五帝崩しの鬼人武者

川崎俊介

第1話 ドラゴン狩りのサムライ

「おうおう、よく燃やしなさる」


 燃え盛る城郭を前に、1人の尼僧が呟く。辺りは血の海だというのに、彼女だけが愉しげに戦場を歩む。


「あれほどの名家といえど、竜の猛威を前にしては無力というわけですか」


 和国を治める将軍家は既に滅亡していた。第九代将軍、扇ヶ谷博秀おうぎがやつひろひでは、五帝の一人にも数えられる名君であった。


 が、他の五帝の不興を買い、あっけなく殺されて城はこの有り様だ。


 ちなみに、他の四人の五帝のうち誰が犯人なのかは分からない。五帝会議中に重傷を負い、そのまま亡くなった。


 世界を五分割して支配する権力者、五帝。その一角が陥落した事実は、瞬く間に世界を駆け巡った。その知らせは、散り散りになっていた竜人族を再び結束させ、将軍家を攻め落とさせるには十分だった。


 見上げると、火を吹き得意気に旋回する紅の竜。地上には、鎧武者を引き裂き、女子供を食い漁る竜人の群れ。


「炎竜アグニ様に続け!」


「好きなだけ蹂躙せよ!」


 迎え撃つ武者の刀では竜人の鱗を斬れず、皆戦意喪失していた。


 全く、情けない。


 そんな竜人の群れを押し退け、俺は走り抜ける。


 そして叫ぶ。


「のんびり世の無常を嘆いている場合か! 手を貸せ、鄙火ひなび!」


 俺は十三匹目の竜人の首を投げ捨て、尼僧に声をかける。


「言われずとも、閑厳どの」


 鄙火は背中の弓を引き抜き、滅茶苦茶に射る。


 矢は次々と城の壁面に刺さり、斜めに連なった。


「全く。偉そうに安全圏から火を吹きやがって。気に食わんよなぁ!」


 俺は思い切り跳躍し、矢を踏み台にして空へ駆け上がる。法力を纏った鄙火の矢は、斥力で以て俺の足を弾き、飛び上がるのを助けてくれた。


「派手に跳びなさる。まるで天狗のよう。さて、最後に一発」


 鄙火は弓を掲げ、天高く矢を射った。


「歩法……」


 俺は宙を舞い、今まさに落下せんとする鄙火の放った矢を蹴り跳ばした。


「乱風の肆【矢踏舞やぶみまい】」


 その反動で勢いをつけて急降下し、竜の頭を穿ち抜いた。鱗を砕き、頭蓋を貫き、脳漿を掻き回す。


「死ねよ、大蜥蜴風情が」


 アグニとかいうらしい竜は、そのまま墜落し、俺の刀は竜の頭を両断した。


「ふふ、こんな滅茶苦茶な技、もはや歩法とは呼べますまい」


 不敵に笑う鄙火を尻目に、俺は血に濡れた大太刀を納めた。

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