第12話 最強の彼女、料理を買って出る
俺が数時間の狩りから戻ると、レビアは家具をせっせと編んでいるクミを飽きもせず見つめているところだった。
「ただいまー」
家で待つ人が二人もいるせいで張り切っちゃった俺は、大きめのボア一匹と幼体のウサギ系モンスターを数匹狩ってくるという、大収穫だった。
ウサギ系モンスターは大きくなると筋肉ばかりになってしまうが、幼体であれば肉が柔らかく美味なのだ。
「あ、おかえりなさい。大漁ね。じゃあ、やりますか!」
俺の言葉を聞いて、立ち上がりながら腕まくりをするレビア。
そんな彼女の様子に俺はきょとんとしてしまう。
「やるって、何を?」
「何って、夕飯を作ろうと思ったのだけれど」
こともなげに答えるレビア。
その回答に俺の目から涙があふれてくる。心をなんだか幸福な気持ちが満たす。
これ、女の人が料理を作ってくれる、これってさ、なんだか新婚みたいじゃないか?
自分から料理を買って出てくれるってことはそれなりに自信があるんだろうし、今日は自分のあの『肉、焼く、食える、まあまあうまい!』みたいな粗野な男料理じゃなく、上手いものが食べられるってことだろ!
……いや、待て早まるな。
即座に承諾してしまっては、まるでそのために狩りに出かけたかのようで印象が悪いのではないか。
一回は、遠慮するポーズをとるべきだ。
ふっ、俺も大人になったもんだな。
「そんな悪いよ」
「いいのよ、家具のお礼もあるし」
よし、来たこれ!!
今だ、女の人の手料理、飯! 押せ押せだ。
「じゃあ、頼もうかな。簡単な調理器具は向こうのキッチンスペースにまとめてあるから、自由に使ってくれ」
「おっけー」
そう言って部屋の奥に向かうレビア。
キッチンスペースを先に作っておいた俺、グッジョブ。
そして、各種家具や旅用カバンに入ってなかった木製調理器具を作ってくれたクミ、ありがとう。
俺は一人喜びにふるふると打ち震える。
さて。
急に暇になった俺は、部屋の中をいったりきたり戻ったり。
なんだか落ち着かなくて歩き回る。
「ルード様、落ち着いてくださいよ。そんなにあっちにこっちにいっても、ご飯は早くは出てきませんよ」
「いやそういうわけじゃないんだが。なんていうか、ほら落ち着かなくてな……」
「これだから、童貞は……」
クミが、何か言った気がしたが、そわそわと歩き回る俺の耳には正常に届かない。
部屋をくるくる歩くこと数十週、俺ははっと思い出す。
「そ、そうだ! 水瓶の位置教えてなかった」
キッチンに行く正当な理由を得た俺はちょっとドキドキしながら、足早でレビアのもとに向かう。
新妻にいたずらしたくなる夫の気持ちみたいなやつ?
急に俺が来て、レビアの驚く顔がちょっと楽しみだ。
「なあ、レビア。水の位置なんだが」
そう言いながらひょいと覗き込む。
「なに?」
そう言いながら、キッチンに立つレビアが振り返る。
彼女は大きな包丁を振りおろし、子ウサギ型モンスターを頭のてっぺんから真っ二つに割っているところだった。え、皮剝がないでそんなぶつぎりになさるの?
そして、奥の鍋でぐつぐつ煮込まれている黒い液体はほわっつ?
それ、食用ですか……?
「どうかした?」
分断された子ウサギちゃん。
飛び散る血しぶき。
そして当人はこちらをまっすぐに見つめている……。
なかなかにホラーな絵面。
「ア、ウン。ミズノイチノハナシ」
言葉がちょっとカタコトになったが、なんとか発することは出来た。
オソロシイ、コレガオンナノヒトノリョウリ?
「ああ、水なら自分で出せるから大丈夫」
「ソウダッタネ。サッキクラッタノニワスレテタ、ハハッ」
そう言って踵を返す。
心臓がバクバクする。
どうしよう、俺。
食べるのを拒否ったらレビアに
そして俺には、毒耐性はない。
あの黒い液体を食べて、俺明日を生きて迎えられるかな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます