天塚葵の初恋
@Saori05
第1話 2019年6月1日 有田純平
有田純平は背中に感じる仄かな温かさを感じつつ、
原付で人っ子一人も見ない田舎道を走らせ、潜考していた。
考えているのは自分の腰に手を回している幼馴染、
天塚葵のことである。
身長は男子勝りの173cmあり髪は「黒」というより「漆黒」と行った方がいいぐらいの深い色をしている。そして、学校に比較対象がいないほどに美人である。斯く言う僕も初恋を捧げた一人である。
尚且つクラスメイトの中でも特に大人びた雰囲気を纏っているため男女問わず好かれており、彼女の周りには人が絶えない。
委員長ではないけれど同じ位の発言力があり、
影の委員長、
いや影の生徒会長と、そんな噂をする人達さえいる。
そんな彼女だが、一つ奇妙な点があるのだ。
それは、彼女からあまりにも人間味がしないことだ。
人間、何かしら他人と関わると味が出るものだと思う。
クラスメイトのいつも冷静な田村くんは興奮すると早口で解説し出すし、よく笑う小川さんは怒る時眉間に皺ができて舌打ちで喧嘩試合のコングを鳴らす。
そんな+(プラス)が−(マイナス)に−(マイナス)が+(プラス)に変わる感情の動き、そんなものがまるでない。
天塚葵は常にテンションが変わらないのだ。
表情が変わらないわけではない、
嬉しい時は笑うし、
悲しい時は眉が下がる。
ただ、それがまるで作り物かのように感じられる。
メン・イン・ブラックに出てきた宇宙人みたいな感じだ。
まるで感情のボタンを押して表情を変えているような。
「喜」のボタンを押せば口角が上がり頰の筋肉は活動を始め、
「怒」のボタンを押せば眉間に皺ができて目が細まるような、
まるで彼女が機械なのでは無いかと錯覚してしまう。
或いは彼女を凪のようだと思う時もある。
哀しい時も
楽しい時も、
感情の動きで起こる風が他の人よりも圧倒的に少なく、
他の人が突風によって柳の葉が互いに擦れ合って重奏を奏でる中、
天塚葵には小風が一本の大木を凪いでいるかのような、
そんな無常ささえ僕は感じるのだ。
しかしそんな彼女を心の底で不気味と思いながらも、
異端と囃し立てながらも
僕等は彼女に寄って行ってしまう。
S極の磁石はN極に引かれるように、
誘蛾灯に群がる虫のように、
あまりにも強大な「天塚葵」という個に矮小な僕等は逆らえない。
不思議と形容することさえ生ぬるい魅力が彼女にはある。
僕は小学校の頃から11年間の幼馴染だが未だに彼女を把握しきれていない。ただ今分かるのは、彼女は今から家出をするということ。そのぐらいしかない。
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