそう言いつつ握りしめた拳を重吾に向け突く。


 『ドガァアンッ!』


 爆発音とともに、凄まじい速さで突かれる拳が、躱そうとする重吾の頬をかすめ、10のダメージを与えた!

 

 ――かすっただけで、ここまで削られるというのか!?


 だが、そう考えつつも、重吾は突かれた腕のある部位に、アッパーカットを入れる。68のダメージを与える。しかし、攻撃の狙いはそれだけではなかった。


 「!ッ」


 モラクスは後頭部に稲葉さんの蹴りを受ける。彼女は凄まじい速さで回り込み、モラクスの背後を取ったのだ。49のダメージが表示される。

 モラクスはそれを受け、背後の稲葉さんに向け、振り向くように裏拳を入れる。だが、彼女は予知により屈むことでそれを避け、蹴る姿勢に合わせ二発目の下段蹴りを入れ、38のダメージ。モラクスはそれに動じることはなく、拳を振り下ろす。


 ――これだけの攻撃を受けて全体の10%も削れていない……! 怯むこともない……か、だが!

 重吾は、後ろから迫る金田の道を開けるべく、横に動き、モラクスの脇腹を狙う。

 同時に、突進する金田は背負っていた包みから取り出したバットを振り上げ、モラクスの頭部に狙いを定める。


 「オラァアアアッ!」


 『ガキィイイイン!』


 金属が激しくぶつかる音がホール内に響き渡る。金田の振り下ろしたバットはモラクスの頭部をしっかりととらえ、110のダメージを与える。


 ――なんて硬さだよ! あの硬い『鬼火』でもフルスイングで200は行くはずだってのに!!

 金田がそう考える中、重吾の脇腹への突きも入る。

 

 『ドガッ』


 「ヌウウッ!」


 100のダメージが与えられる。


 ――この小僧……ッ! この身体に落ちぶれているとはいえ……中々の技をやりおるわ……。だがッ!


 モラクスはその思考の後、拳を再び握りしめる。

 國山先生が叫ぶ。 


 「離れて!」


 その声に呼応し、各々は回避態勢に入る、しかし、次の瞬間にはモラクスの周囲に爆発が巻き起こる!


 『ドガァアアアアアアン!』


 爆炎と土ぼこりが巻き起こり、周囲の視界を塞ぐ。

 

 「爆発もこの程度……ヌウウウウ……腹立たしい……腹立たしい!」


 そう叫ぶモラクスに、煙の中から重吾が飛び出し、背後に攻撃を行う。


 「連携攻撃か。見えておらんとでも?」


 モラクスは両手に炎の球を顕し、煙の中に放つ。煙を消し飛ばし、中には金田と稲葉さんがモラクスに向け攻撃を構えていた。


 『ドガァアアン!』 『ドガァアアアン!』


 二人の姿は爆炎に包まれた!


 (続く)

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