UFO襲来

やまよん

第1話

「UFO襲来!?」

「地球の終わりか」

「ついにアポカリプスがやってきた」

そんなニュースが飛び交っていたなんて、僕はちっとも知らなかった。



 僕は就職してからずっと、交通量の激しい中心部で休みもなく働いてきた。もちろんその中で、僕は自分の力も発揮できたし成果もついてきた。充実していたと言っていいと思う。

 だけど最近はどんどん疲れが取れなくなってきて、体も休めと言っているようだった。幸い、随分と貯蓄はあって、多少贅沢してもしばらく生活に困ることはなさそうだった。そこで僕は思い切って仕事を一旦辞め、田舎に引きこもることにした。



「お客さん、グッドタイミングですよ。ここは最近リストに出てきたばっかりなんです」

 不動産屋のお姉さんが愛嬌のある声で話しかけてくる。

 いま僕は憧れのスローライフを送るために、新しい住宅の内覧にきていた。

 

 僕らの目の前には青い海が広がっていた。

 遠くには屹立する山々が見える。

「あの山に名前はあるんですか?」

「ええと、ここではアルプスって呼ばれているみたいですね」

 資料をディスプレイに表示しながら、お姉さんは言った。

 岩肌に雪のラインがいくつも入り、空の青も良く映えている。いい景色だなと僕は思った。

「少し手狭ですが、なかなかよい場所でしょう」

 

 ふと、下の方に目を移すと古い灰色の建築物が見えた。

「あちらはどうされますか?」

 歴史的に意味があるものなのかもしれないが、今の僕には必要のないものだ。

 田舎暮らしとはいえ、せっかくだから住みよい感じにリフォームしていきたい。

「うーん、今回は取り壊しで」

「かしこまりました。そのように手配いたします」

 お姉さんが頭を下げた。


 それから宇宙船でしばらく住宅となるこの星を2,3周散策した。おかげでこれからの生活のイメージが湧いてきた。

「ここに決めるよ」

「ありがとうございます!」

 僕が言うと、お姉さんは嬉しそうに少し飛び上がった。

「サインに先立って、重要事項を確認させて頂きたいと思います」

 こちらをご覧くださいと言って、お姉さんは金色のディスクを取り出して読み取り機にセットした。

「ずいぶん古風な記録媒体ですね」

「こちらで作成されたものらしいですよ。せっかくなのでご用意させて頂きました」

 聞けば地図や生き物紹介だけではなく、写真や音楽までディスクには記録されているという。お姉さんはその中から、いくつかの写真を表示した。画像にはここの生き物が映っていた。

「これがこの星の主たる原生生物となっております。ニンゲンと呼ばれているそうです。ただし保護リスト未登録の生物となっているため、こちらを保護する場合は補助金が下りず、追加オプションとなってしまいます。いかがされますか?」

 僕は少し悩んだが、今回は無駄を抑え自分の生活を優先させることにした。

「わざわざコストをかけてまで保護する必要はないかな」

「承知いたしました。では、こちらにサインをお願いいたします」

 ディスプレイに署名欄が表示され、僕は契約のサインをした。

 



 それから僕は衛星の傍に停泊していた宿泊船まで戻り、不動産屋の店舗スペースの窓から新居となった惑星のクリーニングの様子を眺めた。

 作業船がいくつも到着し、火花を上げながら大地にへばりついた灰色をさっぱりとこそぎ落としていった。そうして、みるみるうちに清掃は終わり、きれいな星が残った。

 何度見ても、小ぶりできれいな星だなと思う。わざわざ銀河系の端まで足を延ばした甲斐があった。ここでのスローライフを想像して僕は胸がときめいた。

 僕ら植物型の生き物は適度な水分と大地を必要とする。その意味でもこの星には僕にぴったりだった。おまけに僕の形によく似た、はるか昔のご先祖様のようなタンポポという植物があるらしい。もう鉢植えみたいな狭い住宅はまっぴらだ。早く体を飛散させて、あちらこちらに根を生やしたい。

 部屋の入り口が開き、お姉さんが入ってきた。どうやらクリーニングが終了したらしい。

 お姉さんは恭しく頭をさげてから言った。


「作業完了いたしました。それでは、こちらチキューでの生活をお楽しみ下さい。この度はご契約ありがとうございました」

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UFO襲来 やまよん @yamayon4

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