第4話
視力はあまり良くないのか、僕たちの動きにゴブリンの反応が一瞬遅れる。
先に飛び出していた智也が、ゴブリンが木の槍を構えるよりも早く、勢いよくハンマーで額を振り抜く。
「ギィ!」
智也のハンマーが額にクリーンヒットしたにも関わらず、少し後ずさるだけだった。
出血した様子もない。
「コイツ!全力で殴ったのに、殴った感触がない!」
「まじか…」
普通に考えてゴブリンの体の大きさにあれだけ強打したら、大怪我は免れないだろ。
なにかからくりがあるのか?
「ギィ…ギャアアア!」
智也が一瞬動揺した隙を、ゴブリンは見逃さなかった。
体に紫のオーラを纏い、先ほどとは比べ物にならないスピードで智也を押し倒す。
「しまっ…!」
「智也ッ!!」
その衝撃で、智也の手からハンマーがどこかに飛んでいってしまう。
馬乗りの状態のゴブリンは勝利を確信したのか、子供を殴っていたときのような獰猛な笑みを浮かべ、ゆっくりと槍の先端を智也に向けた。
智也が死ぬ。
僕のせいで。
僕が智也のカバーに入らなかったから。
僕が智也への攻撃に気付けなかったから。
たった数分話すだけでも、良いやつなんだなってすぐわかった。
謎の眠りから覚めた後も冷静な判断で僕を救ってくれた。
その智也が?
僕のせいで?
死ぬ?
そんなの
絶対にッ
「許せないッ!」
その時、その想いに呼応するかのように、風が起こり、全身からさっきのゴブリンと同じ紫のオーラが出現する。
何となく使い方はわかった。
漂うオーラを制御し、全身に隈なく密着させ、半身に構える。
さっきまでの恐怖が嘘のように消えた。
智也は唖然としながら、僕を見ていた。
僕の変化に気づいたのか、ここに来て初めてゴブリンが焦り、動きが止まる。
「グギャギャ?!」
遅れて智也に早くとどめを刺そうとするが、とても遅く見えた。
体を前に倒し、右足に力を込め、勢いよく踏み抜く。
それだけで地面は抉れ、砂埃が舞い散る。
地面スレスレを飛んでいく。
姿勢を低くして、突進の勢いのまま全力で殴りつける。
「そこをどけえ゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ッ!!」
「ズンッ」と重たい音がして、ゴブリンの顔に拳がめり込んだ。
バキバキと骨が折れる音がするが、もう、何も思わなくなった。
拳を振り抜くと、ゴブリンは反対側の民家にすごい勢いで突っ込んでいった。
半分以上が崩れ、もう半分も数秒するとヒビが広がり、崩れ落ちた。
砂埃が収まると、そこにはゴブリンの姿はなかった。
逃げたか?
いや、骨が折れる音も聞いたし、少なくとも無傷ではないだろう。
それか瓦礫の下に埋まっているのかもしれない。
オーラを解かずに、崩れた民家まで行き、瓦礫をかき分けながらゴブリンを探す。
「ん?」
すると、瓦礫の下の方に紫に輝く小石を見つけた。
僕が纏っているオーラを固形化したようなもののようだ。
恐らくゴブリンの死骸はオーラになり、圧縮されたのだろう。
ゴブリンが死んだと確認できたため、オーラを解き、急いで智也のところに戻る。
「智也!大丈夫か?」
ぱっと見、怪我などはなさそうだが、念の為聞いておく。
智也はハッとすると、ゆっくりこちらを向いて言った。
「あ、ああ、俺は翔のおかげでほぼ無傷だが…あのパワーは一体何なんだ?それにあの紫のオーラは一体どこから出てきた?」
僕自身わからない部分もあるので、オーラが出現する少し前から順に説明していく。
「…」
説明を終えると、終始無言で聞いていた智也が、口を開く。
「…そうか。改めて助けてくれてありがとな。もしあのままじゃ死んじゃってたし」
「僕こそもう少し早く動けていれば、智也が危険な目に合うことがなかったのに。ごめん」
「なーに謝ってんだよ!俺は生きてるから問題なしだ!それよりも早く学校に行こう。またいつ襲われるかわかんねーし」
まっすぐに僕を見てそう言ってくれて本当に嬉しかった。
力強く頷く。
「そうだな。行こう」
そうして僕たちの初戦闘は、終止符を打った。
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