ルームシェア in ダンジョン
篠騎シオン
第0話 最強の俺、家が欲しい
男に生まれたからには、叶えたい夢がある。
そう、俺は昔から、一国一城の主になりたかった。
それは冒険者になるよりもずっと昔から、そう物心つく前からの夢だった。
と言いつつも、それは国のトップになりたいって話じゃない。
俺はこの国が大好きだからな。
――家だ。
家、欲しくない??
いやだってさ、誰にも邪魔されずに時間を過ごして、自分の好きなものに囲まれた空間って。
控えめに言って最高じゃん?
と言うわけで、男ルード、本日の目標は。
『ダンジョン探索で貯めたお金で家を借りよう』だ!
ん、一国一城の主というなら、家を買うんじゃないかって?
ちっちっち、そこの君、わかってないね、冒険者っていうものが。
冒険者は長い間家を空ける仕事だし、行方不明で生死不明ってなることも多い。
けれどそこそこの冒険者はお金をたくさん持ってるから、家をぽんぽん買ったりする。
するとどうなる?
冒険者に人気の街は、ゴーストタウンになるわけだ。
普段人の少ないそこには、危ない輩が住み着いたりもする。
これが今じゃ、社会問題だよ。
その結果、国の法律で決まったんだ。
『冒険者は管理人を置かない限り家を買ってはいけない』とね。
この管理人の給料がべらぼうに高い。そのせいで、冒険者のほとんどは家を買えなくなったってわけさ。
まあ、俺には他にも問題があるんだけど……。
とまあ、気を取り直して、家だよ家。
今日俺は、町中の様々な組合(冒険者の所属する組合以外は副業で賃貸業をやっている)に住宅の内見依頼を出している。
片っ端から探せば、俺の感性に合う家が見つかるってもんだ。
最初の約束は、っとあともう少しで時間だ。
どんな家に、出会えるかな♪
数時間後の俺はどんよりに包み込まれていた。
……足が重い。頭も重い。心も重い。
俺は全くわかってなかった。冒険者という職業を甘く見てた。
どの組合も冒険者と名乗った途端、にこにこ顔から一転追い出された。
なんでも、いつ死ぬかわからない冒険者に家は貸せない、ということらしい。
数か月前払いするからと頼み込んでも、貸せないの一点張り。
「まったく、どうすればいいんだよ」
口から思わず漏れていってしまうつぶやき。
「そんなの、冒険者だと名乗らなきゃいいんじゃないかニャ?」
俺のつぶやきに間髪入れず知り合いが返答した気がして周囲を見回しても、誰もいない。
俺の空耳か、それとも相手が隠密能力を使ったのか。
「ま、でも確かにそうだよな。正直すぎるのもよくないかもしれない」
俺は数十分後に約束している、たった一つ最後残っていた小さな組合との約束に備え、大急ぎで準備を整えた。
「えーと、それでルードさんは、自分でお店を……やってらっしゃるのですな」
目をしぱしぱさせながら、組合長さんは俺に訪ねてくる。
「あ、いえ、店というよりは、えー、商品をモンス……入手して売ったりとか」
「なるほど、商人さんか。それでそんなに素敵な衣装なわけですな」
気のよさそうな組合長さんはやっぱり目をしぱしぱさせながら、うんうんとうなずく。
……なんだか申し訳なくなってきた。俺の目の前の彼の目が痛そうなのは、明らかに俺のこの成金的金ピカ衣装が原因だ。
その辺の高級店で買い集めた金を大量に施した豪華な衣装は、小さな組合の建物の中でミラーボールよろしくきらきら反射していて、俺ですら目に多少のダメージを受けている。
このご老体である組合長氏の眼球に与えているダメージは計り知れないだろう。
ここはちょっと双方のために頑張り時かもしれない。俺は意を決して言ってみる。
「……そろそろ、家を見せていただくことは可能ですか?」
「それもそうですな。では行きますか」
組合長さんは席を立ち、俺についてくるよう促す。
進歩。進歩だ。
門前払いを喰らっていた時からすると、これは偉大なる進歩だ。
俺は心の中でさめざめと泣きながら、組合長さんに合わせて歩みを進める。
連れてきてもらったのは、郊外の少しさびれたお家。
いや、うん、ちょっと期待外れ感はあるけれど、住めば都っていうし、きっと大丈夫。
「ではどうぞ」
組合長さんに促されて、中に入る。
あーうん、そうね。
うん。少なくとも、金ぴかの衣装の商人が契約しそうな家ではなかったとだけ言っておこう。
さて、次の候補のお家はどこかなー。
「ここはうちの組合で管理する一番いい家でしてね、気に入っていただけましたかな?」
……小さい組合だし、しょうがないよね。
リフォームとかもできるかもだし、住めば都っていうし、そもそももう選択肢がないようだし。
「俺、ここにしま――」
「こら、ミィ! ここにきてはいかんと言っておるだろう!」
俺の決意の言葉は、組合長さんの驚きつつ叱るその言葉で遮られた。
見ると、家具の隙間からかわいらしい女の子が出てくる。
「えへへ、ごめんなさい。ここおばけやしきみたいでたのしくって」
「……こら、お客さんの前でそんなこと言うんじゃない」
子供にお化け屋敷って言われる建物。そして、ここしか住む選択肢がない俺。
静かにダメージを受ける。1秒ごとに続いていく系ダメージだこれ。
「おきゃくさん?」
小首をかしげる女の子だけが癒しだ。ずっとそのままでいておくれ。
「そ、うちの組合で家を借りたいというルードさんだ」
「ルード? ルードってあの、はかいおーのルード?」
……雲行きが怪しい。
「は、破壊王? なんじゃそれは」
組合長さんの言葉に、女の子はにかっと笑って答える。しかもジェスチャー付きで。
「おじいちゃんしらないの? とーってもつよいぼーけんしゃさんだけど、どしんばしんいろんなものをこわしちゃうの!」
うん、なんかこうなる気がしてた。
組合長さんは、孫娘さんではなく俺の方に向き直って尋ねる。
「君は商人ではなく、冒険者?」
誤魔化しはありでも取引において、嘘はさすがになしだ。だから偽名も使わなかった。俺は観念して、正直に答える。
「……はい、モンスターを討伐して素材を商品として売ったりとかしてます」
「そうか……」
しばらく考え込む組合長さん。
頼む。なんとかなってくれ。奥の手もある、今が使い時か。
「すまない。やはり冒険者は――」
「お願いします、もうここしかないんです!!」
ガコン。
俺の華麗な誠心誠意の土下座。プライドをかなぐり捨てた奥の手。
――そしてその土下座が、家を、割る。
ミシミシミシッ
やってしまった悲しいその出来事に思わず天を仰ぐと、割れた家の隙間から青空が見えた。
「すごーい。ほんとうにこわした」
きゃっきゃと笑いながら言う女の子のその言葉と、青空だけが、俺の救いだった。
そうして俺は、各組合の賃貸部門を永久出入り禁止になるとともに、あの女の子と祖父に新築の家を一軒買えるくらいの賠償金を払う羽目になったのだった。
一国一城の主への道は、険しい。
冒険者の俺の旅は続く。
ルームシェア in ダンジョン 本編へ続く
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