秋葉原のサーバー見学会に向かう、男性配信者が見た衝撃的な事実

アーカーシャチャンネル

始まりは唐突に、終わりは予想外に

 彼は上野駅までやってきていた。


 その理由は、とあるサーバーの無料見学会があるという話を聞いたからである。


 このサーバーの無料見学会は、抽選のレベルが激しいことで有名で、オークションアプリなどで見学会のチケットが転売されるレベルだ。


「さて、ここから秋葉原へ……」


 私服姿の配信者の男性は、上野駅から電車で秋葉原駅へと向かう。


 見学会のチケットは自力で入手したものであり、転売ヤーからは購入していない。


 実際、購入していたらしていたで数回のチェックで無効化されるし、無料で手に入るチケットに数百万を出すほどの価値があるのかどうか……。



 秋葉原駅から出て、徒歩数分……見た目としてはレンタルサーバーの会社とは思えないようなビルを発見する。


 実際、すでに数人ほどの見学希望者が入り口におり、会場のオープン待ちと言う具合か?


 早く聞過ぎたというわけではなく、右腕に付けた腕時計を確認すると、その時間は午前10時を回っている。


 並んではいるものの、特に先着順で入られるわけではなく、入り口の受付で時間を確認しているのだろう。



 それから10分くらい経過し、ようやく彼も入ることができた。


 エレベーターで該当する階へ移動することになったが、2階だったのである。


 エレベーターの扉が開き、そこにいたスーツを着た男性に誘導され、彼と数名の人物がとある場所へと案内された。


 入り口にはサーバー見学会のはずが、まさかの記載があって驚くしかない。


「話と違うじゃないか!」


「我々が見たいのはサーバーだ。この部屋を見に来たわけではない」


 一部の人物が案内した男性に抗議するのだが、次の瞬間にはその男性は姿を消した。


 一体、どういうことなのか……と思ったのは講義に参加していない人物、及び配信者の男性も一緒だったのである。


 一番驚くことになったのは、抗議した男性二名だが。


『申し訳ないが、抗議していた二名には……そのままご退場を願おう。すでに同じようなことをして、強制退場になったのは複数名いる』


 設置されている特殊なスピーカー経由で聞こえてきたのは女性の声だが、若干のノイズが混ざっている気配もした。


 ノイズだけであれば、まだ分かるかもしれないが……いわゆるボイチェンなどとは異なり、喋っているのは女性だろう。


 しかし、その声にはどのアニメやゲーム作品にも当てはまらない声なので、そういう可能性も否定できない。



 案内された部屋には、未来の秋葉原を思わせるようなメタバース空間が展開されていたのだが、実際にはVR空間の類ではない。


 あくまでも、この空間は「住宅の内見」である。つまり、ここで内見するものとは……そういう事なのだろう。


『皆様は、この空間を見て驚かされる人も多いかもしれませんが……これが我々の生み出したサーバーで実現可能な光景なのです』


『いくら高価なサーバーでも、回線などの関係でここまでのものが出来るとは思えないでしょう。しかし、我々にはできるのです』


『その証拠が、こちらになります』


 先ほど、迷惑な客を強制退場させた人物の声が、ここでも響き渡ることになった。


 彼女が見せたのは高画質なメタバース空間だけではない。屋上に設置された太陽光発電パネルと風力発電システムである。


 まさか、こういうシステムでサーバーを動かしているとは、と。


『これだけのサーバーがあれば、皆様の思い浮かべるような世界を構築するのも容易とは思えませんか?』


『我々には、それだけの力があります。魔法とか錬金術、それこそ海外産の技術を使った物ではありません。素材などは輸入せざるを得ないものもありますが、ほぼ国産技術で生み出されたものです』


『サーバーレンタル料金は、いわゆるクラウドファンディングで集めるので……あなた方はわずかな資金、もしくは条件次第で無料でお貸しできますよ』


 まさかの発言が飛び出す。


 サーバーレンタル料金、月換算でわずか2000円にも満たない値段で運用できると思ったら、そういうからくりだったのだ。


 その条件は、資料を読んでいないので具体的には分からない。


 しかし、ろくでもない内容を出してくるだろう、と考えてしまったのである。



 それからしばらくして説明会は終了し、資料を手にビルを無事に出ることができた。


 受付にいるのは普通にアルバイトと思わしき男性だったが、今回の説明会で姿を見せていたのは、何とAIアバターだったのである。


 それを踏まえれば、あのノイズの混ざった声も納得がいくだろうか?


 企業がサーバーレンタルに二の足を踏んでいた理由も分かる。


 この会社の正体が、いわゆるAIアバターの開発をしている企業が運営していた会社……反AI勢力にとっては、ここほど襲撃して潰したいと考える人物がいると容易に想像は出来る。


 だから、転売ヤーも反AI勢力にこの会社をつぶさせるために、見学会のチケットを……と考えるのが普通だろう。


 転売ヤーとしてはカモと言えるような人物がいるので、儲けることが可能だ。


 反AI勢力としては、この会社をつぶせば『自分こそが英雄だ!』という事で「バズる」のは間違いない。


 しかし、反AI勢力もこのビルへ潜入するのはあきらめている節があって、今回のように抗議をして出入り禁止になるようなケースは……稀だ。


「あのサーバー、確かにVTuberとして運用するには……非常に魅力的だった」


 サーバーの仕様書などを見て、これは非常に大きな話だと思うのは間違いない。


 条件さえそろえば無料で運用できるので、それも非常に大きいのだが……。


 残念ながら、彼はその条件を満たす要件を持っていなかった。それでも月に2000円弱でレンタルできるのは魅力だが。


【SNSで悪意ある炎上を展開し、そこで不正な利益を得ようとする企業にはサーバーを貸せません】


 この条件を見て、彼はこのサーバーのレンタルをあきらめることにしたのである。


 不正な利益を得ようとすれば炎上するのは目に見えているが、ここで言う悪意ある炎上はあまりにも彼にとって、取り扱いに難しい部分があった。


 結局、無料の内見を体感できたのは大きかったが、このサーバーを運用するために想定していたVTuberの路線を変更するべきなのか……悩んだ末の選択である。


(しかし、路線を変えれば……レンタルは出来るのか。ここは、相談してみるか)


 ここで言う相談とは、VTuberのモデルを作成した人物だろう。


 路線を変更すれば、とは言うが炎上しないギリギリを狙って配信する配信者を考えていたので、それを踏まえたデザインになっていたのだ。


 炎上してからでは遅いので、路線変更及びサーバーレンタルも含め、彼は秋葉原駅へ向かう途中で一本の電話を入れることにする。



 その後、彼が無事にサーバーレンタルを出来るようになり、炎上系ではなく反炎上系配信者としてネットマナーを教えるVTuberになったのだが、それは別の話でもある。

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