KAC20242宿泊体験
綾野祐介
KAC2042宿泊体験
「知らない部屋で食べるカップラーメンもオツなもんだな」
俺は近々引越を予定していて今日は内見に来ていた。いや、内見と言うよりは宿泊体験だ。
俺が泊ったのは最上階の角部屋401号室だ。有名メーカーの建物で四階建だがエレベータも設置されている。広さは1LDKでトイレ・風呂は別だ。
一日一組の体験宿泊なので今日は俺だけだ。部屋にはエアコンやTV、冷蔵庫やベッド、寝具など一泊には十分なものが設置されていた。
実際に入居が始まると、この部屋を借りる人は家具もそのままで借りられるらしい。他人が使った物、ということもあるが潔癖症でもない限り気にしない人は気にしないだろう。少なくとも俺は気にしない。
俺はこの宿泊体験した401号室を狙っていた。家具付きは有難い。今の物はどれも古くなってきていて買替が必要な時期になっていたのだ。持って行かないといけない物は洗濯機くらいか。
俺が引越を予定しているには理由があった。まだ住みだして一か月なのだがもう引越を決意したのだ。それは「出る」からだ。
家賃の安さだけで安直に事故物件を即決したことを俺は後悔している。
「そんなの気にしなければなんともないさ」
友人にはそう嘯いていたが、それは引越の夜に早速お出ましになった。
「カリカリカリ」という何かを引掻く音が俺が寝付いた夜の一時過ぎに聞こえてきたのだ。俺は直ぐに目を覚まして電灯を点けたが特に何もない。
「気の所為か」
再び寝付く。
「カリカリカリ」とまた音がする。
「何だよ」
幾度何を確認しても音がする。ただそれ以外は何事もない。ネズミのそれではない。人間が爪で壁を引掻いている音だ。
そして、その音はそれ以後毎晩のように続いた。俺は直ぐに引越を決めた。
「今度は絶対新築にしよう」
家賃は高いが安心して眠りたいという切実な願いだ。
宿泊体験でやっとゆっくり眠れる。俺は直ぐに眠りに付いた。
「カリカリカリ」
「えっ?」
俺の部屋と全く同じ音が聞こえた。
KAC20242宿泊体験 綾野祐介 @yusuke_ayano
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