第26話 最強の俺、戦場へ

何とも腑に落ちない兵器を破壊しての帰還後、怒って暴徒と化したサウ王国が攻めてくることもなく、互いの兵がにらみ合うだけの一見平和な日々が続いた。

アスキーの話によると二国のトップ同士で会談が持たれているんだとか。

なんとか穏便に、と俺は全力で願いはしたが、国同士のいざこざだ。はい、仲直りとはいかないことも十分にわかっていた。


だから元首に呼び出され、出撃を告げられた時には来たか、と思っただけだった。


「ルード、明日が戦いの日だ。そなたの望みは叶えた。だから、そなたも存分に戦ってくれると信じてるぞ」


「これから戦争になるっていうのに、何が望みは叶えたですか」

ここ数日溜まっていた鬱憤を、全力で晴らしにかかる。

出撃だぞ、戦争だぞ? 望みなんて叶ってやしないじゃないか!

無能か? 命を何だと思ってるんだ、こんちくしょう。


そんな俺の言葉に、元首は微笑んでこう言うのみだった。


「行けばわかる」


出撃までの間、俺は元首の住む城の中の一室に監禁状態だった。面会謝絶。アスキーとすら話すことも許可されず、一切の情報が入ってこない。

戦地の情報、俺がどう立ち回ればいいのかわからないのは不安でしょうがなかった。

食事を持ってくる兵に話しかけてみるも、華麗に無視。誰も何も答えてくれない。どうやら、俺と話すなと厳命されているようだ。まるで囚人だ。


次の日の朝、極めつけに俺は罪人のように袋をかぶせられて戦場まで移動させられた。まったくなんだっていうんだ。正直メンタル的にボロボロだ。


「さあ、戦いの始まりぞ」


元首の声。その声を聞いて、なるほどここはまだ後方かと把握する。だって国の長が前線なんて危険区域に身を置く可能性なんてないんだから。


袋をかぶせられたままの俺は誰かに手を引かれて前へ前へと進まされる。

途中手を引く人間が変わる。もうだいぶ歩いた。前線の兵士にしては柔らかい手のその感触に覚えがあって、俺は思わず小さく、本当に小さく尋ねる。


「アスキー?」


この音量でも彼女の耳なら聞こえるはずだ。

はっと手を引く力が強くなる。彼女は小さく小さくつぶやく。


「ごめんなさいミャ。ボクもこんなことになってしまうニャんて思わなかったのミャ……」


それはやはりアスキーの声だった。

申し訳なさそうな声色で、しゅんと落ち込んでいる。

いやそれよりこんなことってなんだ。どういうことだ。


「この間の作戦、あんなに簡単に進んだのはボクが密かにレビアとやり取りをしたからなのミャ……あそこの責任者になった彼女は、屋敷を冒険者に守らせて敵襲が来たらすぐに逃げるよう命令し、自分は襲撃時に席を外していたのミャ」


俺はその言葉でやっとあの時のことが腑に落ちた。

でも待ってくれ、それはいいとしてとにかくこの状況の方の説明が欲しい。


問いかけようとした瞬間、後ろから袋が取られ俺は突然の光に目をやられてしまう。


最後小さなアスキーの声がかろうじて聞こえた。


「ルード君が元首様に頼んだ、人死にを最低限にという条件、そして責任を問われたレビアの処遇がこんな風に嚙み合ってしまうなんて、神様のいたずらなんだミャ……」


アスキーの言葉。

そして俺は目の前にいる一人の美少女を見たことで、状況を察する。

大勢の人を救うにはこれはある意味正しい。

でも、俺にとっては全力で避けたかった戦いがそこにはあった。


そこには、サウ王国高位神官レビア。俺のルームメイトその人が立っていた。


「これから、サウ王国代表レビア、そしてウエス国代表ルードによるこの戦の勝敗をかけた一騎打ちを行う!!」


二人の間に立つ審判の男が、そう宣言した。

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