第6話 帰路と仲間とふいをつく
……………
ふと、重吾がその扉を開く。
そこには、いつもと変わらない、準備室の風景があった。だが、その足元には先程見た
――夢じゃない。
重吾はそう思い、少し安心した。
パソコン室には赤々とした夕陽が差し込み、運動部の練習での掛け声がグラウンドの方から響いている。信じられないような冒険から帰って来た全員が重吾と同じく、あれは現実だったのかなと感慨にふける中で、國山先生が腕時計を見て、メンバー全員に言う。
「もうこんな時間……皆、今日はもう帰りなさい。……明日からは……いや、それは明日、”あの場所”があることを確認してから考えるわ……」
生徒たちは促されるまま帰路へと着いた。
―――――
帰り道、重吾たちパソコン部の面々はそのままコンビニへと向かっていた。
三本は呆れた声で先達の重吾に言う。
「一応、ウチの学校、買い食いは禁止だぜ?」
「カタいこと言うなよ、皆腹減ってるだろうし、運動部とかはよく行ってるだろ? ねえ、南?」
「え? ああ、そうだね。私は運動部の時はあんまり……でも今日はちょっとパンでも買っていこうかな。今日は大会の時みたいに疲れてるし」
伸びをしながら稲葉さんはそう答える。靖穂が全員に向け口を開く。
「買い食いしながらでもいいから、皆で一度話し合いたいんだけど……色々伝えておきたい事があるから」
重吾たちは少々困惑しつつも頷く。
コンビニでパンやジュースを買い終えた一行はそこの駐輪場の奥で集まっていた。駐輪場には乱雑に留め置かれた自転車が並んでいるが数は多くない。面々は思い思いの菓子やパン類をしゃがんで食べている。
靖穂が中心となって語り始める。
「今日の『戦闘』もそうだけど、今後、あの
三本が皮肉っぽく笑って言う。
「まるっきり運動部だな……まあ、やってることがことだから仕方ない。僕は合理的だと思うよ」
稲葉さんは首肯して言う。
「靖穂ちゃんやっぱりすごいね、運動部経験とかあったっけ? 部活でやっていたこと、理由も含めてしっかり再現してるよ」
「私は運動部経験ないけど、まあ、勉強も同じようにやるし、団体戦となれば一番大事なのは『情報』、コミュニケーションだから……たまに団体戦のゲームやってるからね」
重吾が言う。
「ほんじゃあ、決まりでいいな。役割分担については……明日でいいか、修君とも話し合った方がいいし」
三本が言う。
「そもそも、彼が参加するかどうかすら未定だ」
「まあ、そう心配すんなって、絶対食いつくよ」
重吾が笑う。三本はやれやれといった表情で、パンをほおばる。
その後、少し今後の事や雑談をしたのち、各々は解散していった。
――
翌日。
パソコン室には既に國山先生と三本、靖穂が椅子に座り、他の面々を待っていた。
そこへ、扉を開けて稲葉さん、重吾、そしてもう一人。
背が高く体格もがっしりとした男子生徒が入ってくる。彼は制服のシャツの袖をまくり上げ、第二ボタンを開け、下に着る赤のTシャツがそこから少し見えている。髪は坊主だったのが少し伸びた短髪で、頬には古傷がうっすらと入っている。
彼が
彼は他の二人と話をしながら入って来た。
「信じられねえな……ラノベの読みすぎだ。いくら最近ここいらで妙な噂が流れてるとは言え……」
「そう言ってもちょっとは気になってるんだろ? こうして部室に来てるわけだし」
「馬鹿言え。今日は用事がないだけだ。
「大丈夫、鳧都パイセンから聞いてるよ。親御さん大丈夫なの?」
「ああ、退院だったんだよ」
「そう、そりゃよかった……ああ、先生、修君も来ましたよ。昨日の休みは……」
説明しようとする重吾を止めて、先生は答える。
「大丈夫、既に訊いてるわ。……金田君、やっぱり、もう一度留年と野球部のこと私から学校に……」
「……いえ、大丈夫です。おれが暴れたのは事実ですから……それよりも、何か……妙なことが起きているってのは?」
「それは……」
答えようとする先生を遮って、重吾が話す。
「百聞は一見に如かず、見に行くのが早いでしょ、とくにアレは」
重吾はそう言うと、パソコン室の端にある準備室の扉へ向かう。三本たちも椅子から立ち上がる。金田は重吾の言葉に疑いの表情を浮かべながらも、他の面々が立ち上がるのに合わせて準備室の扉の前へと近づく。
「んじゃ、五名様ごあんなーい」
扉を開いた先には昨日と同じ、レンガ造りの
「おお……」
金田はそう、感嘆すると扉の先へと入っていく。重吾は笑いながらそこへついて行く。他の面子もどんどん、
稲葉さんが周囲を見ながら言う。
「……
三本が何かに気づく。
「……? 何だ……この感覚……近くに……何かいる!?」
三本はそう言って振り返り、目を凝らす。彼の目にはうっすらと、空中に炎のようなものが揺れていることに気づく。それは、彼に向かって一直線に飛び掛かって来た!
三本は飛び退き、それを避ける。
『ドガァアアン!』
その火の玉は三本のいた場所で爆裂し、消え去った。
「! こいつ、敵かっ!」
そう叫ぶ三本の目には彼らを囲む10近い火の玉の群れが映る。彼らは完全に包囲されていたのだ。
「囲まれているっ!」
――どう脱すればいいんだ!?
三本の額に汗が浮かぶ。火の玉はゆらりと、彼らに近づきつつあった。
(続く)
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